
新型コロナ感染対策の持続化給付金について、支給対象から性風俗事業者を外したルールは「法の下の平等」を定めた憲法に違反する──。
関西地方にある無店舗型性風俗店の事業者がそう主張して、国を相手に慰謝料などを求めた裁判で、最高裁第1小法廷は6月16日、原告側の上告を棄却した。これによって原告が敗訴した1審、2審判決が確定した。
原告の弁護団長をつとめた平裕介弁護士は「コロナ給付金の重要性を最高裁が無視した」と批判する。今回の最高裁判決をどのようにとらえているのか。そして職業差別や偏見を助長するのか。平弁護士に聞いた。
●「政府に忖度したと言われても仕方ない判決だ」──今回の最高裁判決について、率直な受け止めを教えてください。
一言でいえば、多数意見は「不意打ち判決」でした。最高裁が、地裁でも高裁でも、被告も原告も一切言ってこなかったことを、さらにいえば、提訴前の国会の議論でも出てこなかった事実関係を突如として不給付を合憲とする理由付けとして示したことです。
無店舗型性風俗店において「接客従業者が客の指定する場所に出向いて異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供するという業務態様であることから、接客従業者の尊厳を害するおそれがあることを否定し難いものである」ため、対象外とすることは不合理ではないと言っているのです。
最高裁とはいえ、こんな理由付けが許されるのでしょうか。なぜ行政側が少なくとも明確には主張していないことをわざわざ司法が言い出すのか、説明が難しく、最高裁が政府に忖度し、勝手に言い分を創造したと言われても仕方ない判決だと言わざるを得ません。
──裁判所の判断の最大の問題点を教えてください。
コロナ給付金の重要性を最高裁が無視したことです。コロナ禍において、コロナ給付金がどれだけ多くの営業自粛に協力してきた事業者の倒産を防ぎ、どれだけ多くの者の「職業選択の自由」を救ってきたのかということを、裁判官・検察官出身者中心の多数意見を書いた裁判官たちはイメージできなかったのではないかと思います。コロナ禍でいち早く裁判所を閉め、給料もボーナスも減らず何の痛みも感じなかった裁判官には理解できなかったのかもしれません。
●宮川裁判長の反対意見は「非常に貴重なもの」──宮川美津子裁判長の反対意見(*)についてどう捉えているか教えてください。
宮川裁判長の反対意見は、多数意見とは対照的に、コロナ給付金の重要性を強調するとともに、不給付が職業差別を拡大してしまう危険等も考慮しながら、原告側の主張をほぼ全面的に受け入れた論理的な内容となっていました。多数意見のいうように法的にみて性風俗事業がその「健全化を観念しえないものと位置付けられていると考えることは相当でない」とも明言しており、セックスワークに携わる人に対する職業差別をなくすための第一歩となる非常に貴重なものといえます。
──今回の判決がセックスワークに携わる人に対する職業差別や偏見を助長する恐れがあると考えますか。
そのような影響はあってはならないことですが、多数意見の読み方によっては、職業差別を容認する内容となっており、これはとても残念なことです。私たちとしては、多数意見の不当な理由付けこそセックスワークに携わる個々人の人格や職業についての「尊厳」を深く傷付けるものであって、そういった職業差別や偏見は間違っているのだということを今後も訴え続けていきたいと考えています。
──類似の政策や給付制度で、性風俗業者が排除される懸念がありますが、立法・行政に望む改善点があれば教えてください。
地裁、高裁判決は、性風俗業者に給付金を出すべきではない、とは言っていません。むしろ今回の裁判に際して実施した世論調査では「給付してもよい」という意見のほうが「給付すべきではない」という意見よりも多かったという結果が出ています。
国のほか自治体等も、立法・行政の担当者は、こういった事情や宮川反対意見の正当な論理、当事者の切実な声などをよく考慮し、コロナ給付金のような給付金において特定の職業だけを除外するというようなことはしないでいただきたいと思います。
●最高裁の判決はこちらhttps://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/179/094179_hanrei.pdf
(*)宮川美津子裁判官は次のような反対意見を述べている
「給付金の趣旨および目的からは、給付対象となる事業者の事業の種類によって異なる取扱いをすることは予定されていない」
「接客サービスを提供して生計を立てる接客従業者が存在するとともに、当該サービスを求める顧客も存在しており、一定の社会的な需要があることは否定し難い」
「公費を支出して事業の継続を支えることは相当であると判断し得る」
【取材協力弁護士】
平 裕介(たいら・ゆうすけ)弁護士
2008年弁護士登録(東京弁護士会)。主な業務は行政訴訟、憲法訴訟。行政法研究者でもあり、多数の論文等を公表。大学やロースクール(法科大学院)で行政法等の授業を担当(非常勤)。審査会の委員や顧問など、自治体の業務も担当する。
事務所名:AND綜合法律事務所
事務所URL:https://and-lawoffice.com/

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