タレントの有吉弘行さんがXで、動画サイトなどで拡散されている芸能人のフェイク動画について「俺もどうでもいいけど。世の中的には無くなったほうがいいんだろう」と苦言を呈した。

有吉さんが投稿したのは、自身によく似た人物が警察官に連行されている画像。「有吉弘行が法廷で逮捕される」といったセンセーショナルな言葉も添えられており、生成AIで作られたものとみられる。

ネット上では、今回のように「逮捕された」かのように見せかけるもののほか、存命中なのに「死亡した」といった内容を含む悪質なフェイク動画が出回っている。

その法的な問題について、インターネットの問題にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。

⚫︎逮捕を想起させる「フェイク動画」は違法性あり

──フェイク動画を作る行為に違法性はありますか。

個人的に楽しむ範囲であれば、基本的に問題になることはありません。

しかし、それを不特定多数の目に触れる状態に置けば、その内容によっては名誉毀損やプライバシー侵害、肖像権侵害といった権利侵害が発生する可能性が高くなります。

──どのような基準で権利侵害と判断されるのでしょうか。

名誉毀損については、「社会的評価の低下」があれば成立します。公共性や公益目的、真実性のいずれも満たされるのであれば、違法性がないことになりますが、フェイク動画はそもそも真実性を欠くため、違法性がないと判断される可能性は低いでしょう。

今回のように、警察官に連行されていたり、逮捕を想起させたりするものは、犯罪行為をしたと受け取られるものであり、社会的評価を低下させており、違法性がないとされる余地もないでしょう。

肖像権侵害については、本人の社会的地位や活動内容、利用の必要性などを総合的に考慮して、社会生活上の受忍限度を超えているかが、判断基準になります。

もちろん動画の内容によって、評価が変わる余地はありますが、今回の動画については、受忍限度を超えると判断されることになると思われます。

⚫︎拡散させた人も責任を問われる可能性がある

──動画を閲覧したり、拡散した人も法的責任に問われますか。

単に閲覧するだけであれば、法的責任が発生することはありません。

ただし拡散した場合は注意が必要です。「これはデマだから惑わされてはいけない」といった注意書きをつけている場合には問題ないと考えられますが、単に拡散させれば、いわばデマを自分の手で広げているわけですので、法的責任が生じる可能性があります。

──フェイク動画の被害者には、どのような対応策が考えられますか。

「フェイクである」と発信することや、法的措置を検討している旨を表明するのも一つの方法です。

また、プラットフォーム事業者が削除依頼の窓口を設けていることも多く、そこに申請することで削除を求めることができます。

さらに、どうしても許しがたいと感じる場合は、発信者情報開示請求によって投稿者を特定し、損害賠償など責任追及する選択肢もあります。

【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:https://www.alcien.jp

警察に連行、法廷で逮捕?有吉さんが"フェイク動画"に苦言 拡散にも法的リスク、専門家が警告