牛丼店で代金を支払う意思がないのに無銭飲食したとして、20代の男性が詐欺の疑いで逮捕された。

テレビ朝日によると、この男性は栃木県の「すき家」で支払う意思がないのに牛丼やうな丼など26点を注文し、深夜料金を含む9391円相当を無銭飲食した疑いが持たれている。

男性は「お金を下ろしてくる」と言って立ち去ったという。逮捕当時、所持金は100円未満で、かなり痩せていたそうだ。

無銭飲食(食い逃げ)をニュース検索してみると、直近でも他の地域で発生しており、「身近な犯罪」と言ってよさそうだ。西口竜司弁護士に法的解説をしてもらった。

●言った・言わなかったは一つの要素にすぎない

──無銭飲食が犯罪になるのはどんなときですか?

私も、ある牛丼チェーンさんを愛用していますが、何だかなあと思う事件ですね。解説をさせていただきます。

無銭飲食は、刑法246条の詐欺罪に該当するかどうかが問題になります。つまり、相手を欺いて、財物を交付させたり、サービスをさせて財産上の利益を得たかどうかです。

無銭飲食で詐欺罪が成立する要件は(1)欺く行為(支払い意思や能力があると店が誤信するような言動をしたこと)、(2)錯誤(店が誤信状態になること)、(3)財産的処分行為(店が飲食物という財産を提供する行為)、(4)財産的損害(店が代金を受け取れなかった)──です。

──逮捕された男性は「お金をおろしてくる」と言って立ち去ったそうです。結果的にウソになったようですが、こんなことを言わなければ、無銭飲食にならなかったのでしょうか?

「お金をおろしてくる」というウソを言った・言わなかったは一つの要素にすぎません。重要なのは、食事を注文した時点で「支払うつもりがなかったかどうか」です。

仮に支払うつもりがあって「お金をおろしてくる」と言ったならば詐欺罪は成立しませんが、最初から支払うつもりがなかったなら、注文して飲食物が提供された時点で詐欺罪が成立します。逆に、何も言わなくても、無銭飲食するつもりだったことが立証されれば、詐欺罪は成立します。

──報道によると、逮捕当時の所持金は100円未満だったそうです。所持金が少ない場合、無銭飲食するつもりだったといえますか?

所持金の多寡も補助的な判断材料にすぎません。

たしかに、財布に100円しか入っていないのに3000円の料理を注文した場合、客観的には「支払うつもりがあったのか」が疑われます。

しかし、支払いの目途があった(給料日だった、他の手段で支払う予定があった)などの事情があれば、詐欺罪にはならない可能性もあります。

いずれにせよ、店に迷惑をかけることはダメです。ルールを守って楽しく食事をしましょう。

こんなこと書いていたら牛丼屋に行きたくなったので行ってきます。そういえば、昔、司法試験受験生に「先生も牛丼チェーンで食べるんですね」と言われたことがありましたが、食べますとも。早い安い美味いのですから。

【取材協力弁護士】
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士
大阪府出身。法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。弁護士YouTuberとしても活動を開始している。今年からXリーグにも復帰した。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/

牛丼店で無銭飲食「お金を下ろしてくる」と立ち去った男性、何も言わなければ「犯罪」にならなかった?