超高齢社会の日本。親の年金だけでは暮らせない現実のなか、子世代の「仕送り」が家計を支えるケースは少なくありません。しかし、家計が苦しいのは子ども世代も同じ。頼る親と支える子、そのバランスが崩れたとき、関係は一気に決裂することもあります。

「仕送りやめるわ」…電話一本で終わった親子関係

「もう、仕送りやめるわ」

会社員の石田大輔さん(仮名・48歳)は、父・誠さん(仮名・76歳)との電話を切ったあと、しばらく受話器を見つめたまま動けませんでした。どこかで「ついに言ってしまった」と思う気持ちはありましたが、それ以上に、これ以上支え続けることはもう無理だという確信の方が強かったといいます。

72歳になる父・誠さんの月の収入は、老齢年金の12万円ほどだけ。それだけでは生活は成り立たず、10年以上前から、大輔さんは毎月5万円を仕送りしてきました。父の暮らしを支えるために、という思いでした。

しかしある日、実家に立ち寄った大輔さんは、父がパチンコ店に通っていることを知ります。まさかと思い問い詰めると、毎月の仕送りがほぼすべてパチンコに消えていることが判明しました。

「別に、遊びに使うなとは言いません。でも、10年以上ですよ?  こっちは子どもの教育費に住宅ローンにって、必死で家計をやりくりしてたのに、全部ギャンブルに消えてたなんて……正直、人として信じられませんでした」

冷静に話してはいるものの、大輔さんの言葉の端々には怒りと悲しみがにじみます。

父・誠さんにとっては、ギャンブルは日々の気晴らしでしかなかったのかもしれません。しかし、大輔さんにとっては、長年の努力と信頼が裏切られた瞬間でした。そしてこの事件をきっかけに、「もう、支える意味はない」と感じ、ついには「絶縁」を選ぶこととなったのです。

「親だから助けて当然」では済まされない時代

厚生労働省令和4年 国民生活基礎調査』によると、親に仕送りをしている世帯は全体の1.9%。2022年の総世帯数が5,431万世帯なので、100万世帯ほどが親に仕送りをしていることになります。

また世帯主の年齢別にみていくと、50代世帯が最も親へ仕送りしている世帯が多く、全体の3.4%。20代世帯では3.1%、30代世帯が2.6%、40代世帯が3.0%。自身も高齢者になるかならないかという60代でも2.4%の世帯が親へ仕送りをしています。

仕送り額をみていくと、1世帯当たり平均8.0万円。仕送り額の分布をみると、「月2万~4万円未満」が最も多く、親に仕送りをしている世帯の29.9%。「4万~6万円未満」が20.4%と続き、「月10万円以上」という世帯も18.8%を占めます。つまり、全国20万世帯弱が、親へ月10万円もの仕送りをしていることになります。

一方で、同令和5年調査によると、65歳以上のおひとり様831万人のうち、年間所得100万円未満が17万人弱、150万円未満にまで範囲を広げると35万人弱になります。どれほど貯蓄があるのかによって変わってくるでしょうが、頼りの綱の年金が少なく、子からの仕送りに頼らざるを得ないおひとり様が相当数いることがわかります。

とはいえ、石田さんの場合、自身の生活もぎりぎりのなか、親を想う気持ちだけで10年以上も仕送りをしてきました。しかしそれが生活の改善ではなく浪費や依存に繋がっているとしたら、支援する側の意欲はどうしても削がれます。ましてや、自分の生活も苦しいなかでの支援であればなおさらです。

「父は『寂しいからパチンコに行っていた』と言っていました。『こっちだって生活を切り詰めてパチンコに行っているんだから、文句を言われる筋合いはない』と開き直って。ごめんとひと言でもあれば、違ったのですが」

高齢者の孤独や生活困窮は、社会的な課題として年々重みを増しています。一方で、親子関係においては「子が親を支えるべき」という考えが根強く残っています。しかし実際には、家計に余裕がある40~50代は減っており、支援を「したくてもできない」「しているが限界」という家庭も少なくないでしょう。

「親子だからという責任感を覚える一方で、親子だからという甘えも生まれる。父も私に対して、何をしても許されると思っていたんでしょう。でも、それって依存でしかないですよね」

仕送りが止まり、絶縁を言い渡された誠さん。知人から話を聞く限り、今は趣味のパチンコを興じることもできず、「もう死ぬしかないのか……」と意気消沈。生活保護の申請も検討しているといいます。

「もし生活保護の申請をしたら、私に経済的な援助ができるかどうかを連絡でもあるんでしょうね。私は正直に『難しい』と答えるつもりです」

[参考資料]

厚生労働省『令4年/令和5年 国民生活基礎調査』

(※写真はイメージです/PIXTA)