
組織やチームを率いるリーダーには「勇気」が必要だ。それを磨くには、まず自分自身の「臆病さや不安(ヴァルネラビリティ)」を受け入れることが必要だという。本稿では『dare to lead リーダーに必要な勇気を磨く』(ブレネー・ブラウン著/片桐恵理子訳/サンマーク出版)から内容の一部を抜粋・再編集。勇気と不安の関係や、不安への向き合い方、リーダーシップのあるべき姿について解説する。
従業員から信頼されるリーダーと、不信感を与えるリーダーのコミュニケーションの違いとは?
果敢に信頼する
「信頼」という言葉が、寛大で率直な人びとを、あっという間に別人へと変えてしまう場面を目にしたことがある。自分の信頼性がほんの少しでも「疑われている」と感じただけで、私たちはヴァルネラビリティを内に閉じ込めてしまうのだ。そういう場面で、自分がバリアを張りめぐらし、武装し、心を閉じ、防御態勢に入っていないかチェックしてみてほしい。
一度心を閉ざすと、大脳辺縁系を乗っとられ、感情的なサバイバルモードに陥ってしまい、相手の言葉に耳を傾けたり、きちんと処理したりすることができなくなる。
自分は信頼に足る人間でありたいと思っている一方で、皮肉にも、私たちは他人をなかなか信頼することができない。
ほとんどの人は、自分は完全に信頼に値する人物だと思っているにもかかわらず、自分が信頼している同僚はひと握りしかいない。こうなると計算が合わなくなるが、自分が信頼できる人間であると思うことと、人から信頼できると思われることとは別なのだ。
講演家でありコーチでもあるチャールズ・フェルトマンの「信頼」と「不信」の定義は、私たちの研究の参加者が信頼について語ったことと完全に一致する。フェルトマンは自著『The Thin Book of Trust』(未邦訳)のなかで、信頼を「自分の大切なものが、他人の行動で傷つくリスクを選択すること」と定義し、不信については「この状況下で(もしくはどんな状況下でも)この人物と一緒だと、自分の大切なものは安全ではない」と判断すること、と述べている。
こうした定義を読むだけでも、なぜ信頼について話すと人はこうも変わってしまうのか、その理由がわかってくる。
たとえば、「ブレネー、あなたと一緒だと、私の大切なものが傷つきそうで不安なの」と言われたら、とてもつらいだろう。それが事実かどうかは別としても、社会性動物にとってもっとも重要な側面の一部が脅かされることになるのだから、ダメージは相当に大きい。信頼がなければ、つながりはない。
「信頼」についての会話はむずかしく、容易に悪い方向へ進む可能性があることから、私たちはついこうした対話を避けがちだが、そうすると、さらに危険が増す。
というのも、信頼関係に悩んでいるときに相手と直接話しあうスキルやツールをもっていないと、当人に対して言うべきことを周囲に話すことになるうえ、その行為はエネルギーの大きな無駄遣いにつながるからだ。いずれも私たちの組織では価値観を損なうおこないだし、大半の個々人の価値観にも反する可能性が高い。
また、「信頼」は、チームと組織を結びつける接着剤でもある。私たちは信頼の問題に気づかないふりをして、みずからのパフォーマンスやチームの成功を犠牲にすることがあるが、信頼の重要性を裏づける研究は多数ある。
「リーダーとしてどうあるべきか」を私に示してくれた、ふたりのリーダーがいる。経営コンサルタントで作家のスティーブン・R・コヴィーと、大手食品メーカー・キャンベル・スープ・カンパニー社前CEOダグラス・R・コナントだ。
彼らは、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事で、「信頼を促進すること」が、キャンベル・スープ・カンパニー社を10年かけて立て直したコナントの最大の使命だった、と述べている。
記事にはフォーチュン誌が毎年発表する「働きがいのある会社100」が引用されているが、フォーチュン誌の調査によると、「管理職と従業員の間にある“信頼関係”が、働きがいのある会社の最大の特徴」であり、信頼度の高い会社は「S&P500(株価指数)の年間平均リターンを3倍も上回っている」という。この記事のお気に入りの箇所を抜粋する。
“優れたパフォーマンスの構築には「信頼」が必要だ、という考えに異を唱えるリーダーはほとんどいないにもかかわらず、その重要性を十分に理解せず、信頼の構築を「軟弱」あるいは「次善の策」とみなして軽視している人が多すぎる。
しかしわれわれは共同実験において、「信頼」こそがすべてを変えるものだと知った。それは「もっていたほうがいい」というものではなく、「絶対にもっていなければならない」ものなのだ。
信頼がなければ、組織はあらゆる面において文字どおり、荒廃するだろう。しかし信頼があれば、あらゆることが可能となる。何より重要なのは、継続的な改善と、市場における持続可能かつ測定可能かつ具体的な結果である。”
■ 実際に耳にする信頼の話
信頼は「絶対にもっていなければならないもの」であるのに、多くのリーダーが信頼に関する会話を「絶対に避けるべきもの」とみなしている場合は、どうすればいいだろう。
ここでは「具体性」がポイントになる。漠然と信頼性に向きあったり、信頼という言葉を使ったりするよりも、具体的な行動を提示できるようにしなければならない。
それにはまず、「問題のありか」をピンポイントで特定し、それから話しあう必要がある。
指摘が「具体的」であるほど相手が耳を傾けてくれる可能性は高くなるし、こちらも相手の人となりではなく行動に対してフィードバックをおこなえるようになる。そうなってようやく、本当の変化をサポートできるようになるだろう。
たとえば、上司のハビエルが、私を自分のオフィスに招いてこう言ったとする。「昇進できなくてさぞかしがっかりしていることだろう。きみにはいくつか信頼の問題があって、それが昇進を妨げているんだ」
こんなことを言われたら、私のなかの恐怖や自己防衛が頭をもたげ、恥を煽られるに違いない。これまで築いてきたどんな信頼も木っ端みじんに壊れてしまうだろう。昇進を逃したあとで、なぜ自分の性格を批判するような言葉だけを聞かされなければならないのか、と。
この例をあげたのは、これが典型的な事例だからだ。私たちは信頼について話すのを恐れるあまり、「取り返しのつかない結果」が起こるまでそれが問題であることにすら気づかない。これはまったくよろしくない。
私たちの信頼に関する調査は、とても興味深い質問からはじまった。「信頼について話すとき、私たちは実際に何について話しているのか?」
この大きなトリガーとなっている言葉を解体し、つまり信頼を定義している要素を特定できたらどうだろう? 上司は昇進を逃した理由を説明する際に、私の問題点を改善するための具体的な方法を教えてくれるのではないだろうか?
できれば、決定をくだす前に私に連絡して「昇進したいのなら、改めてもらいたい行動があるから、少し話しあおう」と言ってくれるとなおありがたい。
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