
本連載は、Adobe Acrobatを使いこなすための使い方やTIPSを紹介する。第166回は、Acrobat AI アシスタント(以下、AI アシスタント)を使用して契約書の要約、理解しやすくする方法について紹介する。
AI アシスタントを使用すれば、難解な文書もわかりやすくなる
契約書を前にして頭を抱えた経験はないだろうか。複雑な法的文言や細かい条項が並ぶ文書を一語一句読み込むのは、時間もかかるし精神的負担も大きい。そんな時は、「AI アシスタント」が活躍してくれる。
AI アシスタントは、長大な契約書を瞬時に要約してくれるのが特徴。通常であれば数十ページもある契約書の内容を把握するには、少なくとも1時間はかかるのではないだろうか。しかし、AI アシスタントに任せれば、わずか数秒で主要な条項や重要なポイントを簡潔にまとめてくれる。
要約は単なる抜粋ではなく、文脈を理解した上で作成されるため、契約書の本質的な内容を見落とすリスクも小さい。特に初見の契約書や専門外の分野の文書においては、この機能が持つ価値は計り知れない。
使い方は簡単。単純な要約の場合は右上の「生成要約」ボタンを押すだけで要約を作成できる。また、契約書のPDFを開いた状態で、右上の「AI アシスタント」をクリックしてチャットウィンドウを表示させ、「この契約書を要約してください」と入力してもいい。
あっという間に要約が生成される。ポイントが箇条書きになっており、わかりやすい。契約書のどの部分を要約したのかがリンクとして用意されているので、ファクトチェックも簡単だ。
下までスクロールすると、その契約書を理解するうえで有用なプロンプトの候補をいくつか表示されている。興味がある内容があれば、クリックするとまたAI アシスタントが内容を分析し、回答してくれる。
契約書に潜む危険性の把握も簡単
お勧めしたいのが、「自分(自社)に不利な項目は何?」といった質問だ。AIは中立的な立場から契約条件を分析し、潜在的なリスクや問題となり得る箇条を指摘してくれる。専門的な法的知識がなくても、契約書の危険性を事前に把握できるようになるのだ。
別に相手に悪意がなくても、利用している契約書のテンプレにこちら側から見て落とし穴が潜んでいることはよくある。しかし、小難しい文章で書かれていると、目視でのチェックでは見落としてしまいがち。
例えば、筆者のようなライターであれば、「本業務にて作成された著作物の著作権は、すべて甲(発注者)に帰属するものとする」や「甲の検収を経て業務完了とし、修正は何度でも無償で対応する」など、言っていることがわかるが、受け入れられないものもある。しれっと「支払いは甲の検収完了後、翌々月末とする」などと書かれていれば、こちらの資金繰りが圧迫されてしまうし、「本業務に関連して知り得た一切の情報について秘密保持義務を負う」とあれば、類似する案件を受けられなくなってしまう。
複雑な契約書の内容を理解するには、情報の整理が欠かせない。要約だけでは理解が進まないなら、表組にしてもらうとさらにわかりやすくなる。例えば、契約期間、支払い条件、責任の所在、解約条件などを一覧表にまとめてもらえば、情報の比較や検討が簡単に行える。
プロンプトは「すべてのエンティティと値をテーブル形式で表示してください」でOK。今回のPDFでは、契約主体や対象、委託料などが表組で表示された。
契約改定時の差分比較の時間も短縮
契約書の改訂版が出された際の比較作業は、もっとも時間のかかる作業の一つだ。人間が目視で両方の文書を精読し、変更箇所を一つずつ確認していく作業は、負荷が大きすぎる。その上、見逃しも頻繁に発生する。そんな時もAI アシスタントにおまかせ。最大10個までの文書を同時にアップロードし、変更箇所を特定してくれるのだ。
例えば、旧バージョンと新バージョンの契約書をアップロードし、「変更箇所で特に注意すべき点を教えて」といったプロンプトを入れてみよう。単なる修正点の羅列ではなく、ビジネスに与える影響の大きさまで考慮した分析結果を得られるのだ。
今回、わざと甲側に不利なように修正した新バージョンを作成し、読み込ませたところ、見事にこちらの立場に寄り添って回答してくれた。
契約書は頻繁にかわすものではないので、苦手意識を持っている人も多いと思うが、なぁなぁでサインするのは避けたほうがいい。何かあった時には契約書の内容で判断が下されるので、AI アシスタントを駆使してきちんと理解しておくことをお勧めする。

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