スポーツ界や芸能界での摘発が相次ぐオンラインカジノの規制強化を盛り込んだ、改正ギャンブル等依存症対策基本法が6月18日参議院本会議で賛成多数により可決、成立した。

改正法では、インターネット上でカジノサイトを開設する行為や、SNSや広告などを通じてオンラインカジノに誘導する行為を禁止。一方で罰則規定は盛り込まれていない。

この改正について、自身もかつてギャンブル依存症の経験を持ち、現在は公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表として、当事者や家族の支援に取り組む田中紀子さんは「対策の入口の第一歩」と評価する一方で「どれほどの実行性があるかはこれから見なければいけない」と懸念を示す。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)

●罰則規定なし「じくじたる思い」

改正法では国内でオンラインカジノサイトやアプリを開設、運営を明確に違法と位置付け、海外サイトへの誘導行為も禁止対象とした。この点について田中さんは「今まで野放しだった現状を考えれば、一歩前進」と評価する。

一方で「じくじたる思い」とも話す田中さん。最も問題視しているのは明確な罰則規定が設けられなかった点だ。

「日本は違法だと分かっていても、カジノ業者に関しては取り締まりがなされていない。海外の事業者は『いずれダメになるかも知れないけど、今は大丈夫』と舐めている」と強調する。

さらに、現在の賭博に関する法規制が現状に即していないと指摘。「特別法を設け、罰則を設定し、オンラインカジノを厳しく規制する必要がある」と訴える。

●「依存症になるスピード速い」オンラインカジノ

田中さんはオンラインカジノの危険性について、「依存症への転落が特に早い」と警鐘を鳴らす。

「考える会」の調査では、利用者の3割が1週間以内に、6割が1ヶ月以内に借金を抱えたという。

その要因に挙げたのが「勝負のスピードの速さ」。バカラルーレットといったゲームでは1回の賭けが10秒程度で終わり、多くの額を繰り返し賭けられてしまう。この「回数の多さ」が依存症への進行を加速させると田中さんは指摘する。

さらに、「借金を抱えた人が闇金に手を出すだけでなく、闇バイトや横領などといった犯罪に走るケースも多い」と田中さん。

「刑事事件にまで発展する人もいますが、依存症への理解がある弁護士が少ないため、適切な支援が行き届かないのが現状」と語る。

●「ダメ、ゼッタイ」では救えない

田中さんは「オンラインカジノの利用者は末端の被害者でもある」とし、過度な違法性の強調が逆に相談を遠ざけてしまうリスクを懸念する。

「薬物対策では『ダメ、ゼッタイ』が行きすぎた結果、どこにも相談できなくて、再犯してしまうという現状がある。オンラインカジノもその二の舞にならないか」

だからこそ、利用者が安心して相談できる体制作りとその存在を広く周知する広報活動が不可欠だという。

最後に田中さんは国に対し、強く訴える。

「日本の若者が海外資本に搾取され、それによって人生を奪われて、自殺までしてしまう。 こんなことに陥っているということを想像してもらって、対策を検討して欲しい」

オンラインカジノ規制強化へ、改正法成立も罰則規定なし 専門家は「じくじたる思い」実効性に懸念