
2025年5月30日、中国の西安にある秦の始皇帝陵で、観光客が兵馬俑(へいばよう)を破壊するという事件が起こった。
中国の公安当局がこの事件について捜査中だが、犯人は30歳の中国人男性で、その他の詳細についてはまだわかっていないとのこと。
兵馬俑は1987年に「秦始皇帝陵及び兵馬俑坑」の一部として世界文化遺産に登録されており、現在は兵馬俑坑博物館として一般に公開されている。
兵馬俑坑に飛び込んで暴れた男性客
いつも通り、多くの見学者が訪れていた西安の兵馬俑坑博物館で、突如として騒ぎが起こった。
孫(そん)という名前の中国人男性が、遺跡の周りに張り巡らされた保護用の柵とネットを乗り越え、立ち入り禁止となっている深さ約5.4mの3号坑の発掘現場に飛び込んだのだ。
そしてそこに立ち並んでいた兵馬俑を数体、「押したり引っぱったりして」動かそうとするような行動を見せ、そのうち2体の甲冑武者像(二級文化財)を損壊したと伝えられている。

事件後に撮影された映像では、倒れた兵馬俑の真ん中に横たわる男の姿が確認できる。男はこの後警備員によって取り押さえられ、器物損壊容疑で逮捕された。
当初は男が中国語も英語も理解しないようだったため、外国人観光客の可能性も取りざたされていたようだ。
だがその後の調べで、男は「孫」という名前の30歳の中国人であることが確認された。
当局では男が精神疾患を患っていた可能性を示唆しているが、まだ捜査段階にあるとして、詳細は発表されていない。
On the afternoon of May 30, an incident involving tourist vandalism occurred at the Terracotta Warriors Museum in Xi'an, Shaanxi Province.
— China in Pictures (@tongbingxue) May 30, 2025[https://twitter.com/tongbingxue/status/1928452725156819090?ref_src=twsrc%5Etfw]
A middle-aged man jumped into Pit No. 3 of the excavation site, resulting in damage to at least two Terracotta Warrior statues. The… pic.twitter.com/rqznkyKWJi[https://t.co/rqznkyKWJi]
2000年前に埋葬された「始皇帝の軍隊」
兵馬俑の「俑」とは、古代中国で高貴な死者を埋葬する際に、墓に一緒に納められる副葬品のことを言う。
このうち、兵士や馬をかたどった俑を「兵馬俑」と呼ぶ。だが単に「兵馬俑」と言った場合、我々がイメージするのは秦の始皇帝陵から出土した大量の兵馬俑ではないだろうか。
始皇帝陵の兵馬俑は、始皇帝陵が建設された西暦246~208年頃にかけて作られたとされており、これまでに合計で約8,000体が出土しており、始皇帝が率いていた軍隊を再現したものだと言われている。
古代中国の遺物として日本でも広く知られており、おそらく誰もが学校の教科書などで一度は目にしたことがあると思う。
秦の始皇帝は、死後も自分を守らせるために、等身大の兵士や馬の俑を大量に作らせて、自分の墓の周囲に埋葬させたのだ。
2000年近く地下で眠りについていた兵馬俑は、1974年に井戸を掘っていた地元の農民が偶然発見し、ツタンカーメン王の墓や死海文書などと並んで、20世紀最大の考古学的発見のひとつとされてきた 。
8,000体もあれば一つひとつの考古学的価値は下がるのでは?と思うかもしれないが、兵士の俑の顔や表情はどれも皆違っていて、階級なども正確・精密に再現されているんだそうだ。

実は日本でも起こっていた兵馬俑の破壊事件
実は同様の事件が、過去に日本でも発生している。展示されていた兵馬俑を、酔っぱらった日本人の見物客が粉々に破壊してしまったのだ。
1983年、「大阪城築城400年まつり(大阪城博覧会)」の会場で、特別展示されていた兵馬俑を、見物客の男が押し倒してしまった。
当時は日中国交正常化から10年という節目で、数日後には当時の胡耀邦総書記が視察に訪れるというタイミング。
ニュースを見ていた自分もどうするんだこれ…と思った事件だったが、日中友好ムードの中、「両国の友情と文化交流が破壊されることはない」という大人の対応で、ホッと胸を撫で下ろした記憶がある。
逆にこの時の対応で、日本の修復技術が中国側にも広く認められることになり、「怪我の功名」と言われたらしい。
その後も兵馬俑は何度か来日を果たしているので、博物館などで実物を目にしたことのある読者もいるのではないだろうか。
また、2017年にはアメリカで、見学に訪れた米国人の男性が、兵馬俑の指を折って持ち帰る[https://news.artnet.com/art-world-archives/drunken-terracotta-warrior-thumb-theft-franklin-institute-2279382]という事件が発生している。
中華人民共和国の刑法第324条第1項の規定によると、国家が保護する貴重な文化財などに指定された文物を故意に損傷させた場合、 3年以下の懲役または拘留に加え、罰金も科されるとのことだ。
孫の罪状は彼の精神疾患の状況や、文化財の損壊の程度、修復の難易度といった要因を専門機関が評価した上で決定されることになるという。

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