
特定非営利活動法人「消費者機構日本」(東京都千代田区)が4月28日、芸能人養成学校を運営する「アカデミー・エンターテイメント」(旧社名「エーチーム・アカデミー」)に対し、既に退学した受講生に対して入学時諸費用のうち31万円を返金させることを目的とした「共通義務確認訴訟」を提起した。
この日、会見に臨んだ「消費者機構日本」の代理人弁護士によると、これまで同機構に20数件の相談があった他、全国の消費者生活センターには70〜80件の相談が寄せられているという。同機構では、対象となる消費者は5750名〜7600名、損害額は17億8250万円〜23億5600万円にのぼると推計している。
会見で同機構は「被害が疑われる場合には、消費者ホットライン(電話番号188)や消費者機構日本に問い合わせをして欲しい」と呼びかけた。
●問題となった「入学時諸費用」徴収のしくみ4月28日に、消費者機構日本が霞ヶ関・司法記者クラブで行った記者会見などによると、今回問題となった芸能人養成学校の「入学時諸費用」については、以下のようなしくみが存在した。
・グループ企業である芸能プロダクション「エー・ライツ」が随時主催しているオーディションに合格すると、被告業者(「エーチーム・アカデミー」)に受講生として紹介される。
・受講生が入校する場合、「入学時諸費用」として38万円プラス消費税(41万8000円)を支払う。
・オリエンテーション実施日以降は、退校の時期を問わず、入学時諸費用は一切返金されない
また、被告業者はこのようにして支払われた入学時諸費用のうち33万9000円を、エー・ライツに対し、オーディション開催のための一部実費負担として支払っていた。
●裁判所は7万円までしか取ってはならないと判断消費者機構日本は、今回の訴訟に先立ち、返金を認めない規定が消費者契約法9条1項に反するとして、この規定の差し止め請求訴訟を提起している。
これに対し、裁判所は「38万円から7万円を超えて返金しないとの意思表示をしてはならない」(=7万円以上は返金)という判決を下し、最高裁で確定した(最高裁令和6年(2024年)3月15日決定)。
この判決は、あくまでも被告業者の「これから先の」受講生との関係での入学時諸費用の返金についての話である。
「これまでに」入学時諸費用を支払ったが退学し、返金を受けられていない消費者の救済はされていない。
そこで、消費者機構日本は、被告業者に対して、2024年4月3日に、38万円から7万円を控除した31万円の支払をするよう申し入れたという。
これに対し、被告業者は同年5月2日に、自主的返金を行う予定はないとの回答書を消費者機構に対して送付した。
消費者機構日本によると、被告業者が返金を拒絶した理由は、1)退学の時期などにより、被告業者が被った損害評価が一律でなく、個別性が高いため一律返金が困難であること、2)被告業者の財政面からして一律返金が現実的に不可能であること、などであるという。
●共通義務確認の訴えとは「共通義務確認訴訟」は、身近な消費者被害の回復を図るために導入された制度だ。
これまで、多数の消費者が被害を受けた場合でも、1つ1つの被害が小さい場合、それぞれの消費者は「弁護士に頼んでも費用倒れしてしまう」などと考えて泣き寝入りしてしまうおそれがあった。
そこで、2016年10月の「消費者裁判手続特例法」施行に伴い、「特定適格消費者団体」という団体が、それぞれの消費者の代わりに訴訟を提起することができるようになった。
しかし、このような制度の存在や、被害救済が行われていることを知らない消費者も多く、救済が難航することも考えられるという。
共通義務確認訴訟で消費者機構が勝訴した場合、その旨が各被害者に通知・公告され、各被害者が入学時諸費用の一部の返金を受けることができる可能性がある。
同機構の代理人弁護士は「被害を受けた可能性のある方は、問い合わせをして欲しい」と強調していた。

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