かつてミシュランガイドに掲載された京懐石店で集団食中毒が発生し、営業停止処分を受けたにもかかわらず、経営者らが仕出し弁当を販売し続けたとして逮捕される事件が起きました。

ネットでは「食中毒を出して、逮捕されるのか」と驚く声もありました。経営者らは、どのような法的責任を負う可能性があるでしょうか。

●この記事のポイント

・営業停止命令に違反した場合、「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」(※併科される可能性あり)となる

・業務上過失致傷罪が成立する可能性も

●営業停止命令違反による逮捕

朝日新聞などの報道によると、大阪府河内長野市で「四半世紀続く京懐石の店」として知られた店の経営者らが6月16日、食品衛生法違反の疑いで大阪府警に逮捕されました。

食品衛生法第60条第1項は、都道府県知事が営業の全部若しくは一部を禁止したり、期間を定めて営業を停止することができるなどと定めています。

この営業停止命令に違反した場合、同法第81条により「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」(※併科の場合あり。同法81条2項)という刑事罰が科されます。

報道によると、この店では、2月に発生した集団食中毒により、保健所から「2月15日から16日までの2日間」の営業停止命令が出されていたにもかかわらず、この期間中に弁当11個を製造・販売したようです。

営業停止命令は文書で明確に通知されており、「停止命令を受けていることを知らなかった」という主張は困難です。

命令違反の事実は客観的に明白であり、食品衛生法違反の成立は避けられないでしょう。

●業務上過失致傷罪(刑法211条)が成立する可能性も

業務上過失致傷罪は「業務上必要な注意を怠り、よって人を傷害した」場合に成立し、「5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」となります。

この「必要な注意」について、飲食店経営者には、食品の安全性を確保する高度な注意義務があります。

報道によると、経営者は2月8日に調理場で嘔吐(おうと)し、その後、他の従業員等にも同様の症状が出ていたといいます。

仕出し弁当を販売する3日前に、経営者らがノロウイルスに感染したことが判明したようですが、その後も営業は継続されていたようです。

仮に自身の体調不良を認識し、ノロウイルス感染の可能性を知りながら調理を続けたとすれば、「業務上必要な注意を怠った」と評価される可能性は高いと考えられます。

2月の一連の食中毒では87人の体調不良者が出ているとのことです。これだけの被害者が出ている以上、業務上過失致傷罪の成立が認められる可能性があります。

●「注文を断れなかった」というが…

経営者ら3名は容疑を認め、経営者は「注文を断れなかった」「ノロウイルスの危険性の認識が甘かった」などと述べているようです。

たしかに、ミシュランガイドに掲載されるほどの店でも、経営のプレッシャーは相当なものであったと推測されます。

しかし、結果として多くの健康被害が発生してしまっているうえに、経営者らも逮捕されてしまっており、これでは店の信用が完全に失われてしまいます。

経営上の観点からも、営業停止命令に従い、真摯な対応をすべきだったといえるでしょう。

6月18日15時56分 一部誤字を訂正いたしました。

食中毒で逮捕? と驚きの声も 営業停止中に弁当販売、ミシュラン掲載店の経営者が問われる刑事責任は?