
刑務所で不適切な医療行為があったにもかかわらず、幹部職員らが放置したなどとして、金沢刑務所や東京拘置所で勤務していた医師らが6月16日、都内で記者会見を開き、法務省矯正局に対して、調査と適切な対応を求めて申し入れたことを明らかにした。
医師の1人は「刑事施設の職員の一部には依然として、『被収容者は一般に比べて医療水準が劣ってもよい』という根強い差別意識があると思われます」とうったえた。 (弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●公益通報5回、抜本的な対策取られず記者会見に出席した医師や、その代理人弁護士によると、金沢刑務所で2023年、摂食障害を抱える被収容者に医師が指示した点滴をおこなわなかったり、目の異常が明らかなのに点眼薬を処方するだけの対応にとどまったりするなど、不適切な医療行為があったという。
また、ある幹部職員が医師に対して「東京拘置所では医師2人を辞めさせてきた」などと不適切な発言をしたり、パワーハラスメントと受け取られるような態度を取ったりしたという。
こうした金沢刑務所内の医療の状況を問題視した医師らは、2024年5月から2025年2月までの間、5回にわたって法務省矯正局に公益通報した。
一度は名古屋矯正管区の職員が聞き取りに来所したが、不適切な医療や幹部職員のハラスメント行為について法令違反の事実は確認されなかったとして、抜本的な改善策を講じなかったという。
2025年1月には、公益通報にかかわった非常勤の医師1人と看護師2人が金沢刑務所から雇い止めを通告されたという。
●金沢刑務所の元医師「勇気を振り絞って声を上げた」金沢刑務所の元常勤医師は、記者会見で「法務省矯正局はこれらの通報に対し、十分な調査や事実認定、是正措置をおこなわず、9カ月間も放置してきました。これは公益通報を受けた機関として重大な責務の違反であると考えます」と述べた。
金沢刑務所の幹部が「刑務所の医療は医師の資格があれば力量は問わない」「矯正医療は被収容者が死ななければよい」などという趣旨の発言をしていたと主張したうえで、次のようにうったえた。
「矯正医療を志す看護師や医師が私たちと同じ被害に遭ってほしくないと思い、勇気を振り絞って声を上げました。この声が、法務省矯正局に届くことを望みます。
また、私たちが不本意かつ不当な人事を受けたことにより被った精神的苦痛や、これに関連する公益通報の全容とその放置の実態について、金沢刑務所の責任を明確にしたい心情にあることを法務省矯正局には誠実かつ真摯に受け止めていただきたいです」
東京拘置所では、複数の医師が他の刑事施設での出張勤務を命じられたり、家庭の事情で転勤できないと伝えていたにもかかわらず転勤を命じられたりするなどして、計5回にわたって法務省矯正局に公益通報したが、そのほとんどについて「通報対象事実は認められなかった」と判断されたという。
医師の代理人をつとめる上本忠雄弁護士は「我々が一番問題だと思っているのは、東京拘置所は今も医師を募集をしているのに、自ら定年延長や再雇用の希望を出している方を拒否していることです」と話した。
●「パワハラや理不尽な人事異動で休退職に追いやられる状況を黙って見ていられない」申し入れた医師の1人は以下のようなコメントを出した。
「私は2007年に東京拘置所に入職し、約18年間、内科医として矯正医療に尽力してまいりました。しかし、公益通報の調査結果が出た直後、東京拘置所長は私に川越少年刑務所への人事異動を命じました。
私は、家庭の事情で転勤が難しく、転勤を命じられた場合は退職せざるを得ないことを東京拘置所に伝えていました。それにもかかわらず、東京拘置所は私に転勤を命じました。
年度途中に私を急遽異動させる必要性は全くなく、公益通報に対する報復以外に異動の理由は考えられません。私は、仲間がパワハラや理不尽な人事異動により休職や退職に追いやられる状況を黙って見ていることができず、公益通報をしてきました。
しかし、今回、東京拘置所は、私にも理不尽な人事異動を行い、退職に追いやろうとしています。このような卑劣な行いをする組織を、決して許すことはできません。
私は近いうちに退職願いを提出しますが、残された医務部職員のためにも声を上げ続けていくつもりです」
法務省矯正局は弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「当省において、どのようなご意見が寄せられているかにつきましては、お答えは差し控えさせていただいています」とコメントした。

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