東京の上野でスナックを営む大谷麻稀です。会社員を辞め、未経験の水商売で独立してから早2年。日本屈指の飲み屋街で、昼も夜もさまざまな人間模様を見てきた私が、今夜のお酒がちょっぴり美味しくなるコラムをお届けします。

スナックにおける“2回目の来店”は、まだまだ初対面のようなもの。再訪してくださること自体は嬉しい限りですが、これからお店にとって大切な“お客様”になっていくのか、それとも“癖あり”認定されるのか、まだ見定め中の状態。

スナックは普通の飲食店と比べて、お客様とお店側の距離が近いもの。だからこそ、距離感の詰め方が重要なんです。今回は、「2回目でそれをしちゃうか……」と内心ドン引きしてしまう振る舞いを紹介します。

◆①自分のことを「覚えてて当然」と振る舞う

我が物顔で来店し、メニューの説明をしようとしても、「いつものでいいよ」と、まるで常連気取り。しかし、どちら様でしたっけ? その顔、確かに見覚えがあるような、ないような……。正直、覚えてるかどうかも微妙なレベルです。

「俺のこと覚えてないの? 名前言ってみて」……いやいや、数年前に一度来ただけ。「この話、前にしたじゃん」……あなたの彼女のお父さんの出身地なんて覚えてませんよ!

スナックを含む夜のお店の女の子たちは努力家で、接客したお客様の記録を取って再会時に思い出せるようにしていることもあります。ですが、脳みそのキャパシティには限度があるんです。年に何百人、何千人ものお客様と接するわけですから、一度来店しただけの方との会話を完璧に覚えられるはずがありません。

人生で食べたパンの枚数どころか、パンに塗ったブルーベリージャムに個体の粒が何個ついてたか記憶しているくらい至難の業だと思ってください。

「俺のこと覚えてないの?」なんて振る舞うよりも、「1回しか来てないから覚えてなくて当然だよね」と、寛容なスタンスで接してくれる方が、確実に好印象を与えられます。

◆②常連ぶった振る舞いをする

「俺の席、座られてるじゃん」……いやいや、あなたの席じゃありません。

「水曜日って暇なんだね」……あなた、まだサンプル数2つだけの混雑状況データで話してますよね?

まだ若葉マークがついた状態だといえるのに、「この店は〜」と隣の初対面の方に解説を始める厚かましさ……。「俺ってわりと常連でしょ?」と偉そうに言う前に、せめてあと10回は通ってみてください。

◆③恩着せがましく“また来てやった感”を出す

「この間、女の子全然いなかったのに、また来てやったんだよ。偉くない? 何かサービスしてよ」

何の義理があってそんなこと言うのでしょうか? スナックはお客様に選ばれる立場とはいえ、逆にお店側からもお客様を選んでいます。サービスはお客様から要求するものではなく、お店からの厚意です。

1回目で好印象を与えれば忘れませんし、それがサービスに繋がることもあります。でも、要求している時点で「協調性がなさそう」「“テイカー気質”だな」と、実は内心で避けられているかもしれません。

◆④「あの人呼んでよ」

「この間隣にいたさ、ほら、あの◯◯なお客さん。今日来ないの? 俺が来てるって言えば来るでしょ?」

はい、これもまた自己中な発言ですね。スナックはその日どなたが居合わせるか、どんな会話が繰り広げられるか、全てが予測不可能。偶然の出会いを楽しむ場です。2回目の来店で「俺が来たんだから、あの人も呼びだせ」と言うのは、かなり傲慢な態度。謙虚に振る舞えないお客様は、お店からも敬遠されがちです。

◆⑤“前回の空気感”を求める

「この前は、みんながカラオケ熱唱モードだったから、今日もカラオケしにきたのに」

不満そうにそんなこと言われても……。スナックは毎回違う空気を楽しむ場所です。仮に前回盛り上がっていたからといって、その日も同じように盛り上がるとは限りません。カラオケで熱狂しているときもあれば、しっとりと談笑するときもあります。

スナックは毎日、その場の空気で織りなす即興劇です。その場に居合わせたほかのお客様との掛け合いこそが醍醐味です。自分が主役ではないことを理解しなければいけません。

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スナックの女の子たちは、“親しみ”を演出するプロ。ですが、たった2回目では決して常連さんとはいえません。お店のルールや雰囲気を感じとり、ご自身とお店の相性が合うかどうかを、お互いに見定める期間です。謙虚に振る舞うことで、ほかのお客様やお店から「ぜひ常連になって欲しい!」と懇願される立場になれると思いますよ。

<TEXT/大谷麻稀>

【大谷麻稀(まきぱん)】
上野にてスナックを経営する28歳。大好きなお酒にコミットするべく鉄道会社を退職し、ほぼ未経験の世界へ転身。TOEIC910取得。趣味は海外一人旅

大谷麻稀