
高校生の飲酒を理由とした退学の是非が争われた裁判で、学校側の責任を認めた判決が話題になった。
同じように飲酒退学を言い渡された人たちからの相談が弁護士ドットコムにも寄せられている。未成年飲酒は違法だが、それでも“一発退学”は重すぎるということだろうか。考えてみたい。
飲酒を背景とした自主退学勧告をめぐる訴訟を扱う弁護士は「適法」とされるケースと「違法」とされるケースの違いについて指摘する。
●友人宅で飲酒→SNSに投稿→自主退学読売新聞などの報道によると、自主退学した都内私立高校の元女子生徒が、学校側に慰謝料など約240万円を求めた訴訟で、東京地裁の判決は5月15日に「飲酒が退学とすべき悪質なものとは言えず、著しく均衡を失している」として、学校側に約66万円の支払いを命じたという。
元女子生徒(当時15歳)は、2022年に友人宅で飲酒する様子を撮影した動画をSNSに投稿し、学校は退学を勧告。同年自主退学した。
「中村心裁判長は、退学処分は生徒の身分を奪う重大な措置で、教育上やむを得ない場合に限られると指摘。他に処分歴がないことなどから、未成年飲酒のみを理由に退学を勧告したのは『社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を乱用している』とした」(共同通信)
弁護士ドットコムにも、飲酒を理由とした退学をめぐって相談が寄せられている。
「高3の娘が飲酒を原因として、卒業目前で2回停学になり、自主退学について担任から勧告を受けました」
「高校の自主退学を言い渡されました。3日以内に退学届を出して下さいとのこと。きっかけは飲酒です」
子どもの飲酒を理由に退学をすすめられた場合、家族はどうすればよいのだろうか。学校と子どものトラブルに詳しい高島惇弁護士に聞いた。
●弁護士「やや珍しい」下級審判決では「適法」とするケースもある——高校などの学校が生徒を未成年飲酒で退学処分とするのは重すぎるでしょうか。
まず、学校による退学処分と自主退学勧告の違いについて整理しましょう。
懲戒処分である退学処分は、強制的に生徒の地位を剥奪するものです。この処分をめぐる最高裁の判例もあり、その裁量論が厳格に検討されます。
「他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要すると共に、当該事案の諸事情を総合的に観察して、学校の具体的事案において当該学生に改善の見込がなくこれを学外に排除することが教育上やむをえないとして行った退学処分の選択が、社会通念上合理性を認めることができないといえるかどうかにつき判定する必要がある」(最判昭和49年7月19日)
自主退学勧告については、最高裁にて統一的な見解はまだ示されていません。しかし、最近の下級審判決においては次のように判断されることがあります。
学校側の一方的意思表示により生徒の身分を失わせる懲戒処分としての退学処分とはその本質を異にするとした上で、生徒としての身分の喪失につながる重大な措置であるから、問題となっている行為の内容だけではなく、次のようなことも判断されます。
・本人の性格
・普段の行状や反省状況
・問題の行為が他の生徒に与える影響
・自主退学勧告の措置が本人や他の生徒に及ぼす効果
・行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を総合考慮して社会通念上不合理か
さて、今回の判決では、自主退学勧告にとどまる状況で、飲酒を理由とした勧告が重すぎるとして違法と判断しております。類似のケースにおいて適法と判断した下級審判決も一定数存在する事実を踏まえると、やや珍しいのではないかというのが率直な印象になります。
●飲酒や不適切なSNS投稿が発覚! 自主退学勧告を「適法」とする判決もあるが…——訴訟では、飲酒とSNSの動画投稿も問題になりました。報道によれば、判決は学校側が停学などの処分まで検討しなかったことを指摘したそうです。「飲酒+SNS投稿」であっても一発退学は重すぎるでしょうか。
高校生において、飲酒やSNSにおける不適切な投稿を理由として自主退学勧告した場合、適法と判断されるケースが一定数あるのは確かです。
その一方で、判断には諸般の要素が総合考慮されます。学校の懲戒基準、行為の発生場所(学校の内外)、反省の程度、他の生徒との処分の軽重、過去の問題行動の有無などをあわせて考慮する必要があります。そのあたりで原告の生徒にとって有利な事情があったのかもしれません。
とりわけ、最近の自主退学勧告の是非をめぐる訴訟においては、他の教育的指導による救済を学校がどれだけ検討していたかについて、裁判所が重視する傾向を私も感じるところです。
たとえば事件発覚から数日程度の自宅謹慎からただちに自主退学勧告しているケースでは、改善可能性に関する検討が不十分であるとして違法と評価される蓋然性は高まりやすいと思います。
●「子どもが飲酒理由に自主退学勧告をうけた」そのとき親はどうすべきか——「飲酒を理由に退学勧告をうけた」という相談が弁護士ドットコムにも寄せられています。親としては驚いてしまうかもしれませんが、どのように対応すべきでしょうか。
結局は事案によりますが、自主退学の勧告段階であれば交渉を通じて撤回してもらえる可能性がありますので、退学処分の方針で固まる前に弁護士へ相談することが重要になります。
飲酒の場合は、暴行やわいせつ行為と異なり通常被害者がいないため、本人の改善の見込みが十分に示されれば学内での更生を目指しやすい(裁判になった場合退学処分が違法と判断されやすい)とも言うことができるので、弁護士が入れば学校も退学処分には慎重にならざるを得ないでしょう。
●安易な退学強行も増加傾向か——最近は学校が退学を言い渡すことが増えているのでしょうか。
社会の厳罰指向が学校にも波及しているのか、最近は比較的軽微で過去に問題行動がないにもかかわらず、安易に自主退学を勧告したり退学処分を強行してくるケースが増えている印象です。
他の生徒との調整や私立学校における受験生確保に向けたイメージ戦略など、学校側の負担が年々大きくなっているが故の変化なのかもしれません。
ただし、学校は、いまだ成熟していない児童生徒に対し適切な教育を講じることで、学業のみでなくその人格形成にも多大な影響を与え得る立場であって、その教育的責任も負っています。
まだ未熟な子どもを学外へ排除することで、その人生に多大な悪影響が生じるおそれを考慮すれば、一旦受け入れた児童生徒の教育を安易に放棄するのではなく、その過ちも含めて適切な教育を施して人格形成を手助けするのが、本来あるべき学校なのではないでしょうか。
【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp

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