マーベル・スタジオの新作『サンダーボルツ*』(公開中)は、型破りなアンチヒーローチーム、エレーナ・ベロワ、バッキーバーンズ、レッド・ガーディアン、ゴースト、タスクマスター、ジョン・ウォーカーを結集させた野心的な作品。CIA長官のヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌが仕掛けた罠に囚われた彼らは、自らが抱えるトラウマと向き合い、危険なミッションに挑むことになる。機能不全に陥ったチームは、互いに反発し合うのか、それともより強固な絆で団結するのか…彼らの一挙手一投足から目が離せない。

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全世界公開を前にオンラインで行われた記者会見には、フローレンス・ピュー(エレーナ・ベロワ/ホワイト・ウィドウ役)、セバスチャン・スタン(バッキーバーンズウィンターソルジャー役)、デヴィッド・ハーバー(アレクセイショスタコフ/レッド・ガーディアン役)、ワイアット・ラッセル(ジョン・ウォーカー/USエージェント役)、ハナ・ジョン=カーメン(エイヴァ・スター/ゴースト役)、オルガ・キュリレンコ(アントニア・ドレイコフ/タスクマスター役)、そしてジュリア・ルイス=ドレイファス(ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ役)といったキャストと、ジェイク・シュライアー監督、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギらが勢揃いし、役柄や本作のテーマについて語った。

※本記事の後半に、映画の核心に触れる記述に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。

■「映画のスタートとして、こんなにパワフルなシーンはなかなかないと思います」(フローレンス・ピュー)

テレビシリーズ「BEEF/ビーフ」の脚本と演出を務めたシュライアー監督が描く『サンダーボルツ*』の見せ場は、キャラクターひとりひとりの心理や動機を深く掘り下げていくところだ。彼らはみな、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を推進するうえで不可欠な役割を担ってきた人物たちだが、いわゆる"ならず者"。マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギは、「まず個人的な感想を述べさせてください。この映画は私にとって非常に意味があります。私は生涯にわたり、うつと不安障害に苦しんできました。自分の気持ちを封じ込めてしまい、他人と共有できませんでした。ですから、このテーマがマーベル映画でこれほどまでに深く描かれていることに大きなカタルシスを得て、セラピー効果を感じています。この物語を語ってくれてありがとうございます」と口火を切った。

ブラック・ウィドウの妹エレーナ役を演じるピューは、キャラクターの真実を描く機会に感謝の意を表す。冒頭シーンについて、「脚本を読んでいる時、まるでエレーナが自らの命を絶とうとしているかのようにボイスオーバーが聞こえてきて、共にビルから一歩踏み出すような感覚がありました。映画のスタートとして、こんなにパワフルなシーンはなかなかないと思います」と振り返る。「エレーナは途方に暮れていました。『生きている意味がない』と。姉を失い、家族を失い、父親との関係は無残に崩壊しています。彼女が置かれていた精神状態では、自分自身を危険に晒すことなど厭わないでしょう」。

エレーナの衣装選びにおいても、キャラクターの内面を映しだす工夫がなされたそうだ。「もし彼女が実際に命を落とすかもしれない状況に自ら身を置いているのなら、護身用のコスチュームを着ることはないでしょう。エレーナの衣装として、『トラックスーツはどうだろうか?』とアイデアを出しました。スーパーヒーローのコスチュームのような保護膜をすべて取り除いてしまおう、と。なぜなら、彼女はまったく無防備な状態でミッションに臨んでいるからです」。そして、この冒頭シーンが印象深いのは、「フローレンスがスタントを実際にやっていること以上に、エレーナの顔からショットが始まるからです。フローレンスがエレーナ役に強くコミットしていたからこそ、美しくその瞬間を演じることができたのでしょう」とシュライアー監督は付け加えた。

■「バッキーのことはまるで兄弟かのように感じています」(セバスチャン・スタン)

エレーナの父で、レッド・ガーディアン役のハーバーは、“劇中の娘”、ピューについて「フローレンスは、エレーナのキャラクターとこの物語に対しとても強くコミットし、たくさんのアイデアを持ち込んでいました」と評価する。「ジェイク(・シュライアー監督)と3人で、口から泡を飛ばすくらい熱烈に話し合いを続けました。私たちの意見は一部が採用され、そして一部はお蔵入りとなりましたが、このような大作映画において意見を取り入れてもらえるのは当たり前のことではないのです」。ピューは「父親と娘が『お前は失敗だ!』とお互いに言い合うシーンを実際に演じることができて、心から感銘を受けました。キャラクターが現実的に成長する過程を描くシーンだったので」と、スクリーン上で親子の成長が感じられたことに満足している様子だった。

バッキー役のスタンは、15年間このキャラクターを演じ続けてきた経験について、「正直なところ、バッキーのことはまるで兄弟かのように感じています。興味深いことに、私たちは15年もの間、お互いから様々なことを学び合っていました。私が人生で得たものをバッキー役にフィードバックできるのが、本当にすばらしいと思います」と、キャラクターとの深いつながりを語る。バッキーことウィンターソルジャーのシーンには、『ターミネーター2』(91)へのオマージュが隠されているそう。それを指摘されたスタンは、「実は、2011年の『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』を撮影している時、『ターミネーター2』のサントラをずっと聴いていました。だからあの時のウィンターソルジャーの歩き方や雰囲気は、少なからずターミネーターの影響を受けていたと言えるでしょうね」と十数年越しの秘密を明かしてくれた。

ヴァレンティーナ役のドレイファスは、自身のキャラクターについて、「サンダーボルツの面々がアンチヒーローならば、ヴァレンティーナはアンチヴィランと言えるでしょう」と位置づけ、「彼女がなぜこういう人物になったのかを理解する機会を得られました。必ずしも彼女の行動を正当化するものではありませんが、理解することはできました。私がキャラクターにアプローチする方法は、彼らがいわゆる“善人”か“悪人”かに関わらず、判断せずに接することです。そのため、ヴァレンティーナの動機にアプローチする方法は本当に刺激的でした。一体彼女は、なにを原動力に権力に対して飽くなき渇望を抱いているのか?と考えました。いままでの作品で少しずつ知り合ってきたヴァレンティーナを再発見する旅のようでした」と語り、キャラクターに深みを与えるよう尽力したという。

■映画公開後に驚きの仕掛け!なんと映画タイトルが…?

サンダーボルツ*』は、単なるアクション満載のスーパーヒーロー映画ではなく、内面的なトラウマ、うつ、そしてなにかに属している必要性といった個人的なレベルの問題にも深く切り込んでいる。また、今作が発表された当初から話題になっていたタイトルのアスタリスク(*)の謎が、映画の公開後に明かされた。映画公開後に異例のタイトル変更が発表されたのだ。アスタリスクは、新タイトルの『The New Avengers』を意味すると映画のラストで告げられている。アメリカでは街中のビルボード広告や映画チケットサイトの表示が新タイトルにすり替わり、新たなる仕掛けが話題を呼んだ。日本においてタイトルが変更されるかどうかは発表されていない。

MCUの新たなフェーズを象徴する『サンダーボルツ*』は、これまでのマーベル作品の枠組みを超え、より成熟した物語とキャラクター造形で観客を魅了する野心作として、今後の展開が大いに期待されている。

取材・文/平井伊都子

『サンダーボルツ*』キャスト&スタッフが勢ぞろい!本作への想いをたっぷり語った/[c]2025 Getty Images/Getty Images for Disney [c]2025 ABImages [c]AlexJ. Berliner