ハリウッド映画界でAI技術への警戒感が高まるなか、あえて人工知能を創造的に活用した野心的な長編映画プロジェクトが始動したと、米ハリウッド・レポーターが報じている。演技派俳優にして演出経験も豊富なナターシャリオンと、「バーチャルリアリティの父」と称されるジャロン・ラニアーというユニークな顔合わせによる本作は、映画産業におけるAI活用の新境地を開く可能性を秘めている。

アステリア・スタジオが手がける「アンキャニー・バレー(原題)」は、「没入型ビデオゲームの世界を舞台とした」特徴的な作品で、AI技術を豊富に取り入れる計画だという。

同作はアステリア社のパートナーであるムーンバレー社が開発した「Marey(マレー)」と呼ばれるAIモデルを活用。これはRunwayやOpenAIなどの他社製品とは異なり、著作権がクリアされたデータのみで構築された「クリーン」なモデルとされている。

注目すべきは、バーチャルリアリティの先駆者として知られるラニアーの参加だ。彼は1980年代初頭にVR(仮想現実)製品を販売する最初の企業VPLリサーチを設立し、「バーチャルリアリティ」「ミックスドリアリティ」という用語を生み出した人物である。

ポーカー・フェイス」や「ロシアン・ドール」などに出演し、数多くの作品で演出経験もあるリオンが監督を務め、「The OA」「マーダー・イン・ザ・ワールドエンド」のブリット・マーリングとともに脚本も共同執筆。両者は映画にも出演する。物語は「パラレルな現在」を舞台に、人気の拡張現実(AR)ビデオゲームに夢中になる10代の少女ミラが現実感を失っていく様子を描く。

AI技術のハリウッドでの活用については賛否両論が渦巻いている。ジェームズ・キャメロン監督はAIが「新しい波」の物語を生み出すことに期待を示す一方、多くのクリエイターはカメラの前後での職が失われることを懸念している。実際にリオン自身も以前、AIが「アーティストが作品を発表する能力を完全に崩壊させる」可能性を心配する発言をしていた。

一方で今回、リオンはAIが「倫理的かつ創造的に使用された場合」に可能になることは「驚くべき」もので、「AIは画面上でより大きなビジョンを可能にするが、アーティストの権利をめぐる無数の複雑な問題とも向き合わなければならない」と新たな視点を示している。

「アンキャニー・バレー(原題)」の公開日はまだ発表されていない。

Photo by Monica Schipper/Getty Images/Photo by Mike Coppola/Getty Images for Tribeca Film Festival