
世界遺産の島、鹿児島県屋久島町で独立系のウェブメディアを運営する男性2人が、町議会の傍聴席での取材を禁止されたのは憲法に違反するとして、町を相手取り損害賠償1円を求める国家賠償訴訟を鹿児島地裁に起こした。提訴は5月17日付。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●傍聴席での取材、議長が許可を判断原告は、ともにウェブメディア「屋久島ポスト」の共同代表である鹿島幹男さんと武田剛さん。これまで国庫補助金の不正請求など、町政の問題を追及してきた。
訴状によると、屋久島町議会の傍聴規則は傍聴席での撮影や録音を原則禁止としているが、議長の許可があれば例外的に認められ、実際に地元のマスコミは取材が許可されてきたという。
2021年11月、国庫補助金の不正請求問題について報道するため、武田さんらが町議会の全員協議会を取材しようとしたところ、議長から「議場内での撮影と録音を禁止する」と伝えられた。
その場で交渉したところ、「今回限りの特例」として一度は認められたが、その後、約3年半にわたって本会議や委員会での取材を禁じられた。
●マスコミがカバーしない地域で町の問題を追及原告は、町議会の傍聴席は20席ほどあるが、通常はガラ空き状態で「取材を禁止する合理的な理由はない」と主張。
また、新聞やテレビなどのマスメディアの記者がほとんど常駐していない屋久島町で、屋久島ポストの報道によって町の問題が明らかになったことがある点なども踏まえて、議長が取材機会を奪ったことは「表現の自由」を保障した憲法21条に違反するとうったえている。
なお、議長は2025年4月に屋久島ポストの取材を許可したが、再び禁止される可能性があることから、原告は今回の訴訟で、取材を禁止するという対応の違法性を明らかにしたい考えだという。
●「小さい自治体の議会は誰からも取材を受けないことなる」屋久島ポストの共同代表で、原告の武田さんは次のように話している。
「発行部数の減少に苦しむ新聞各社は記者の人数を減らし、丁寧に地方議会を取材することが難しくなっています。
このような状況で、一部のマスコミだけに取材許可を出す慣例が続けば、実質的に小さな自治体の議会は誰からも取材を受けないことになります。
そんな状況を変えるため、裁判所から新たな時代にあった判例を引き出すために、訴訟を提起しました。そして、その判例が広く全国に伝わり、少しでも開かれた地方議会が増えることを期待しています」
屋久島町の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に「訴状が届いていないので今はコメントできません」としている。

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