
住民票上の性別を男性から女性に変更するよう目黒区役所に求めたものの認められず、精神的に傷ついたなどとして、アメリカ国籍の永住者が起こした国家賠償訴訟で、東京地裁は6月11日、請求を棄却する判決を言い渡した。
原告は、米テキサス州で性別変更を済ませたマクレディ・エリン・セラフィンさん。今後、控訴しない意向を示しているが、日本における「トランスジェンダー」の法的地位をめぐる議論の一環として注目される。
●配偶者の続柄を「縁故者」に変更すると告知された判決によると、エリンさんは、日本国籍の女性と結婚したあと、米テキサス州で法的に男性から女性に性別変更した。帰国後、住民票の性別を女性に変えるよう目黒区役所に申し出た。
しかし、目黒区からは、住民票上のエリンさんの性別を女性に変更するのであれば、配偶者の緑さんの続柄を「妻」から「縁故者」に変更すると告知されたという。
このような扱いなどを不服として、エリンさんは、性別変更時の住所地である目黒区、現在の住所地である大田区、さらには国を相手取り、国家賠償法に基づく損害賠償を求めて提訴した。
東京地裁は、行政側の対応が国家賠償法上「違法」とは認められないとして、請求を棄却した。
●「この国にはいてほしくないという気持ちがあるように感じます」この日の判決後、エリンさんと代理人らは東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。エリンさんは控訴する予定はないとした。
「4年もかけて、被告は(裁判を)引き延ばし引き延ばし、やってきたと感じています。控訴してまた同じようなことをするのは・・・(耐えられない)。判決では、私は(場面によって男性と扱われたり、女性と扱われたりすることを許容しているという点で)二重ジェンダー、ということになります。世界でも珍しい、私しかいない?」
エリンさんはそう言って寂しそうに笑った。さらに日本に20年以上住んできたが「非常に辛い」として、次のように胸の内を表現した。
「なぜこの国にこんなに一生懸命住もうとしたんでしょうね。少子化である日本、高齢化である日本、外国から人が来てほしいといいながらも、政府には私のようなLGBTの人はこの国にいてほしくないという気持ちがあるように感じます。永住権を持っても、一生懸命やっても(政府から)『私たちのようにはなれません』と言われているように感じます」
●「私たち家族はバラバラにされてしまいました」エリンさんの配偶者である緑さんも記者会見に同席した。緑さんによると、エリンさんは昨年、うつで休職していたという。
「(エリンさんは)トランスジェンダーとして日本で生きるということが、大変辛くて、それならばということで、昨年1年間はベルリンで就職活動をしていました。幸いにもとても良い職が決まって、そちらに就職することになりました。
裁判中に私たちがすごく感じたのは、『我が国の法律が気に入らないならば出て行けよ』と言われている気がずっとしていたということです。だから、『出て行きます』という結果になりました」
しかし、緑さんたちには子どもがおり、高齢で要介護の両親もいるという。
「私は海外に行くことができません。エリンだけが単身赴任で海外に行くことになりました。結局、この裁判で私たち家族はバラバラにされてしまいました。日本という国は、トランスジェンダーが生きにくい国、結婚しているトランスジェンダーを認めない国の意気込みというか、システム(があります)」
●原告代理人「スカスカな判決で驚いた」原告代理人をつとめた山下敏雅弁護士は、次のように語った。
「訴え提起当初の2年間、『住民票上の性別変更ができないのは、同性婚になるからという理由である』ということは争点とされず、そこを争点としてもらうのに2年もかかりました。そして4年もかけて出た判決も、従来の同性婚訴訟の積み重ねを無視した『スカスカ』な内容で驚きました」
配偶者がいるのに結婚する「重婚」について、犯罪であるにもかかわらず、今回の判決が日本の民法の規律と必ずしも矛盾するものとはいえないとしつつ、同性婚については整合性を欠くとしている点を「矛盾している」と指摘した。

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