
マンション購入を検討する際、多くの人が物件価格やローン返済に意識を向けがちですが、実は見落とされがちな「維持費」が将来の家計に大きな影響を及ぼします。特に築30年前後のマンションでは、修繕積立金や管理費が急増し、想定外の負担となるケースが少なくありません。その理由と注意すべき落とし穴をみていきましょう。
購入価格では分からない…「マンション維持費」の落とし穴
首都圏のマンション価格は、高止まりを続けています。多くの人が物件価格とローンの返済計画に頭を悩ませるなか、もうひとつの家計を蝕むコストの存在が見過ごされがちです。それは、毎月払い続ける「修繕積立金」と「管理費」です。建物の老いに備える積立金と、日々の快適さを保つための管理費は、いわばマンションの生命線。しかし昨今、資材や人件費の高騰を受け、この生命線にかかるコストが着実に膨らんでいます。
株式会社LIFULLが1都3県の中古マンションを対象に行った調査でまず驚かされるのが、修繕積立金の変動カーブです。月々の積立額(60m2換算)は、多くのマンションで「築16~20年」の時期に最初のピークを迎えます。これは、分譲時に甘い見通しで低く設定されていた積立金が、築12~15年頃に迎える第1回目の大規模修繕で現実を突きつけられるからです。想定を上回る工事費を前に、多くの管理組合が計画の見直しを迫られ、積立金は一気に跳ね上がります。
一方で、日々の清掃や設備点検などに充てられる管理費は、コンシェルジュ常駐など手厚いサービスが売りの「築5年以内」の物件で最も高くなる傾向にありました。その後、管理費は一度落ち着きを見せるものの、安心はできません。
本当に注意すべきは、両者を合わせた月々の総支払額です。その負担が最も重くのしかかるのが、「築30年前後」というタイミングであることが今回の調査で浮かび上がりました。東京都・神奈川県では築31~35年、埼玉県・千葉県では築26~30年で負担額は最大化します。2回目の大規模修繕が目前に迫り、いよいよ待ったなしの資金計画が求められるこの時期。マイホームを手に入れてから約30年、子どもの独立や自身の退職など、ライフステージの大きな転換期に、住まいのコストが最高点に達するのです。
「価格」と「負担」のねじれ…郊外マンションに潜む本当のリスク
問題の根は、さらに深いところにあります。エリア別のデータに目を向けると、一見しただけでは気づきにくい「コスト負担のねじれ」が見えてきます。修繕積立金や管理費の絶対額自体は、当然ながら物件価格の高い東京都がトップです。しかし、物件価格に対して年間の維持費がどれだけの重みを持つか、という「負担割合」で比較すると、見方は変わります。
年間の修繕積立金の負担割合は、東京都の0.2%に対し、千葉県では0.5%。実に2倍以上の開きがあります。管理費も同様の傾向で、このデータが意味するのは、物件価格が手頃な郊外エリアほど、購入価格に対するランニングコストの比重が重くなるという皮肉な現実です。
なぜ、このようなねじれが生まれるのでしょうか。建物の維持にかかる費用は、都心であろうと郊外であろうと、その規模や仕様が同じなら大差ありません。しかし、ベースとなる物件価格が大きく異なるため、相対的に郊外の負担が重く見えてしまうのです。
さらに深刻なのはコミュニティの構造です。郊外のマンションでは住民の高齢化が進みやすく、収入が年金中心となる世帯も増えます。そのなかで、将来を見据えた修繕積立金の値上げ案を議題に上げても、合意形成は困難を極めます。目先の負担を避けたいという心理が働き、必要な値上げが先送りされ、結果的に建物の老朽化を食い止められない。そんな負のスパイラルに陥るリスクが、郊外のマンションには潜んでいるのです。
このリスクは、時系列のデータによって裏付けられます。築11~20年のマンションの修繕積立金は、この15年間で一貫して上昇を続け、月額で5,000円近く、年間で6万円もの負担増となっています。これは、インフレと人手不足という社会全体の課題が、私たちの住まいに直接的な影響を及ぼしている証拠といえるでしょう。
このようにマンション選びにおいて、物件価格の裏に隠された長期的なコスト負担をこそ精査する必要があります。管理組合は健全に機能しているか。長期修繕計画は、数十年後を見据えた現実的なものか。そして、その計画を支える住民の意識は高いか。それは単なる住居ではなく、管理という「サービス」と、将来にわたる安心という「価値」を買うという視点といえるでしょう。
[参考資料]
株式会社LIFULL『修繕積立金・管理費にも値上げの波。総額は築30年前後が最高値に』

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