
(スポーツライター:酒井 政人)
ロングスパートで1500mの優勝をさらう
日本インカレの男子1500mは山口智規(早大4)がエキサイティングなレース運びを見せた。トップ集団は400mを61秒と落ち着いたペースで入り、山口が前に出て800mは1分58秒で通過。1周57秒ペースまで引き上げると、そこに前田陽向(環太平洋大4)と兵藤ジュダ(東海大4)がつく展開になった。山口は攻撃の手を緩めずに、1200mを2分55秒で通過。ラストスパートを武器にするライバルたちを振り落とす。そして残り300mもスピーディーに駆け抜けた山口が3分40秒46で優勝。2位の兵藤に10m以上の差をつけて完勝した。
「予選(3分44秒21)で自信がつきました。ノンプレッシャーでしたし、(勝つには)あのレースパターンしかなかったので、思い切りいけて良かったと思います」
山口は800mで日本歴代5位の1分46秒15を持つ前田と、過去のトラックレースで勝ったことがないという兵藤のラストスパートを警戒。自分の勝負スタイルに持ち込んだ。
「前田とジュダの脚をなくしたいと思っていたところに、ふたりがついてきてくれてラッキーでしたね。3分40秒は切れるかなと思っていたんですけど、駅伝主将として結果を残せたのが良かったなと思います」
山口は2年時の箱根駅伝2区を1時間06分31秒の区間4位と快走した選手。昨季は10000mで27分52秒37をマークするも、箱根駅伝2区は区間12位と不発に終わった。今季は関東インカレの男子1部10000mで日本人トップの3位に入っている。トラックでは10000mに重点を置いてきた部分があったが、最後の日本インカレは1500mと5000mにエントリーした。
「2年目はトラックと駅伝を分けて取り組んだのがハマったんです。でも箱根2区がうまくいったことで、3年時は一年中『2区』のことを考えながら練習に取り組みました。疲れていても、練習しなくちゃいけない、と自分を追い込んでしまいました。結果的にトラックシーズンも中途半端になってしまって……。でも自分のキャリアを振り返ったときに、大学2年までは1500mと5000mで作っていくなかで、ロードもうまくいっていたんです。このスタンスでもう一度やろうと思って、今回は1500mと5000mを選びました」
昨季と異なり、体調に応じて「休息」も入れるようになり、質の高い練習を継続できたという。そして1500mに出場するからといって中距離のようなメニューはほとんどしていないようだ。
「1500mも有酸素運動の時代になっているので、単発のスピードより速いペースでどれだけ押していけるのか。200mダッシュのようなメニューではなく、400mを55秒で走れるくらいの練習しかしていないですね。5000m寄りの練習をして、自分のレースを1500mで出せたらなと考えていました。今回は中距離で活躍する選手が多くいたので、相手の土俵に乗らないように、長い距離からアプローチするレースができればと思っていました」
激戦種目で8点をもぎ取った山口。早大の駅伝主将は5000mでも再び“スパート”が炸裂することになる。
残り500mでトップに立ちキップケメイを突き放す
1500m決勝の翌日に行われた男子5000mは小池莉希(創価大3)がレースを揺さぶった。序盤で抜け出すと1000mを2分40秒、2000mを5分28秒で通過する。一時は後続に10~20mほどの差をつけた。しかし、2400m付近で後続集団に飲み込まれて、トップ集団は3000mを8分16秒で通過。その後、ペースが落ちて、4000mは11分08秒で通過した。残り700mで小池がペースを上げるも、早大のエースは動じなかった。
「小池君がレースを揺さぶってくるのは予想していました。ラストはキップケメイ選手との勝負になると思っていたので、どのタイミングで仕掛けるべきか。ずっと考えながら、レースを進めていたんです」
小池を冷静に追いかけた山口智規(早大4)は残り500mでアタックする。2日前に10000mを連覇したシャドラック・キップケメイ(日大3)に先制攻撃を仕掛けると、ライバルたちを寄せつけない。残り200mも力強いキックで駆け抜けて、歓喜のゴールに飛び込んだ。
優勝タイムは13分40秒06で、2位のキップケメイは13分42秒32。3位は平島龍斗(日体大4)で13分42秒84だった。
1500mに続いての優勝を飾った山口は、「疲労はありましたが、一日1本ですし、目の前のレースに集中しました。花田(勝彦駅伝監督)さんとラスト600mからの1周を56秒、残り200mを28秒でいけば誰もついてこられないだろうと考えていました。小池君が上げていたので、スパートのタイミングが少し遅くなりましたが、プラン通りのレースができたと思います」と胸を張った。
早大の駅伝主将として「18点」をもぎ取っただけでなく、1500mと5000mの2冠は日本人選手では初の快挙。「日本インカレの歴史に名前を残せて良かったです」と笑顔を見せた。
次のターゲットは7月上旬の日本選手権5000mだ。今年は予選・決勝のラウンド制のため、日本インカレでは2本揃えることも意識していたという。
「個人としては日本選手権の結果が一番欲しいです。東京世界陸上という目標は遠いかもしれないですけど、そこに少しでも近づけるように『3位以内』を目指して頑張りたい」
早大は7月後半のワールドユニバーシティゲームズに鈴木琉胤(1年)が5000m、佐々木哲(1年)が3000m障害、工藤慎作(3年)がハーフマラソンの日本代表に推薦されている。彼らは山口同様に前半シーズンで個を輝かせた。
「今季前半は個人の目標に向かって取り組んできて、後輩たちが活躍してくれました。夏合宿以降は、駅伝主将の僕がこの強い個の集まりを一つにして、箱根駅伝の優勝を貪欲に狙いにいきたい!」
15年ぶりとなる箱根駅伝の総合Vを目指して、早大のエースが力強く引っ張っていく。
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