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911 ダカールやウラカン・ステラートのフォード流解釈

カプリを電動クロスオーバーで復活させ、ハッチバックのフィエスタを終了させたフォードだが、センスのある自動車メーカーだという特長は変わらない。でなければ、V8エンジンのマスタングや、過激なピックアップ、レンジャーラプターを擁しないはず。

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そして新たに、ユーモアたっぷりのマスタングマッハE ラリーが登場した。ポルシェ911 ダカールや、ランボルギーニ・ウラカン・ステラートに対する、フォードバッテリーEVによる解釈だと捉えて良さそうだ。

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フォード・マスタングマッハE ラリー(英国仕様)

悪路の走破性を高めるため、サスペンションは20mmアップ。磁性流体を用いたダンパーは、プログラミングし直されている。駆動用モーターは2基載り、総合での最高出力は486ps。ベースになったのは、マスタングマッハE GTだ。

足元を飾るのは、1インチ小さいホワイトのホイール。サイドウォールの高い、オールシーズン・タイヤが履かされている。シャシー底面にはスキッドプレートが追加され、駆動系が保護される。

ドライブモードには、ラリースポーツを追加。スタビリティ・コントロールの制御が緩くなり、アクセルレスポンスが線形的になる。グリップが充分に効かない路面で、より滑沢にボディを振り回すために。

ボディには、フォードフォーカス RSとイメージを共有するスポイラーを装備。ブラックのストライプやサイドのロゴが、ラリーカーっぽさを強めている。

乗り心地は大幅に改善 積極的なコーナリング

メニューとしては、911 ダカールやウラカン・ステラートほどシリアスではない。しかし、フォードのファミリークロスオーバーとして、そんな必要はない。むしろ、2250ポンド(約44万円)という現実的なオプションなことがうれしい。

バッテリーEVを楽しむ、新たなスタイルとして歓迎できる。ただし、英国や日本の場合、舗装されていない公道を見つけるのは少し難しい。結果として、オンロードでの性能も重要になる。

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フォード・マスタングマッハE ラリー(英国仕様)

ベースとなったマスタングマッハE GTは、路面の凹凸を吸収しきれず衝撃が伝わり、落ち着いた乗り心地とはいえなかった。だがラリーでは、その悩みは大幅に改善された。高性能なモデルとして、充分理解できる範囲に。

ストロークの伸ばされたサスペンションと、肉厚なタイヤの効果といえる。見た目だけの「ラリー」ではない。

路面が濡れ冷えたカーブへ積極的に侵入でき、意欲的に脱出できる。ラリースポーツ・モードは、僅かだが、従来よりリニアな反応を得ている。

それでも、ドライバーズカーとして完璧になった、とはいえないだろう。ブレーキペダルは遊びが大きい。踏み込んでいくと、突然制動力が効き始める印象がある。

ステアリングも、穏やかなドライブモード時は極めて軽いものの、ラリースポーツ・モード時は重すぎる。フォード車特有の、バネが効いたような手応えは好ましいが、フィードバックは余り伝わってこない。

グラベルでの安定したドリフト 電費は優れず

電動ホットハッチヒョンデ・アイオニック5 Nほどの、ゲームチェンジャーではないかもしれない。とはいえ、これならグラベルへ思い切り飛び込める。

小石が露出したぬかるんだ路面にも、マッハE ラリーはまったく動じない。むしろ、そんな環境で真価は発揮される。安定したドリフトを誘うのは、極めて簡単。それでいて、後輪駆動のように自然に操れる。

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フォード・マスタングマッハE ラリー(英国仕様)

シングルモーターの後輪駆動マスタングマッハEでも、ドリフトに興じれる。しかし、フロントタイヤを受け持つ2基目のモーターは、効果的に姿勢を安定。直線が見えスライド量を戻したい場面では、フロントタイヤがボディを引っ張ってくれる。

ソフトウエアの制御が、若干おぼつかない瞬間は感取される。しかし、ノーマルのマッハE GTより気にならなかった。

新たに得た能力を、実際にどこまで発揮できるかは、暮らしている地域で変わる。アスファルトしか走らないドライバーなら、より安価なアイオニック5 Nの方が充足感は高いはず。そもそも、マスタングマッハEは技術的に少し旧世代感が拭えない。

駆動用バッテリーの容量は91.0kWhと大きいが、電費は今回の平均で3.8km/kWhと、カタログ値を大きく下回った。気温は氷点下に近かったとはいえ。同じ日に試乗した韓国のSUVジェネシスG80は、5.4km/kWhを得られている。

現実的な航続距離は、350kmほど。急速充電は最大150kWと、最速の部類ではない。

電動クロスオーバーにユニークさとカラフルさ

ちなみに、試乗車にはハンズオフ運転を叶える自律運転システム、「ブルークルーズ」機能が実装されていた。高度なアダプティブ・クルーズコントロールと車線維持支援が融合したようなものだが、良好に動作していた。

ただし、自動での車線変更には対応していない。運転中、ステアリングホイールを握らない腕が、手持ち無沙汰だったことも確かだ。

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フォード・マスタングマッハE ラリー(英国仕様)

マッハE ラリーは、必ずしも必要なモデルではないかもしれない。しかし、フォードの作るという判断は、素晴らしいものだと思う。面白みに欠ける同クラスの電動クロスオーバーに、ユニークさとカラフルさをもたらしてくれた。

オプションに留め、リスクを比較的低く抑えつつ、走りの楽しいモデルを完成させている。911 ダカールやウラカン・ステラートと同じく、オフロードとの親和性を高めつつ、オンロード能力も向上している。同社のユーモアセンスが、如実に現れている。

フォード・マスタング・マッハE ラリー(英国仕様)のスペック

英国価格:7万6790ポンド(約1497万円)
全長:4712mm(標準マッハE)
全幅:1881mm(標準マッハE)
全高:1597mm(標準マッハE)
最高速度:199km/h
0-100km/h加速:3.6秒
航続距離:508km
電費:4.6km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2343kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:91.0kWh
急速充電能力:150kW
最高出力:486ps
最大トルク:87.4kg-m
ギアボックス:1速リダクション(四輪駆動


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