ドローンで溺れている少女に救命道具を届けるイメージ図

 アメリカ、フロリダ州の海で、サメ釣りをしていた男性が、離岸流(岸から沖へ向かって強く流れる海流)に流された10代の少女の命を救った。

 少女の友人が男性に助けを求めたが、男性は持病があり泳ぐことができない。

 そこで釣り用に使っていたドローンを操作して浮き具を海に投下した。力尽きかけていた少女はそれをつかみ、救急隊が到着するまでの時間を持ちこたえることができたのだ。

 少女の父親はこの男性に心からの感謝の気持ちを伝えた。

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サメ釣りに出かけたところ少女からSOS「友人が溺れている」

2025年5月15日夕方、友人に「ちょっとだけ釣りに行こう」と誘われたアンドリュー・スミスさんは、フロリダ州ペンサコーラビーチへと向かった。

 「本当はあまり乗り気ではなかったんだけど、友達にどうしてもと言われてね」とスミスさんは振り返る。もしこの時、スミスさんがビーチに行かなかったら1人の少女が命を落としていたかもしれない。

 現地に着いてからわずか10分も経たないうちに、スミスさんたちに少女が走り寄り、切羽詰まった声で叫んだ。

 「誰か泳げる人いませんか!?」

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 泣き叫ぶ少女によると、友人が離岸流に巻き込まれて沖へと流されているという。見ると、波に揉まれながら小さくなっていく少女の姿があった。

 スミスさんは持病のてんかん発作があるため泳ぐことができない。また自分の友人も泳ぐことができなかった。

そのとき、自分の足元にあったドローンを見たんです。『自分は泳げないけど、こいつならあそこに行ける』って思いました(スミスさん)

海の上を飛ぶドローン
Photo by:iStock

1度目は失敗したが2度目で救命道具が少女に届く

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 スミスさんはすぐにビーチの救命浮具を手に取り、それをドローンに取り付けて約90m離れた場所から少女の真上へと飛ばした。

 だが、風が非常に強く、思ったよりも早く落下してしまい、浮具は少女の手の届かない場所へと落ちてしまった。

 「本当に緊張して、手が震えてました。泣きそうだった」

 それでも彼はあきらめなかった。通りすがりの見物人がもうひとつの浮具を差し出してくれたのだ。

 「周りの人たちも、ただ見ているだけじゃなくて、自分に『次は絶対大丈夫!もう一度やってみて』って言ってくれたんです。それが本当に心強かった」とスミスさん。

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その様子を、ロバート・ネイさんという見物人がスマートフォンで撮影し始めた。

 「あんな場面、生涯見たことがない。彼女が明らかに限界に近づいているのがわかった」とネイさんは語る。

Teen swimmer caught in rip current rescued by drone/Youtube

 2度目の飛行では、風の流れをしっかり読み、ドローンをゆっくりと慎重に操作。高度を少しずつ下げていき、ついに少女の頭上までたどり着いた。

手が浮き具をつかんだのが見えたとき、本当にホッとしました。そこからもう少しだけ下げて、静かにリリースしたんです。彼女はそれにしがみついて、なんとか浮いていました(スミスさん)

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 その後、救急隊が到着するまでにさらに5分かかった。もし2度目の投下がなければ、少女は体力を失っていた可能性が高いと、救急隊や警察、ライフガードは口を揃えていたという。

 少女は医師のチェックを受け、幸いにも健康に問題はなく、無事に帰宅することができた。

Teen swimmer caught in rip current rescued by drone/Youtube

釣りのためのドローンが命を救った

 スミスさんがこのドローンを使用しているのは、持病の為、カヤックが使えないという事情があるからだ。通常、サメ釣りでは沖合まで餌を運ぶのにカヤックを使うが、彼は体調への配慮からドローンを代用している。

 実はこのドローン、1か月前に故障して戻ってきたばかりの機体だった。

 さらに、救助が行われたのはペンサコーラビーチの「21Cセクション」で、すぐ先にあるフォート・ピッケンズはドローンの飛行が禁止されているエリアだった。

 「もしもう少し奥だったら、ドローンは飛ばせなかったし、彼女を助けることもできなかった」とスミスさん。

離岸流が発生している時は泳がないよう注意を呼びかけ

 この日、ビーチには「赤い旗」が一本掲げられていた。これは、海が危険な状態であることを示す警告旗で、特に離岸流が発生している可能性があることを意味する。

Teen swimmer caught in rip current rescued by drone/Youtube

 離岸流は、海岸から沖へ向かって一気に水が流れる強い海流のこと。見た目は穏やかでも、気づかぬうちに沖へ引き込まれるため非常に危険だ。泳いで逆らうと体力を消耗し、溺れる原因になる。

 「毎週末、何十件もの水難事故が起きているのを見てきました。でも、旗の意味を知らない人が本当に多いんです」

 事故が起きたのは、ライフガードの定期巡回が始まるメモリアルデー(5月最終月曜)の前だっため、彼女を救うことができたのはスミスさんだけだったのだ。

 例え泳げたとしても、自分が離岸流に引き込まれてしまう危険性が高いため、少女のみならず自分の命さえ危うくなる。

 スミスさんがしかるべきタイミングで、ドローンを使用していたからこそできた救助だった。偶然が重なって起きた奇跡ともいえる。

 その場に居合わせた目撃者は「まさに人間の良心を見た瞬間だった」と語り、少女の父親は「彼は娘にとって守護天使のような存在」と話している。

 スミスさんは最後に、海に行く人たちへ「ビーチの旗の色表示に注意してほしい」と警告している。

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