
「スター・ウォーズ』のドラマシリーズのなかでも、高い評価と人気を誇る「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」のシーズン2がディズニープラスで独占配信中。全12話のうち、ここまで公開されたエピソードは9話で、残る3話は5月14日(水)に一斉配信される。動乱の銀河を生きる主人公キャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)の運命のドラマは、エモーショナルなうねりによって、どんどん目が離せなくなってきた。いよいよやってくるクライマックスを前に、ここまでの9話を振り返ってみよう。
【写真を見る】「キャシアン・アンドー」シーズン1&『ローグ・ワン』キャラクターの相関図で基本情報をおさらい!
※本記事は、シーズン2第9話までのネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。
■「スター・ウォーズ」という枠に収まらない、ハードでスリリングなドラマが魅力
まずは「スター・ウォーズ」ヒストリーにおける「キャシアン・アンドー」の位置づけをおさらい。時は銀河帝国が圧政を強め、恐怖による支配を推し進めていた時期。この時代にスポットを当てた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)(以下、『ローグ・ワン』)で、キャシアンは打倒帝国を目指す反乱軍の兵士として諜報活動を行なっていた。大義のために戦い、命を散らせた彼の奔走が、『スター・ウォーズ/新たなる希望(エピソード4)』(77)のクライマックス、ヤヴィンの戦いでの反乱軍の勝利に結実するのは、ファンにはご存じのとおり。「キャシアン・アンドー」で描かれるのは、そんなキャシアンが兵士となる以前の物語だ。シーズン1では、惑星フェリックスで荒くれ者として生活を送っていた彼が、反乱同盟に志願するまでのドラマが語られた。
続くシーズン2では、キャシアンが打倒帝国を目指す反乱軍の主力戦士となるまでが描かれている。シーズン1でも全12話の物語が3話ずつのタームで章替わりするような構成だったが、シーズン2ではその傾向がより明確に打ちだされている。1~3話は“ヤヴィンの戦いの4年前”、4~6話は“3年前”、7~9話は“2年前”のエピソード。ということは、残る3話は“ヤヴィンの戦いの1年前”、すなわち『ローグ・ワン』に限りなく近い時期の話になると思われる。
それではシーズン2の内容を、タームごとに追いかけていこう。1~3話はこの時点での反乱軍の活動を俯瞰する内容になっている。キャシアンは帝国軍の戦闘機を盗みだすという任務を遂行するも、予定どおりには進まず、未知の星で粗暴な反乱分子の一派に捕らえられてしまうが、なんとか脱出。
そのころ、キャシアンの帰りを待ちながら、仲間と共に農耕惑星に潜んでいたビックス(アドリア・アルホナ)は、帝国軍の士官から性的暴行未遂を受けてしまう。「スター・ウォーズ」の世界で、このような生々しい描写があるのは極めて珍しい。暴力的に肉体関係を迫ってきた士官を殴り殺したことで、窮地に立たされる彼女を間一髪で救いだしたキャシアンは、仲間のウィルモン(ムハンマド・バイアー)共々この星から脱出する。
そしてこのタームでの帝国側の重要な要素としては、地下資源の豊富な惑星ゴーマンの侵略計画を進めていること。このプロジェクトを推進するメンバーに抜擢された者のなかには、シーズン1でキャシアンらを追い詰めた保安局員デドラ(デニス・ゴフ)の姿もある。冷徹に事を進めてのし上がってきた彼女には、またとない出世のチャンス。彼女の存在や、ゴーマンの運命はこの後の不穏な展開を予想させるに十分だ。
■第4~6話でフォーカスされる、心に深い傷を負ったビックスとキャシアンの関係
それから1年後の3~6話。キャシアンは首都コルサントで、ビックスと共に都会の雑踏にまぎれて潜伏する生活を送っている。シーズン1で帝国軍の拷問を受けたビックスはPTSDに悩まされ、キャシアンを心配させる。それでもキャシアンは新たなミッションをこなさねばならない。ここでルーセン(ステラン・スカルスガルド)から下されるのは、ゴーマンの反乱分子、ゴーマン戦線に接触して現地の状況を把握すること。ゴーマン戦線は日に日に強まる帝国の支配に不満を募らせ、いまにもその怒りは爆発しそうだ。しかし、キャシアンは反乱軍が彼らに協力するのは危険と判断する。
キャシアンは、この判断の甘さをルーセンに叱責される。ルーセンは大義のためならどんな犠牲をもいとわないし、時には非情な決断を下す。彼の目には、ビックスさえ危険要素と映っているのだ。ビックスをかばうこの局面でのキャシアンはとても人間的だが、裏を返せば『ローグ・ワン』のような非情なまでの革命の戦士の域には、まだ達していない。
それでもルーセンは、このタームの最後に親心を見せる。キャシアンに下された任務は、帝国保安局の拷問のプロ、ドクター・ゴースト(ジョシュア・ジェームス)の抹殺。この男は、ビックスに苦痛を与えた人物でもある。ビックスと共にこの任務にあたったキャシアンは、彼女自身にドクターへ件の拷問器具を装着させることで、PTSDの根源を取り除くのだ。
■ついに始まる帝国の虐殺…キャシアンが革命の戦士に至るまでの“あと一歩”が描かれる第7~9話
第7~9話の主要な舞台はゴーマン。ここから物語は激しく動く。ルーセンの元を離れ、ヤヴィンにある反乱軍の基地に拠点を移していたキャシアンとビックス。しかしキャシアンが次なるミッションに選ぶことになるのは、ルーセンに共鳴するウィルモンからの依頼だった。それは、ゴーマンに滞在して不穏な動きを見せているデドラを抹殺すること。デドラはシーズン1の最終話でフェリックスを混乱の渦に陥れ、ビックスへの拷問を命令した張本人でもあるが、ルーセンに反発するキャシアンは頑なに拒絶する。
だが、そんな彼の意志を揺るがす出来事が起こる。戦闘で負った傷が癒えず、ビックスに連れられて嫌々ながら出向いた、フォースの使い手らしき治療者のもとで、キャシアンは“メッセンジャー”であることを告げられるのだ。これがなにを示しているのか現段階ではわからないが、今後観進めるうえで気に留めておきたい要素。この言葉に重要な意味を見出したビックスに説得され、キャシアンはウィルモンと共にゴーマンに飛ぶ決意をする。
そのころ、デドラは帝国の方針に則り、ゴーマンの民の暴動を誘発・制圧したうえでゴーマンを支配する計画を進めていた。そうとは知らないゴーマンの人々は、帝国の拠点のある広場でデモを行なう。集まってくる市民の数は増えていき、警備にあたる帝国兵との間の緊張が高まるなか、帝国側の発砲を引き金についに暴動が起こり、広場は血に染まっていく。帝国軍の攻撃は鎮圧ではない。思わず目を覆いたくなるほどのリアリティで描かれるのは、もはや虐殺だ。キャシアンはそのてん末を目にすることになる。
その後コルサントに飛んだキャシアンは、議場でゴーマンでの帝国軍によるジェノサイド、ひいては皇帝であるパルパティーンを非難するスピーチを行なったモン・モスマ元老院議員(ジェネヴィーヴ・オーライリー)を、ヤヴィンへと脱出させる任務を請け負う。スピーチを終えたモスマは、帝国から追われる身に。彼女を狙う帝国側と、ゴーマンの惨状を目の当たりにし、すっかり一流スパイとしての風格を漂わせるキャシアンが織り成す緊張感あふれるシークエンスには、手に汗を握らされる。なんとか包囲網を突破して脱出に成功した後、キャシアンは、モスマに「皆の希望になってくれ」と伝えるのだ。キャシアンが真の意味で“革命の戦士”となるには、もう少し試練が必要なようだが、第9話の終盤で描かれるビックスとの別れも、その一つだろう。
■物語がついにつながる!『ローグ・ワン』キャラクターたちが続々登場
主人公のキャシアンを主体にしてシーズン2を振り返ってきたが、ビックスやルーセン、モスマなど、シーズン1から続投したキャラクターにもドラマがあることも触れておきたい。シーズン1でキャシアンを執拗に追い続けたシリル・カーン(カイル・ソラー)は、デドラの命を救ったことで彼女と結ばれる。だが、デドラもシリルも、結果的に帝国によるゴーマン支配の手駒に過ぎなかった。これまでのシリーズで描かれることのなかった、帝国側である彼らの悲劇的と言える関係性も、本作ならではの魅力と言える。一方、シーズン1でキャシアンと共に戦った、モスマの従姉妹ヴェル(フェイ・マーセイ)にも悲痛な運命が待ち受けている。また、ルーセンのアシスタントであるクレヤ(エリザベス・デュロー)は、反乱軍の命運を揺さぶる命懸けのミッションに挑むことになる。誰もが各々の決断を迫られるのだ。
そして、『ローグ・ワン』に登場したキャラクターたちとのリンクも、シーズン2でより加速していく。帝国軍の非情を象徴していたヴィラン、クレニック(ベン・メンデルソーン)は、第1話でゴーマン侵略会議の場に姿を見せる。第6話以降ではモンの盟友であり、レイア姫の育ての親である元老院議員ベイル・オーガナ(ベンジャミン・ブラット)も登場。彼はコルサントに残って戦い、モンは反乱軍を率いて戦うという構図が見えてきた。第7話以降では、のちにキャシアンの上官となるドレイヴン将軍(アリスター・ペトリ)が彼に小言を言ってくる。そして、『ローグ・ワン』で帝国軍から奪い取って改造を施されたと説明されていた、キャシアンの相棒であるドロイド、K-2SOも登場する。少しずつ役者がそろってきた。
残る3話でなにが語られるかは想像するしかない。キャシアンは一人前の革命の戦士となるために、あとどれほどの試練を乗り越えねばならないのか?第9話までの段階でシーズン1よりも多くの血が流されてきたが、革命の名のもとで、また誰かが命を落とすのか?そして、モスマの指導のもとでまとめられる反乱分子たちは、どのようにして反乱軍として組織化されていくのか?シーズン2の着地まで、気になる要素は多く残されている。
そして最も楽しみなのは、“泣けるスター・ウォーズ”として称賛された『ローグ・ワン』へどのようにつながっていくのかという点だろう。デス・スターの設計図のデータを多くの犠牲を出しながら手に入れるわけだが、いったいキャシアンはどんな想いで作戦を実行したのだろうか?シーズン2の完結によって、『ローグ・ワン』の新たな一面を見出せることに全力で期待しつつ、“希望”がつながっていく展開を見守りたい。
文/相馬学

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