アニメーションの起源は旧石器時代にまでさかのぼるかもしれない。人類最古の絵画と言われている約3万2000年前に描かれたとされる、フランス南部アルデシュ県にあるショーヴェ洞窟壁画は、連続した動きのある絵である可能性が高いという。

  トゥールーズ II – ル・ミラ大学の考古学者のマーク・アゼマ氏と画家のフローレント・リヴィエール氏が行った研究によると、壁画に描かれている動物は全て通常より多い本数の足、頭、尻尾が描かれており、これは絵を重複させる技法で、ちらちらとした炎の下で見た場合、まるで壁画に描かれた動物が動いているかのように見えるのだという。

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 考古学者のアゼマ氏は20年に渡り、旧石器時代のアニメーション技法を研究しており、フランスにある洞窟から過去にこういった「重ね掛け」を行っている壁画を53個も発見したのだそうだ。ここで描かれる動物たちは全て速足で駆ける姿や、尻尾や頭を振り回す姿を忠実に再現されているのだ。

ショーヴェ洞窟にある壁画の一つ。ちらちらした蝋燭の火の下で見ると、壁画が動いているように見える。これは光学現象の一つである「残像現象」を用いている、と研究者は語る。

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 「ラスコー洞窟(注:フランス西南部に位置する洞窟で1万5千年前の旧石器時代後期・クロマニョン人によって描かれた壁画が幾つも存在する)で、私は最も多くの「重ね掛け」技法を用いた壁画を発見した。この洞窟では20種類以上の動物たちが描かれており、全て通常より多くの足・頭・尻尾が描かれていた。この絵を松明の明かりの下で見ると、まるで命を吹き込まれたかのように動いて見えるのだ。」とアザマ氏は語る。

 アゼマ氏とリヴィエール氏の予想はソーマトロープを用いた旧石器時代の玩具が発見された事でより信憑性を帯びてきた。ソーマトロープとは1824年に天文学者のジョン・ハーシェルが発明し、ヴィクトリア朝時代に人気を誇ったディスク状の玩具である。

 このディスク状の玩具は両面に絵が描かれており、ディスクの両端に水平になるように2本の紐を取り付け両側から素早く振り回す事で、裏表に描かれた二枚の絵がまるで一枚の絵に見えるようになるものである。

ジョン・ハーシェルのソーマとロープ

 しかし今回の発見でソーマトロープのような機械式光学玩具はジョン・ハーシェルが発明するはるか以前に作られていたという事がわかった。今回発見されたソーマトロープの玩具は動物の骨から作られており、これまではただのボタン、もしくはペンダントだと思われていた。しかし研究者等が中心にある穴に糸を通し、両側から引っ張ってみたところ、ソーマトロープだという事が判明したのだ。

旧石器時代ソーマトロープ

 特に1868年にフランスのドルドーニュ県で発見されたディスクは今回の研究結果を裏付けるもので、片面には座った動物の絵が、もう片面には立った状態の動物が描かれていた。

 このディスクをソーマトロープのように回転させる事で動物が立ったり、座ったりする一枚の絵が現れたのだ。アゼマ氏とリヴィエール氏はこれを「人類が映画を作ろうとした初めての試みだ」と語っている。

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