
株価が割安のまま放置されている企業に対し、企業価値の向上を迫る「アクティビスト(物言う株主)」。その多くは外国人投資家だ。東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請したことを受け、ここ数年、海外アクティビストの活動が活発化している。「株価を意識した経営」とは、いったいどのようなものか。本稿では、『アクティビストが日本株式市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』(菊地正俊著/日本実業出版社)から内容の一部を抜粋・再編集。資本効率の改善に成功している事例を取り上げ、今求められている経営の在り方を考える。
日本特有の慣習である「株式持合」。株主の意見が経営に反映されにくくなったり、経営の規律がゆがむ原因になるとして問題視され、この慣習を見直す企業が増えている。ゼネコンや自動車業界では、株式持ち合いの解消はどの程度進んでいるのか?
進み始めた持合解消への動き
■大手ゼネコンは持合解消目標を前倒し
大手ゼネコンの持合解消の目標は、2026年度末までに政策保有株式の純資産比を20%以下(または未満)への削減であり、その目標は各社横並びでしたが、2024年11月の中間決算発表で清水建設は同20%以下への削減目標を1年前倒しし、2027年3月末までに10%以下に減らす目標を新たに示しました。
清水建設は上限200億円(自己株式を除く発行済株式総数の3.7%)の自社株買い、業績予想の上方修正、2024年度予想DPSの23→35円への増配を同時に発表したことで、発表当日に株価は前日比+20%近く上昇しました。
清水建設は大手ゼネコン4社のなかで、近年上場政策保有株の売却額が最も大きかったものの、2023年度に営業赤字に陥るなど、業績が悪かったので、2024年度中間決算発表がいろいろな意味でポジティブ・サプライズになりました。
・図表3-7 清水建設の政策保有株式の縮減状況
他の大手ゼネコンについては中間決算発表で、大林組は「2027年3月末までのできるだけ早い時期に保有株式残高が純資産の20%以内とすることを目途に売却を推進。売却と株価下落によって、2024年9月末の純資産比は26.7%に低下」と述べました。鹿島は「2026年度末までに純資産の20%未満の目標達成に向けて、2024年度中に30銘柄程度を売却する予定。2024年度上期に15銘柄63億円売却し、政策保有株式の純資産比は2024年3月末25.8%→9月末22.4%と低下」と述べました。
大成建設は「政策保有株式の縮減は2026年度末までに純資産の20%未満にするという目標を掲げており、今後追加して1500億円の資金が獲得されることが見込まれる」と述べました。中間決算発表前まで、大手ゼネコン株は持合解消で相手からも株式を売られる懸念があったうえ、業績面での不透明感もあったため上値が重い展開が続いていましたが、中間決算の好業績や資本政策の見直しで、大手ゼネコンの株価は大きく上昇しました。清水建設以外の大手ゼネコンも2024年度の本決算発表で持合解消計画を前倒し・加速することが期待されます。
■ トヨタグループは持合解消に前向きに転換
トヨタ自動車は2021年度にNTTと業務資本提携を行ない両社での持合を増やすなど、持合解消に消極的とみられていましたが、2023年度中間決算で政策保有株式の縮減方針を打ち出したため、その実行度合が注目されています。
トヨタ自動車の上場政策保有銘柄数は223年3月末49→2024年3月末40銘柄と減り、ネット削減額(上場政策保有株式の株式数増加・減少に係る取得・売却価額の差)も▲3232億円と大きかったですが、時価上昇によって、保有時価は3.1兆円→3.5兆円と増えました。トヨタ自動車が2023年度に売り切った銘柄はJR東日本、ANA HD、JAL、ハーモニックドライブなど9銘柄でした。
豊田自動織機は以前から自社の時価総額に対して、保有するトヨタ自動車株の時価の大きさが問題視されてきたうえ、ダルトン・インベストメンツから2024年4月に資本コストや株価を意識した経営等の株主提案を受けました(5月に提案を取り下げ)。豊田自動織機は2023年度に三菱食品、MS&ADインシュアランスグループHDを売り切ったほか、デンソーの保有株数を減らすことで、上場政策保有株式を▲2402億円削減しました。
デンソーはトヨタグループのなかで持合解消に以前から前向きでしたが、有価証券報告書で「2023年4月開催の取締役会及び2023年11月開催の取締役会における検証結果に基づき、特定投資株式のうち8銘柄の全数量売却及び3銘柄の一部売却を行なった(売却金額1258億円)。
同年11月の取締役会においては、さらなる資産効率の向上と企業経営に対する規律を高めることを目指し、投資先企業との株式持合関係の解消を含む保有株式の売却について決議した」と記載しました。デンソーは2023年度にトヨタ紡織、豊田通商、豊田合成等を売り切ったほか、豊田自動織機とジェイテクトの保有株数を減らすなど、トヨタグループとの持合解消が大きくなりました。
■ アイシンが持合株ゼロの方針を打ち出す
トヨタ自動車の持分法適用会社のアイシンは、2023年9月に発表した中期経営計画で、政策保有株式を3年間でゼロ化を目指す方針を打ち出し、2024年4月の決算説明資料で、2023年度に持合解消で1117億円の資金捻出をしたと述べていました。
有価証券報告書で、上場政策保有銘柄のうちデンソー、豊田通商、トヨタ紡織、豊田合成など7銘柄を売り切り、バランスシート計上額のネット減少額は▲1117億円だったことが確認されました。アイシンの残りの上場政策保有株式は12銘柄、時価1208億円なので、3年間でゼロ化は十分視野に入っています。アイシンは2024年9月の中長期事業戦略説明会で、持合解消による株式構成の変化について質問され、「個人株主や海外株主を増加させたい」と答えました。
豊田合成が2023年度にデンソーや豊田自動織機など19銘柄(売却合計額は127億円)を売り切ったことに驚きました。トヨタ紡織はトヨタグループのなかで元から持合株が少なかったですが、2023年度に豊田通商、デンソー、アイシン、豊田合成、タチエスを売り切り、残りがわずか2銘柄(豊田自動織機と御園座)・5億円になりました。
トヨタ紡織は政策保有株式のゼロ化を目指すとは言っていませんが、2024年度中にもゼロにできそうです。2024年4~5月の決算発表時には自動車会社の持合解消が注目されましたが、トランプ大統領の再選によって関税の悪影響が懸念されるようになったため、投資家の持合解消動向への関心は低下しました。
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