
厳しい状況に置かれる廃車たち
数年前に米ワシントン州バンクーバーにあるジャンクヤード『オール・アメリカン・クラシック(All American Classics)』を訪れたとき、ちょうど事業規模を縮小したところだった。
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これは、増え続ける固定資産税に対処するために必要な措置だと聞いた。土地の半分を売却するという難しい決断を下し、その過程で1200台のクラシックカーを処分したという。
しかし、同ヤードのオーナーは何を残し、何を捨てるかを慎重に検討し、結果として1930年代から2000年代までの極めて希少な車両1000台以上を残すことにした。わたし達取材班が写真撮影を楽しんだように、皆さんもこのクラシックカーのコレクションを楽しんでいただければ幸いだ。
オールズモビル・カトラス – 1960年
事業規模は以前より縮小したものの、このジャンクヤードでは1日に2台のペースで車両が購入されていた。レストア用としてすぐに売却される車両もあるが、その大半は部品取り用として購入されるため、何十年もヤードに保管されることになる。スペースが限られているため、新しい車両が入ってくると、古い車両は処分されてしまう。まさにそれが、この1960年製のオールズモビル・カトラスの身に起こっていたことだ。この個体は、『ベルタ』というニックネームがついた破砕機にちょうど送り込まれるところだった。
フォークリフトの運転手は、このクルマはひどく腐食しており、再利用可能な部品はほとんど残っていないと説明した。「次にカメラマンが来たときのために小道具としてここに置いておくのは、悪いけどできないよ」と彼は言った。
シボレー・カマロ – 1983年
このヤードには、1967年から2017年までの120台以上のシボレー・カマロの部品取り用車両が保管されている。その中に、6年間保管されていた1982年製のこの車両もあった。
このヤードでは、客が自分で部品を取り外すことができるが、取材班が訪問した際、スタッフは、上着の中に部品を隠して持ち出そうとする窃盗犯が多いと教えてくれた。
フォード・フェアレーン500スカイライナー – 1959年
こ1959年製フェアレーン500スカイライナーは、ハイドアウェイ・ハードトップ(Hide-Away Hardtop)という格納式ルーフを装備し、2010年からオール・アメリカン・クラシックに保管されている。スカイライナーは、1938年のプジョー402エクリプス・デカポタブルに次いで、世界で2番目にリトラクタブル・ハードトップを搭載した量産車だ。驚くべきことに、このヤードには同年に製造された1万3000台のスカイライナーのうち2台が保管されている。
ビュイック – 1939年
オール・アメリカン・クラシックには、いつも素晴らしいプロジェクトカー(レストア向け車両)が数多く展示されている。今回、取材班が訪れた際には、この美しい1939年製のビュイックがあった。1962年から乾いた場所で保管していた元のオーナーの孫から、このヤードに売りに出されたそうだ。
当初は孫が修復する予定だったが、新しいホワイトウォールタイヤを装着した後に、手に負えないと判断したようだ。ヤードと連絡を取り合い、取引が成立した。取材の後で、どうやら新しいオーナーが見つかったらしい。
オールドスモビル・スーパー88 – 1954年
これまで取材班が目にした1954年型オールドスモビル・スーパー88の中でも最も状態の良い個体、というわけではなかったが、まだ使用可能な部品が多く残っているため、破砕機から逃れることができた。
ベルタと名付けられた破砕機には顔(と歯)がペイントされており、どうやら鉄を好んで食すようだ……。
シボレー・ステーションワゴン – 1953年
背景に広がる、クルマでいっぱいの野原を見てほしい。ここもかつてオール・アメリカン・クラシックの廃車置き場だったが、現在は自動車リース会社が使用している。
この個体は、ヤードで発見した1953年製のシボレー4ドア・ワゴン2台のうちの1台だ。2台とも、このヤードに25年近く保管されている。
ポンティアック・ボンネビル – 1967年
オール・アメリカン・クラシックのウェブサイトには、ボンネビルの写真がいくつか掲載されている。2016年にヤードに運ばれてきた直後に撮影されたものだろう。当時はまだかなり見栄えが良かったので、修復は決して不可能ではなかったはずだ。
しかし、その車両は解体され、他の1967年型ボンネビルの維持に役立てられることに決まった。この写真のコンバーチブルは9000台未満しか製造されていないため、希少なモデルだ。
ポンティアック・トランザム – 1979年
トランザムやファイヤーバードの部品を探しているなら、このヤードが最適だ。取材班が訪問した時点では、この1979年のモデルを含め、100台近くの在庫があった。これは10周年記念の限定モデルで、7500台しか製造されていない。フル装備で、価格は1万ドルだった。状態は今ひとつかもしれないが、魅力的なクルマだ。
シボレー・コルベット – 1984年
カマロ、ファイヤーバード、トランザムに加え、オール・アメリカン・クラシックはコルベットも数多く取り扱っている。訪問した時点では、1970年代半ばから2009年までの75台以上のコルベットが保管されていた。この1984年製の個体は、2015年からこのヤードに置かれている。
シボレー・コルベットZR1 – 1990年
もう1台のコルベット、1990年式のZR-1だ。訪問時、ヤードのオーナーは、特に愛されることなく事故で損傷したコルベットを購入することは、ビジネスとして賢明な戦略だと語ってくれた。
「コルベットのオーナーは、近所の廃車置き場に気軽に立ち寄れない」と彼は言う。そのため、オール・アメリカン・クラシックは全米各地に部品を発送するようになった。
ダッジ・ダート – 1973年
ヤードの入り口には、1973年のダッジ・ダートを含む、いくつかのプロジェクトカーが停まっていた。V8エンジンを搭載したこの車両は、まだ走れるようで、価格は 1700ドル(約25万円)だった。その隣にある1972年製のダートは6気筒エンジンを搭載しており、600ドル(約8万7000円)安かった。
オールドスモビル・カトラス – 1979年
この1979年型オールドスモビル・カトラスの2ドア・ファストバックが解体されているのを見て、わたし達は衝撃を受けた。驚くほど状態が良かったからだ。錆びひとつなく、光沢のあるマルーン塗装にもほとんど傷がなかった。脆弱なビニールルーフさえも非常に良い状態だった。
シボレー・カマロ – 1988年
後方から見ると、この1988年型シボレー・カマロIROC-Zコンバーチブルは良好な状態に見えたが、前方は全く異なる状況だった。エンジン火災に見舞われたため、ヤードに運ばれることになったのだ。IROC-Zは、Z28が廃止された1988年に、カマロの最上級モデルとなった。
三菱ジープ – 1979年
この1979年製の三菱ジープのオーナーは、ロールオーバーバーの存在に心から感謝したに違いない。この個体は、重大な事故に巻き込まれたと思われる。
1953年から1998年にかけて、三菱は20万台のジープをライセンス生産したが、米国に輸出されたのはごくわずかだった。
エドセル・シテーション – 1958年
1958年の生産初年度には、エドセルにはなんと18種類のモデルがラインナップされていた。この膨大な選択肢は購入者を混乱させ、翌年以降大幅に削減された。1958年に販売された6万8000台のエドセルのうち、このシテーション4ドア・ハードトップは5588台だった。
ジープ・グラディエーター – 1973年
この1973年製のジープ・グラディエーターJ4000は、同時代に一般的だったフォード、シボレー、ダッジなどに代わるピックアップトラックとして素晴らしい選択肢だっただろう。このモデルには、最高出力175psを発生するAMC製5.9L V8エンジンと、ボルグワーナーの四輪駆動システム、クアドラトラック(Quadra-Trac)が搭載されている。
ポンティアック・トランザム – 1985年
このTトップルーフを装備した1985年式のトランザムは、20年間オール・アメリカン・クラシックに保管されていたため、徹底的に分解されている。それでも、破砕機に送られるのを避けるだけの部品は残っていた。
ビュイック – 1946年
古いクルマが数多く破砕されていることに衝撃を受けたわたし達取材班に、ヤードのオーナーは「感傷に浸っている場合ではないんだ」と語った。彼は、破砕機に送られるようなクルマはほとんど部品が残っておらず、多くの場合、数十年放置され、まったくと言っていいほど収益も生まず、貴重なスペースを占有しているだけだと説明してくれた。この1946年製のビュイックは、今はもう存在していないと見て間違いはないだろう。
オールズモビル・トロネード – 1966年
1966年のオールズモビルは、1930年代のコード社の消滅以来、米国で初めて前輪駆動を採用するという画期的な存在だった。発売当初は販売も好調で、生産開始から1年間で4万1000台が生産された。しかし、翌年には販売台数が半減し、1971年に2代目が発売されるまで完全に回復することはなかった。
ポンティアック・カタリナ – 1964年
このインテリアがほぼ完全に朽ちている様子を見てほしい。これは1964年のポンティアック・カタリナ2+2 421コンバーチブルで、風雨から保護する幌もないまま、30年近くもヤードに置かれている。
同年に生産された25万7768台のカタリナのうち、2+2パッケージが選ばれたものは8000台未満で、超希少車だ。残念ながら、錆びだらけの状態だが。
(翻訳者注:続きは後編へ)
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