東京・永田町の議員会館で4月1日、朝からロビイング活動に励む少女の姿があった。いくつもの部屋を回り、何人もの国会議員と会い、自分の窮状を懸命にうったえた。

彼女が伝えたかったのは、ビザが出て日本に残りたいこと、健康保険に入れないので姉の医療費がかさむこと、そしてクルド人に対するヘイトスピーチのことだった。(ライター・織田朝日)

●ある日を境にビザを奪われてしまった

クルド人である少女は、5歳のときに家族と共に来日した。しばらくは特定活動ビザがあったが、3年ほど前に難民申請が却下されたことでビザを失った。

それまでは、そこまで苦労することがなく、ストレスを抱えることもなく、平凡で、特に支障のない生活を送っていた。

ある日、入管に家族ごと呼び出されて、ビザを取り上げられてしまった。日本にいられなくなる悲しみと、今までの生活が一変してしまう不安で怖くて涙が止まらなかった。

以来、不安定な立場である「仮放免」の状態で過ごしている。ビザがなければ、保険証もなければ、高校の学費も無償にならない。何をするにもお金ばかりかかってしまう。

●再びビザを得るために境遇をうったえた

2023年、改正入管法が成立することで日本にいられなくなることを恐れて、なんとか止めようと、ほかのクルドの子どもたちと一緒に何度も議員会館へ向かった。

院内集会や国対ヒヤリングに参加して、野党の議員たちに自分たちの苦境をうったえた。努力の末か、多くの日本生まれの子どもたちに在留資格が出ている。

しかし、最もがんばった一人である彼女には、いまだにビザが出ていない。理由は「日本生まれ」ではないからだ。

それでも日本に残りたい――。再びビザを得るために行動しようと、高校2年の春休み、国会議員たちに直接、自分の境遇をうったえることにした。

運よく立憲民主党社民党共産党、沖縄の風の議員たちに会って、直接話をすることができた。4月1日は朝からスタートして、夕方までかかり、力尽きている様子だった。

彼女の姉は出産費用に100万円以上かかっている。そのうえ胆石があり、40万の医療費が払えていない。家族思いの彼女は、姉のことを気にかけている。

学校では、将来を夢見て、友だちと学業に勤しみ、生徒会にも入っている。

●悪意を持つ人が祭りに入ってきた

3月23日埼玉県南部に暮らすクルド人たちが、さいたま市の秋ヶ瀬公園で、年に一度の新春の祭り「ネウロズ」を開いた。

この日は晴天で、暖かい日差しのもと、1000人も集まった。色鮮やかな民族衣装に身を包み、普段の辛いことを忘れるかのように満面の笑みで踊り続けた。

今年はたくさんの日本人も来ていて、キッチンカーのケバブ屋は長蛇の列で大人気だった。

しかし、残念なことに、そんなひと時の喜びに影を落とす出来事があった。

戸田市の市会議員らが入ってきて「テロリストの祭りは許せない」と抗議し、警察やスタッフと衝突して、一時騒然となったのだ。

クルド人に対するヘイトスピーチが問題になる中、このように悪意を持つ人たちが次々と祭りに忍び込もうとしてくる。

ただの伝統的な祭りになぜそこまで憎悪を抱くのだろうか。

●ウソと中傷がたくさんあふれている

少女はとても心を痛めていた。「どうしてクルド人がこんなに悪く言われるのだろう?」。

たしかに悪いことをするクルド人もいるかもしれない。でもそんな人ばかりではない。

自分は真面目に高校で勉学に励んでいる。友人とも仲良くやっていて、誰かに迷惑かけることなどしていない――。

2年前からネット上で、デマを交えてクルド人を悪く言う声が相次ぎ、TikTokを見ると辛くなることばかり流れてくる。

彼女はSNSを見るたびに不安になる。クルド人がやってもいない事件まで、クルド人のせいにさせられ、ウソと中傷がたくさんあふれている。辛いけど、どうしても見てしまう。

同級生はクルド人への中傷について「あなたのことを知らないから悪く言うんだよ」と慰めてくれるという。「友だちが味方してくれることに救われる」。

●私には基本的人権がないのでしょうか?

学校で「基本的人権」について習った。

「私には基本的人権がないのでしょうか?」と教員に質問すると「わからない・・・」という困ったような答えが返ってきた。

人間である限り、基本的人権がなければおかしい。私にはそれがない――。

日本にいたい。母国にいたときのことはほとんど覚えていない。帰ることは考えられない――。

がんばって大学に行って、自分も家族も在留資格を取れるようにしたい――。

まだ高校生ながら絵本を出版している。『わたしは十五歳』(原案=アズ・ブローマ)。彼女の日本での悲しい体験が書かれている。

ビザがないというだけでいかに人権が失われるのか、この本を手にとれば理解できると思う。彼女のことをより多くの人に知ってもらえれば、とてもありがたい

クルド人少女の苦悩「私には基本的人権がないのですか?」 ヘイトスピーチに心を痛めながら将来を夢見る