
「さすが九州」を意味するネットスラングの「さす九」とは、「男尊女卑」の意識が根強いと言われる九州地方(出身者)を揶揄する言葉としてネットやSNSで広がっている。
昭和女子大学客員教授でジェンダー問題にくわしいジャーナリストの白河桃子さんは、この言葉からジェンダーギャップの問題が浮かび上がってくると指摘する。
●ジェンダー・ギャップ指数で可視化された地域の順位白河さんは「さす“九”」といえど、九州に限らない全国的な問題だと指摘する。
「日本は先進国の中でもジェンダー・ギャップ指数は下位で、男女の格差があります。
これは日本全体の問題であるということで、別に九州だけに限った問題ではありません」
弁護士ドットコムニュース編集部でも「さす九」をめぐる体験談や考えを集めたところ、「姑にこきつかわれた」といった恨み節が届いた。
【読者の声→】〈全国各地の女性から恨み節「姑にこき使われた」「短大進学も断念」〉
一方で「九州男児は女性に優しいですよ」との声も届いた。
【読者の声→】〈男性「不愉快だ」「九州男児は女性に優しい」〉
白河さんは「『家の中は妻が強い。うちの妻に全部支配されてる』と笑い話にされるようなこともありますが、それはただの1つのエピソードです。ファクトを見ないといけません」とばっさり。
都道府県別に、政治、経済、教育、行政の4分野のジェンダー・ギャップが順位づけられた共同通信による指数が公開されている。
「たとえば『行政』の順位が1位に近づくほど、県庁や役所にいる女性の意思決定層が多くなるということです。それは県の施策にも関係することになり、地元や県の会社組織にも影響を及ぼします」
「教育」の順位が低ければ、それはつまり「そこの県に女性として生まれると、教育投資をされない。つまり教育を受けるチャンスを得られなくなる」ということだ。
学校の壇上に立つ「偉い人」が常に男性、あるいは常に女性であるかどうかは、それを眺める子どもたちにも影響すると話す。
ジェンダー・ギャップ指数の順位は、九州が突出して低いわけではなく、ほかの地方でも低いところがある。
「こうしたファクトをメディアも取り上げることで、地域で問題意識がもたれていきます」
●若い女性が地方から離れる3つの理由少子化に影響する要因として、若い女性が地方から離れていく現象が指摘される。
今年3月には「若者・女性にも選ばれる地方」に関する総理車座がひらかれ、地方で暮らす女性から集めた多くの声が石破総理に届けられた。
「多くの女性たちが地方自治体から東京に流出して、そのまま帰ってこないという問題がありますよね。彼女たちは3つの問題があると言っていました。
仕事がない。女性役割を押し付けられたくない。結婚・出産の圧力が厳しい」
こうした理由が背景あるのに、地方自治体がかかげる「少子化対策」は、子育て対策に手厚いと白河さんは指摘。
「女性たちは18歳とか20歳とか22歳で、子育てを考えるより手前で地方を出ていってしまいます。仕事がないといった問題や、男女賃金格差もすごく大きいのです。
さらに、家とか地元の人間関係そのものが、もうすでにやはり女性役割の押しつけとか、それから結婚出産への圧力とか、そういったものがあるのだと思います」
大事なことは、女性が経済的に自立できる土壌が大前提であり、その上で先の選択があるということ——。白河さんは語る。
●「PTAの役員になりたい」という女性の苦しみ「私が聞いて一番驚いたのは、PTAの役員になりたい女性がたくさんいる地域があるんです。PTAの役員って普通はみんなが嫌がるので驚きますよね。彼女たちが役員をやる理由は『PTAです』といえば、家から出られるからだそうです。
見えないけれど、女性にかけられている圧力はものすごくたくさんあって、生き方が狭められているんですよね」
女性は好きで地方を出ていくわけではない。
「女性が地方から出ていくことが少子化の要因にもなる。それを女性のせいにしないでくれという声もあります。その地域で生きていかれない、生きづらい理由があるから出て行かざるを得ないわけなんです。
だから、そこを無視して、女性が地方から勝手に出ていくと主張するだけでは何も始まりません」

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