
「下流老人」「老後破産」…なんとも辛い言葉が増えてきた昨今。生活費、税金、社会保険料、そして将来への不安…、現役世代の多くが“見えない重荷”を背負っています。厚生労働省『令和6年 賃金構造基本統計調査』のデータとともに、「今の日本における生活の現実」を見つめ直します。
給与が増えても…「手取り25万円」36歳男性の生活
「いくら働いても、生活が豊かになる実感が持てません」
そう語るのは、都内在住の会社員・佐藤さん(仮名/36歳)。手取り収入は月25万円。一般的には中堅社員として安定した立場に見えるかもしれませんが、現実はそう甘くありません。
厚生労働省「令和6年 賃金構造基本統計調査」によれば、2024年の36歳男性の平均月収(所定内給与額)は約37万円。一方、女性は約29万円。そこから各種税金や社会保険料が差し引かれ、手取り額はおよそ7割前後になるのが一般的です。
所得税:約5%
住民税:約10%
健康保険:約5%
厚生年金:約9%
雇用保険:約1%
佐藤さんの手取りも25万円と、平均に準じた金額ですが、「実際に使えるお金」としては決して余裕があるとは言えません。
佐藤さんの家計の内訳は以下の通りです。
家賃:6万円
食費:4万円
光熱費:1万円
通信費:1万円
交通費:2万円
生活雑費:5万円
貯金:3万円
娯楽費:2万円
「突発的な出費があると、すぐに家計がひっ迫します。家電が壊れたり、冠婚葬祭が重なったりすると、貯金から捻出せざるを得ません」
いわば、想定外の出費が“家計のバランス”を簡単に崩すような状況。日々の節約に努めても、経済的な余裕はなかなか生まれません。
手取りが伸び悩む背景には、社会保険料や税金の負担増があります。
2000年代以降、健康保険料や厚生年金保険料は引き上げが続き、給与額面が同じでも手取りが減っているという現象が各所で起きています。
例えば年収500万円のサラリーマンでも、手取りは400万円前後にとどまるのが実情です。佐藤さんもその一人。
「給料は少しずつ上がっているはずなのに、自由に使えるお金が増えた実感はありません。社会保険料や住民税で、昇給分がほとんど相殺されてしまいます」
頑張っても「生活がどんどん味気なくなっていくんです」
36歳の佐藤さんが抱えるもう一つの悩みは、「老後の生活への不安」です。
厚生労働省の将来推計によると、2007年に生まれた子どもの半数が107歳まで生きる可能性があるとされています。「人生100年時代」と呼ばれる時代背景の中、現役世代の老後資金不安はますます強まっています。
「今は月に3万円ずつ貯金していますが、まとまった老後資金が貯まるのはずっと先の話。車の修理や医療費のような予期せぬ支出があれば、貯金はすぐに底をつきます」
生活のために削るのは、まず「娯楽費」。外食や旅行は控え、休日は自宅で過ごすことが増えました。
「無駄遣いはしていないつもりです。でもこうしてどんどん娯楽を削っていくと、生活がどんどん味気なくなっていくんです」
「今のままではいけない」と副業も検討していますが、本業の拘束時間やスキルの壁があり、現実的な選択肢が少ないのが実情です。
佐藤さんのように、収入は平均的でありながらも生活に余裕が持てない層は、今や少なくありません。
政府は新NISAやiDeCoなど、老後資金形成の仕組みを整えつつありますが、それらを活用できるのは「余剰資金」がある人だけ。日々の生活で手一杯な家庭には、制度の恩恵が届きにくいのが現実です。
「結局、自助努力だけでは限界があります。副業や投資も気になりますが、日々の暮らしを維持するだけで精一杯。社会全体の制度や支援がもっと必要だと感じます」
物価の上昇、手取りの減少、そして将来への漠然とした不安──。それでも日々の暮らしは続いていく。「平均的」な収入でも、安心して暮らせない社会の構造的課題が今、浮き彫りになっています。

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