
過去に一度も女性の首長が生まれたことがなく、「ジェンダー・ギャップ指数」は政治分野で全国45位──。
そんな宮崎県で女性の議員を増やそうと活動する地方議員がいる。
「停滞している今の日本では、女性を活躍させることしか残された手がない気がします」
性別による役割分担の意識が根強いと言われる九州で、ある壁に直面したという。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●夫が国会議員になったことで政治が身近に大分県との県境に位置する宮崎県延岡市で市議をつとめる小御門綾(こみかど・あや)さん(54)は、2023年4月の統一地方選挙で初当選した。
「初めて議場に入ったとき、議員だけでなく、市の幹部が座る席も女性が少ないと感じました。意思決定する機関に女性がいない。これでは声を上げる人が少ないので、課題も解決しないよねって」
延岡市議会の定数は27人だが、女性議員は5人。これでも以前より増えているという。
小御門さんは以前、関東でライターや編集者をしており、約10年前に夫の地元である宮崎に移住。ウェブメディアを立ち上げ、編集長として地域ニュースを発信してきた。
「議員になるなんてまったく考えていなかった」というが、夫が2021年の衆議院選挙に出馬し初当選を果たしたことが転機となった。
●立ちはだかった「家族の壁」小御門さんの夫は公約に「ジェンダー平等の達成」を掲げて政治活動をしていたが、「僕だけじゃ無理だ」と打ち明けられたことがあった。
国会議員になった夫は「女性の議員候補者をもっと多く立てる必要がある」と言い、小御門さんも候補者探しを手伝うようになったという。
直面したのが「家族の壁」だった。
議員に適していると感じた女性を何人か見つけることができたものの、「家族の反対にあいました」「子どもの受験に重なるので難しい」などと辞退された。
家族の理解が得られないことを理由にあげる人が多く、中には「挑戦してみたいが、子どもがなんと言われるか心配」といった声も聞いたという。
「もともとジェンダーの不平等はおかしいと思っていました。私の場合は家族も反対していなかったので」。小御門さんは自身が市議選にチャレンジすることにした経緯をそう振り返る。
●「投票する人がいない」は「自分たちの代表を出していない」からこれまで遠い存在だった議員に自らがなって、その役割や意味を実感することが増えた。高齢者を対象にした福祉バスの運行について、市民から寄せられた相談をもとに議会で質問したところ、以前よりも条件を緩めた運行が可能になった。
「働き盛りの人が自分たちの代理人として議員を出していかないと、普段の生活で感じてる課題は解決できません。
よく『投票する人がいない』という声を聞きますが、それは自分たちの代表を候補者として出せていないからだと思います。
自治体に若者や女性の議員が増えれば、国会議員も増えます。そうすれば行政側も変わってくる。そして、市民が抱く雰囲気も変わってくると思います」
●女性議員を増やすため「宮崎ミモザの会」を設立女性の議員が増えることで停滞した日本社会を活性化できる──。
そんな思いを強め、2024年3月、女性議員アップを目指す任意団体「宮崎ミモザの会」を立ち上げた。
1〜2カ月に1回の頻度で、地域が抱える問題や女性ならではの困りごとについて講師を招いたり、ディスカッションしたりするイベントを開催している。年代や性別、支持政党の違いは抜きに、誰でも参加できる環境だ。
まずは身近な問題について気軽に話す場を設け、その先にそれらの課題を解決するために議員という選択肢があることを知ってもらいたいという。
当初は、女性をひいきにする活動だと誤解する人が現れることも少し懸念したが、実際に始めると意外にも年配の男性から「良い取り組みだね」と言われることが多かったという。
また、女性議員の増加を目標に掲げて活動する中で、「この人はどうですか?」と、知人を議員の候補者として薦めてくる人が増えてきた。
●家の中と外での振る舞いが変わる“九州男児”九州は男尊女卑の意識が根強く残っていると言われることが少なくない。ネット上では九州地方や出身者を揶揄する「さす九(「さすが九州」の略)」といった言葉が使われることもある。
実際、小御門さんが市民と話していると、「うちの親は、私には大学に進学しなくてもいいと言ったり、進学しても近くにしなさいと言ったりしてきたのに、弟には自由にさせていた」や「飲み会に行った夫の送り迎えに行く」といったエピソードを耳にすることが珍しくないという。
また、家庭では家事を手伝う男性でも、親戚の集まりなど家庭の外では食事の準備などを女性たちに任せきりにすることがあるといい、同じ男性でも家の中と外での振る舞いが変わりうるという。
●「周囲が応援することが最初の一歩」「女性側にも『女性なんて…』『男性に任せればいい』といったダブルスタンダードのようなところがあると思います」
小御門さんは、女性の議員が増えない背景に女性自身の思い込みがあるとも感じている。
「女性は経験値が男性より足りないだけです。もっと前に出て自分の意見を言いましょう、と。女性が自由になれば、男性も自由に生きやすくなると思います」
女性の議員がもっと増えるには何が必要なのか。小御門さんに尋ねると、次のような回答があった。
「周囲が応援してあげることが最初の一歩だと思います。そしてやっぱり男性の協力が必要です。男性が夕方5時に帰宅できるような環境があれば、子育て中の女性も議員活動が続けられます。
私はよく言っているんですが、私の街は私が作る、地元を誰かに任せない。議員になりたいと思っている方は、ぜひ私に声をかけてください」

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