アニマルセラピーという言葉もいまや当たり前になり、動物を大事な家族として迎えている家庭も多い。またメジャーではない種類の動物と触れあえる動物カフェもさまざまな場所で見られるようになり、いまやあらゆる動物と人間は“切っても切れない”関係になりつつある。その影響はドラマや映画といった創作の世界でも顕著で、動物と人間の絆や交流をテーマにした名作は枚挙にいとまがないほど。全国のJ:COMエリアで視聴可能な無料チャンネル「Jテレ」では、多忙を極める現代にこそ必要な、無垢な愛と信頼を向けてくれる動物と人間の心洗われる物語を放送。連休を前にしたこの機会に、日本人にとって馴染み深い傑作映画を紹介していく。

【写真】田中麗奈“あかり”と愛犬ソックスが駆け抜けた人生

■犬の十戒をモチーフにペットと飼い主の絆を描いた「犬と私の10の約束」

「犬の十戒」とは、インターネット上で広まった作者不祥の短編詩。犬から飼い主への“10の願い”として書かれた内容で、ペットを飼った経験のある家族を中心に大きな共感から話題になった。

その約束とは、「1.できるだけ一緒にいてください」「2.気長に待ってください」「3.信じてください」「4.怒りすぎないでください」「5.話しかけてください」「6.考えてみてください」「7.たたかないでください」「8.気付いてください」「9.歳をとってもお世話をしてください」「10.お別れのとき、そばにいてください」。

古来より“人間の最良の隣人”とも言われる犬。もちろん1匹1匹違いはあれど、賢さや従順さ、そして人が大好きという特徴は共通している。そんな犬の願いを表した“十戒”は、犬を飼ったことがある人なら納得の内容ばかり。そして同詩をモチーフとして、ペットと飼い主の絆を10年に及ぶ生活とともに綴ったのが映画「犬と私の10の約束」だ。

本作はヒロイン役に田中麗奈幼馴染の青年役に加瀬亮、ヒロインの父親役には豊川悦司が出演。物語は函館で暮らす14歳の少女のもとに、子犬のゴールデンレトリバーがやってきたところから始まる。少女の母は犬を飼うとき、少女へまず動物を飼う上で守らなければいけない“10の約束”を教えた。

この約束を交わした瞬間から、少女・あかり(田中)と子犬(ソックス)は一緒に大人への道を歩き始めた。あかりの人生は、一般的な家庭と比べても波乱万丈だ。14歳という早さで母の死を経験し、心理的なショックから首が動かせない時期もあった。しかしそんな絶望のさなか、彼女を救ったのがソックス。無邪気で優しい顔つきのゴールデンレトリバーであるソックスは常にあかりに寄り添い、支えてくれる。

そんなソックス自身も親元から離されたことを知って苦悩し、父の辞職、初恋や仕事、愛する人を支えるため奮闘するあかり。そんな紆余曲折を経験しながら歩み続けるあかりソックスの人生を、決して逃れられない“別れ”まで丁寧に描いていく。

大切な家族であるペットの幸福は、やがて来る別れまでに“どれほどの愛情を与えられるのか”にかかっている。人間同士となんら変わらない“絆”のあり方が、寿命の異なる家族だからこそより凝縮した短い時間のなかで問われる。“犬の十戒”を通して、隣にいるのが当たり前の家族との向きあい方を深く考えさせられる傑作だ。

■実話から生まれた子ぎつねと少年の交流を描く「子ぎつねヘレン

竹田津実の実体験を元にしたベストセラー「子ぎつねヘレンがのこしたもの」を映像に起こしたのが映画「子ぎつねヘレン」。本作は獣医である竹田津実が経験した実話から生まれた、北海道の大自然を舞台に目と耳の不自由な子ぎつねと少年の心の交流を描いたノンフィクションタイトルだ。出演は大沢たかお、松雪泰子、小林涼子、深澤嵐ほか。

二人暮らしをする獣医・矢島幸次(大沢)と娘の美鈴(小林)のもとに、ある日矢島の恋人である律子(松雪)の息子・太一(深澤)がやってくる。やがて結婚を視野に入れている2人の間柄ということもあり、ひと足先に太一が矢島家へゆだねられた形だ。

ある日、太一はひとりぼっちの子ぎつねに出会う。親とはぐれたらしい子ぎつねに自分を重ね、矢島の診療所に連れて帰る太一。しかし矢島は子ぎつねが手を振っても音を立てても無反応という状況を見て、目も耳も不自由と診断する。矢島が同じ境遇である偉人ヘレン・ケラーに見立てて説明すると、太一は子ぎつねを「ヘレン」と名付けて一生懸命に育てることを決意。体力がつけば手術を受けることができ、もしかしたらヘレンの症状が改善するかもしれない…そんな希望を抱いて。

子どもと動物という純粋無垢の塊のような同作。大人の事情に振り回されず、弱きを助けようとする太一の行動や心情には涙を禁じ得ない。しかしなによりも同作を名作たらしめているのは、実話をもとにしたタイトルだからこその結末にある。すべてを乗り越えた太一に“のこされた”ものを含めて、ヘレンという命が懸命に生きた結末だ。

ある意味で違う時間の流れを生きる人間と動物。だが死んだあとでも、何かが残り続けるのはどちらの生き物でも変わりない。苦しみのなかでもひたむきに生きようともがく強さ、運命にも思える障害に全力で立ち向かう姿…そのいずれもが、見る者にさまざまな感情を与えてくれる。

なお前述の「犬と私の10の約束」と「子ぎつねヘレン」は、ともに北海道が舞台。全国のJ:COMエリアで視聴可能な無料チャンネル「Jテレ」では、5月に両作が放送される。「犬と私の10の約束」は5月4日(日)夜9時から、「子ぎつねヘレン」は18日(日)夜9時からオンエアだ。

複雑でつらいことも多い世の中、心を休めるのにもエネルギーが必要。外出して直接動物に触れることが難しいなら、今回紹介したような映画や創作でリフレッシュしてみるのもいいかもしれない。

「子ぎつねヘレン」/(C)2006「子ぎつねへレン」フィルムパートナーズ