
1700年当時、カナダはまだファースト・ネーションズ (先住民族インディアン)が統治していた時代だった。その中にあって発生したマグニチュード9に及ぶカスケード地震に関する資料は一切残されていなかった。
いつ何時発生したのかわからない地震。だがこの地震の正確な日時は、江戸時代に記録された日本の津波記録によって明らかになったという。
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カスケード地震の考古学的研究
カスケード地震の考古学的研究は1980年代に行われ、地層や、化石などに使われる放射性炭素年代測定法により約300年ほど前に起きているだろうことは予測できた。
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300年前の北米大陸といえば、まだカナダもイギリスの植民地にはなっておらず、アメリカも合衆国が存在していなかった頃だ。
後に木の年輪によってカスケード地震が1699年の秋から1700年の春に起きていたことがわかったが、当時のカナダの記録は先住民族のもののみで正確な日時はわからなかった。
日本に残された1400年分の自然現象の文字記録
一方、日本には驚くべきことにおよそ1400年分の自然現象の文字記録が存在している。
その中には科学的解釈が困難な記録も多数含まれている。
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たとえば、直前に地震もないのに起きた津波と思しき現象は、地震という親がいないという意味で「みなしご津波」として記録されていた。
そしてそこには江戸時代、元禄十二年十二月八日(西暦1700年の1月27日)の深夜に発生した津波の記録も残されていた。
それはまさしく、カスケード地震により派生した津波の記録なのだ。

日本の記録をもとにカスケード大地震の正確な日時を分析
日本の産総研は、旧地質調査所時代の1996年に、東京大学地震研究所の研究者と共同で日本の古文書を調べた。
元禄12年12月8~9日に日本各地で記録された津波がカスケード巨大地震によるものであると推定し、自然科学系雑誌『nature』に発表した。
その後産総研と米国地質調査所、カナダ地質調査所の共同研究が行われ、日本における津波の高さ、北米における震源モデル、太平洋を伝播する津波について、さらに詳細な調査進められた。

この研究によって、カスケード地震とみなしご津波の関連に加えて、1700年のカスケード地震がM9クラスであったことが判明した。
更に地震発生時刻が1700年1月26日午後9時、断層の長さが1100kmであったこと、断層のすべりは14mであったことが明らかになった。
これは今後50年間の間にマグニチュード9の大地震が来ると言われている北米の西海岸にとって非常に貴重な分析データとなった。
当時から文字が使えた日本の人々
この同定にたどり着いたのは、日本の鍬ヶ崎や津軽石、大槌といった村の武士や農民、商人が文字で綴った正確な記録の存在が大きかった。
彼らが残した時間と場所の記録は、科学的な解析に応えられるほど正しかった。
さらに日本にはその年代ではありえないほど精密な地図が各地にあり、津波浸水被害の地域がやはり正確に記されていたのだ。
この報告が記されたThe Orphan Tsunami of 1700には「文字を使える人たち」という見出しの記述がある。
アメリカとカナダには文字で記録を残すという文化がなかった時代、江戸時代の日本の社会では社会のあらゆる階層が文字を書き、正確に記録し、かつ文書をしっかりと保存している。
そしてそれを事細かく政府に報告していたのだ。そういった日本人の几帳面さにThe Orphan Tsunami of 1700の著者であるブライアントアトウォーター氏は感嘆し、感謝したそうだ。
References: Pubs.usgs.gov[https://pubs.usgs.gov/publication/pp1707]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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