
米国や世界の株式市場に長期的に投資すれば、年5~10%の利回りが平均して期待できるとされている。それに対し、「FXで1日10分で月利5.7%、しかも“放置トレード”で」と言われたら、にわかには信じがたいかもしれない。もともと1997年、27歳で起業し、当時は急速に普及し始めた携帯電話、さらにはインターネットの勃興期でネット通販事業で成功を収めた秋田洋徳さん。
ところが、経営していた会社を乗っ取られ、信頼していた人に裏切られてその会社を手放すことに……。そんなどん底に突き落とされたときに、友人から「FXって儲かるらしいよ」と聞き、なけなしの30万円をつぎ込んで1か月でほぼすべてを溶かしてしまったという。
人と会わなくても稼ぐことができるFXに魅力を感じ、負けた分も取り返そうと一念発起し、延べ3600時間以上もFXの研究に没頭。一般的に「ある分野でプロレベルのスキルを習得するために必要な時間の目安が3000時間」と言われるが、まさにプロレベルまでFXの研究をしたことで「2011年から年間トータルで負けなし」で利益をあげ続けているという。FXセミナー講師としても活躍し、その秘訣をまとめた秋田さんの最新刊『連続起業家が極めた「FXの極意」』の中から、「勝ち続けるために大切なこと」を聞いた。
◆FX投資で負ける人には共通点がある
秋田さんは、「FXでは“必勝テクニック”を知る前に学ぶべきことがあります」と話す。
「FX投資はチャート分析や売買タイミングなどのテクニックを学んだだけでは成功しません。芸術やスポーツの世界でも技術面で優れていても、本番でなかなか力を発揮できないケースがありますが、それは心理面が大きく影響しているからです。
FX投資や証券投資もビジネス同様、心理面、マインドセットが重要です。ことに投資の現場では、行動心理学の『プロスペクト理論』を理解しているか否かが決定的に重要です。
一般にFX投資で成功する人、いわゆる『勝ち組』(利益を出し続ける人)は、投資家全体の約10%と言われています。逆に言えば、約90%は『負け組』(損をし続ける人)になります。
このことから『FXは儲からない』『FXは怖い』と言った感覚を持つ人が、とりわけ一度FX投資をして撤退した人たちに多いと思われます。ですが、私はこれまで見てきたところ、『勝つ人と負ける人には明らかな違いがある!』と言えるのです。まずは、その違いを認識することが『負け組』から脱出するスタートになります」(秋田さん)
秋田さんが挙げる「負け組の共通点」が次の13個だ。
①利益を出すための目標を設定できない
②利益を出すために必要な投資知識が何か分からない
③「なんとなく上がりそうだから買う、下がりそうだから売る」という感覚だけの売買
④アナリストや評論家の意見・相場観で売買する
⑤損切りが出来ない、躊躇する
⑥ポジションを塩漬けにする
⑦小刻みなFXの取引で連勝したが、1回の負けで利益をすべて失う
⑧強制ロスカットにあったことがある
⑨ポジションを持っていないと寂しい
⑩計画性のないナンピンをした
⑪負けが続いたので一気に取り戻そうと取引枚数を大きくして取引した
⑫利益を延ばすことが出来ない
⑬一回一回のFXの取引の勝ち負けに一喜一憂する
どうだろうか。一つでも当てはまれば、それは「負け組」への道を突き進むことにつながると秋田さんは警鐘を鳴らす。
◆損失を回避する「プロスペクト理論」
投資の世界では「損小利大」という言葉がある。「負けは小さく、勝つときは大きく」ということだ。そのため「損切り」が重要になってくる。
「皆さんは『行動経済学』をご存じでしょうか。2002年に米国(イスラエル)の心理学者ダニエル・カーネマン氏がノーベル経済学賞を受賞して一躍『行動経済学』の名が有名になりました。経済学に心理学を加えた斬新なものでした。
その後、日本の経済学者などによる解説書が数多く出版され、一種のブームとなり、その流れは今でも続いています。さらには社会現象などを行動経済学で読み解く本も出てきました。
この行動経済学の中心的な概念が『損失回避性』であり、『プロスペクト理論』です。このプロスペクト理論はFX投資家にとっても重要な考え方となります。
英語の『prospect』は『可能性・見込み・予想』の意味ですが、プロスペクト理論は不確実性があるとき、人はどのように意思決定するか、確率を伴った選択肢のどれを選ぶかを数式モデルで説明するものです。
理論自体はなかなか難解ですが、人々がリスクを伴う選択肢の間で、どのような意思決定をし、損失と利益をどのように評価するのかを記述するものなので、投資家にとって非常に価値のある理論です」(秋田さん)
◆「確実性効果」と「損失回避性」
次の2つの質問について、AかBを選んでみてほしい。
【質問1】
A 100%の確率で100万円もらえる。
B 50%の確率で200万円をもらえるが、50%の確率で0円(1円ももらえない)。
【質問2】
A 100%の確率で100万円を支払う。
B 50%の確率で200万円を支払うが、50%の確率で0円(1円も支払わなくてよい)。
さて、【質問1】では、AとBのどちらを選んだだろうか。
「最初の【質問1】では、理論的には両方の期待値は同じプラス100万円です。しかし多くの人はAを選択します。人は、期待値が同じでも、不確実な利益よりも確実な利益を得ることを好むからです。これを『確実性効果』と言います」(秋田さん)
続いて、【質問2】はどちらを選んだだろうか。
「【質問2】は、理論的には両方の期待値は同じマイナス100万円となります。しかし多くの人はBを選択します。人は、期待値が同じでも、確実な支払いよりも損失を避けられる可能性がある不確実なリスクを好むからです。これを『損失回避性』と言います」(秋田さん)
このプロスペクト理論に基づき、秋田さんは投資家の心理を次のように説明する。
「利益は早く確実に受け取りたいという心理が働き、利益を伸ばすことができない。逆に損失はできるだけ確定させたくないという心理が働き、損切りができず大きな損失を出してしまう。
これは『損小利大』の逆で、このような“利小損大”の取引を繰り返すことにより、資産が減ってしまうのです。実は、個人投資家が勝てない理由はここにあるのです。
このテストで【質問1】B、【質問2】Aを選んだ人が最もマーケットに向いています。とはいえ、【質問1】A・【質問2】Bを選んだ人も、プロスペクト理論を通して『損は潔く切って、利は伸ばす』ことが大事であるのを理解すれば十分な進歩です」(秋田さん)
人は「損失に対する痛みが、利益に対する喜びよりも強く影響する」という心理が働きやすく、プロスペクト理論では「利益を受けるときはリスクを避けようとし、損失を被るときはリスクを取ろうとする」と結論づけられている。このことを知り、その逆の「損小利大」を徹底することが、FX投資で負けない秘訣なのだ。
【プロフィール】秋田洋徳 (あきた・ひろのり)
連続起業家、経営コンサルタント、FXスクール講師。
1969年名古屋市生まれ。大学卒業後JTBに入社。5年間の勤務後、1997年に独立起業。
その後、起業した会社から離れFXトレードの研究と実践を積み重ね、独自の手法「秋田式FX」を確立。過去の失敗経験から学び、行動経済学やプロスペクト理論を応用した安全なトレード手法を開発。
現在、2011年のFXスクール開校以来、自身の手法を伝えるセミナーや教材を提供し、6000人以上の生徒に指導を行っている。月利5.7%の安定した収益を実現し、飲食店の経営、経営コンサルティングを営みながら、他の人々にもFXトレードを通じた人生の可能性を広げる機会を提供している。
著書に『連続起業家が極めた「FXの極意」』など。
<取材・文/日刊SPA!編集部>

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