
この記事をまとめると
■1980年代にマダガスカルで国産車「カレンジー」が産声を上げた
■質素な設計ながら国民の支持を集め教皇専用車まで製造された
■倒産ののち2009年に復活し、2016年には新型「マザナII」も登場した
1980年にマダガスカルに国産車が登場
インド洋に浮かぶ島国、マダガスカルにおける動植物は80〜90%が固有種、つまりマダガスカルにしか存在しない種だそうです。が、カレンジーというキュートなクルマもまたマダガスカルにしか存在しないはず。なにせ、70人の従業員によるまさに手づくりという民芸品のようなクルマで、輸出どころか国内需要にだって手いっぱいな様子。クルマの出来はどうあれ、さほど豊かでもなく、また人口も多くない島でもって作られるカレンジーとはいったいどんなクルマなのでしょう。
奇妙なサルやら派手な鳥が飛んでいるイメージに反して、マダガスカルはずっと政情不安にさらされてきた歴史があります。そんななかで、1980年に当時のラツィカ大統領によって国営企業だったIMI(マダガスカル・イノベーション研究所)に開発させたのがカレンジーというクルマでした。社会主義を掲げ、豊かとはけっしていえないマダガスカルにとって、国民が輸入車を手に入れるというのは難しく、国内生産は政府の悲願だったのです。
そして、1984年から一気に「イサカ」「マザナ」「ファオカ」の3タイプを発売。といっても、FRP製ボディでバン、オープン、4ドアセダンのバリエーションそれぞれ別のネーミングという仕組み。それでもパリのモーターショーに出品され、質素ながらも低価格なカレンジー車はウケがよかったとのこと。
なにしろ、パワーウインドウ、エアコン、ABSやエアバッグなどの装備は一切なく、とにかく「壊れない」「簡素」「低価格」だけが取り柄。ケチで知られるフランス人がよろこぶのも納得です。ちなみに、パリでお披露目したのは、マダガスカルは一時期フランス領だったことから「親戚付き合い」的な関係によるものではないでしょうか。
また、1989年にはマダガスカルを訪れたヨハネ・パウロ2世のためにパパモビル(教皇専用のパレード車)まで製造しています。これには国じゅうがどよめき、歓喜の声が溢れたとされています。
なお、エンジン、ガラス類、タイヤ&ホイールについては国内では生産できないため、フランスやアフリカなどから輸入。また、生産ラインなどはなく、文字どおり従業員による手作りなので、年間数十台という生産ペースも致し方ないところ。それでも、マダガスカルではダントツ人気で、輸入車よりもカレンジーという声が強かったとか。
ところが、1990年代に入りマダガスカルの政情が安定を失うと、カレンジーはあっけなく生産中止、閉門となってしまったのでした。が、それから20年ほど経った2009年、フランスのエンジニアリング会社「ル・ルレ社」がマダガスカル政府と共同出資することでカレンジーは復活することに。もっとも、リバイバルした当時のカレンジーにオリジナルモデルを作る余裕はなく、時代遅れもはなはだしかったルノー18などのバッジを替えて販売するしかありませんでした。
ちなみに、バッジに描かれているのはマダガスカル特有の牛「ゼブ」のシルエット。国民の貴重な動力源&食料である牛とは、いかにも国産車にふさわしいマークといえるでしょう。
新型車も相変わらずの不恰好さに愛らしさが溢れる
さて、新生カレンジーが作ったひさしぶりの新型車「マザナII」は2016年に登場。先代マザナの面影を残す4ドアスタイルで、不格好がゆえに愛嬌に満ちたスタイリングといえるでしょう。エンジンはシトロエン/プジョーが作った110馬力のディーゼルで、低品質の燃料でも稼働するほか、冷却やフィルタリングなどは熱帯仕様へと変更されています。そのおかげか、最高速は150km/hに達するとのことですが、現地の方にいわせると「マダガスカルにそんなスピード出せる道はない」のだとか。
そんな国内の道路環境を考慮して、マザナIIは4輪駆動を導入。このシャシーがまた変わっていて、前後2分割された鉄板をつなぎ合わせることでプロペラシャフトの収納を可能にしたとのこと。イメージしづらい製法ですが、ここいらも手づくりならではの工夫かもしれません。
いまのところ、1台のマザナIIを完成させるのには1カ月かかるとされていますが、今後数年で年間200台を生産する計画がある模様。価格はボディスタイルによって4800~6800ユーロ(約79万~112万円)で国内販売のみ。手に入れようと思ったら、マダガスカルの住人になるのが条件だそう。もちろん、増産が叶えば外貨獲得のためにも輸出もするはずで、その際は日本も視野に入れてほしいものです。
それにしても、マダガスカルのような島国からオリジナリティあふれるクルマが生まれるとは、なんだかほっこりしてきます。手づくり感あふれるカレンジーの動向は、クルマ好きでなくとも目が離せそうにありません。

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