
故障離脱したオースティンの“代役”としてメインでDHの役割を担った筒香。(C)産経新聞社
核となったオースティンの離脱で…
昨季の交流戦、DeNAは、とりわけDHの使えるパ・リーグ主催ゲームで8勝1敗、日本シリーズでも3連勝と圧倒的な勝率を誇った。しかし、今季は一転、3勝6敗と大きく負け越してしまった。
仙台で迎えた楽天戦は2勝1敗でカード勝ち越しに成功したが、大阪でのオリックス、福岡でのソフトバンクと、敵地での6連戦は1勝5敗と散々な結果に終わった。
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無論、対峙したのは、九里亜蓮やリバン・モイネロなどパ・リーグでも屈指の好投手。簡単に攻略できるほど甘くはない。だが、敗戦した5試合は投手陣が一定した成績を残し、決して“壊れた”ゲームにはなっていなかった。
それでも勝利に繋げることができなかった。その原因のひとつは、攻撃陣が思うように機能しなかった点にあると言っていい。さらに掘り下げると、昨季の交流戦におけるストロングポイントとなっていたDH機能性に、大きな差があったのは明白だった。
勝率.611(11勝7敗)の快進撃を見せた昨季の交流戦でDeNAのDH起用は、タイラー・オースティンと筒香嘉智がメイン。さらに牧秀悟と宮﨑敏郎を1試合ずつ抜擢し、トータルで打率.289、5本塁打と結果を残した。特にオースティンは打率.467、3本塁打と大暴れ(日本シリーズでも打率.455と無類の強さを発揮)。チームをけん引する攻撃陣の核となっていた。
迎えた今季は、筒香嘉智が3試合、松尾汐恩が4試合、宮﨑敏郎と戸柱恭孝がそれぞれ1試合と4名が指名されたが、計30打数3安打、打率にして.100。本塁打数は0で、打点も筒香が挙げた1点のみと、一転して打線のウイークポイントとなってしまったことは否めない。
いったいなぜ、DeNAのDHは“機能不全”を起こしてしまったのか。攻撃のプランニングを統括している靍岡賢二郎オフェンスチーフコーチは、チームが苦しんだポイントとして、「やはりオースティンがいなかったことですね。去年はオースティンと筒香と宮﨑の3人でうまく回せて行けましたが……」と核となっていた大砲の怪我の離脱が、他の部分にも影響したと嘆く。
また、「そのタイミングで筒香が上がってきてくれて、最初のビジターの3試合含めて6試合は結果を出してくれていたのですが……」と語る靍岡コーチは、頼みのスラッガーの調子が上向かなかったことが誤算であったとする。実際、筒香は交流戦に向けて“復活の兆し”を見せていた。二軍での再調整を経て、再昇格後、33歳のスラッガーは、打率.421、2本塁打、長打率.947、OPS1.507と好成績をマーク。オースティンに代わる存在として期待できる状態だった。
誤算を招いた“慣れの無さ”
次いで挙げたのは、打撃に専念する難しさだ。
「DHはやっぱり難しいんです。松尾も、1試合だけですけれども戸柱も、普段はキャッチャーとして守備でゲームに入ったなかで打席に入るのと、DHだけで打席に入るのはいつもと違いますから。慣れというのもないので、そこは苦労しますよね」
普段とは異なる内容が求められるDHに対応する苦労を代弁する靍岡コーチは、「とくに松尾は若いですし、(今まで)DHでも出番はなかったですから。そこの難しさはあったと思います」と高卒3年目で、交流戦においては今季が戦力となる実質1年目であった20歳を慮った。
その上で靍岡コーチは、打線全体の元気がなさを問題点に挙げる。そもそも今季の交流戦のビジターにおけるチーム打率は.192と低調。リーグ戦の同.238と比べてもかなり悪い数字となっている。
そうした低調さをふまえて、「昨季は蝦名(達夫)の調子が良かったので1番に入って、また梶原(昂希)が入れ替わったりという形でハマっていきました。下位打線も森敬斗がチャンスを作って、そこから繋いで上位に回す形も作れていましたからね」と話す靍岡コーチは、ピッチャーが打席に入らないメリットを最大限に活かした昨季の打線が、下位から上位に繋げ、DHを含む中軸で得点する好サイクルを形成できていたと回想する。
だが、今季は状態が一変。前出の若手三人衆が精彩を欠き、リードオフマンとして機能していた桑原将志も失速と好材料がなかなか見当たらず……。そうした状況に靍岡コーチも、「1番も、5番以降の打順のやりくりも、結構日替わりで変わりますし、なかなか固定できていないのが現状になっていますね」と苦しい胸の内を吐露する。
「打線の繋がりがなかなか発揮できていないですよね。それで得点できないですし、チーム打率を見ても分かる通りなかなかヒットも打てていませんから。点を取ることに苦労してしまっています。いいピッチャーと当たっていることもありますが、だからこそ割り切って行くことも大事なんですけれども……」
残る交流戦は、本拠地・横浜スタジアムで、DHの無い戦いとなる。そうした中でチーム全体の苦境打破の鍵は何か。攻撃のプランニングを担う軍師は、「調子のいい選手を見出しながら打線を考えなくてはいけないですからね。そこは活発にいい選手がどんどん試合に出られるような環境にしていかないといけません」とフレキシブルに打線を組み替えを公言した。
「悪く言えば固定できていないのですが、日替わりでも試合に出られるところはマイナスには捉えていません。レギュラーひとりだけではなくて、各選手にチャンスがありますから。毎試合毎試合一生懸命準備してくれている選手たちの中で、結果が出る、出ないのせめぎ合いです。そこで誰かがポンポンと結果を出せたなら、そこから1試合、2試合と少しずつスタメンでの試合出場も増えていきますから。同じようなポジションの選手が、いまチーム内で競争しているところなのでね」
不調に、怪我で役者も揃わず、得意なはずだったDH制が逆の目にでてしまった今年の交流戦。だが、負けが込みながらもセ・リーグの順位が変わらぬ“怪現象”もプラスに捉え、攻撃の鍵を握る軍師は、得点力アップのために手を尽くす。
[取材・文/萩原孝弘]

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