一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏がフィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今回は、フィリピン株式市場の最新動向について解説していきます。

二極化するフィリピン株式市場

フィリピン株式市場の現状は、市場の広がりと深さの両面で弱さが顕著です。年初来で見ると、フィリピン総合株価指数(PCOMP)は2.61%下落しており、米ドル建てでは横ばいですが、構成銘柄30銘柄中、上昇しているのはわずか10銘柄(全体の33%)にとどまり、残りの67%は下落しています。このことから、株価上昇はごく一部の銘柄に限られ、全体としての上昇トレンドが乏しいことを示しています。

上昇を牽引した銘柄では、Bloomberry Resorts Corporation(BLOOM、+31.4%)、Converge ICT Solutions, Inc.(CNVRG、+23.9%)、LT Group, Inc.(LTG、+21.1%)が突出しており、これら3銘柄のみが20%以上の上昇を記録しました。一方で、次点の上昇銘柄は+5.6%〜+13%と限定的です。一方、下落銘柄では、ACEN Corporation(ACEN、−35%)、Globe Telecom, Inc.(GLO、−19%)、Monde Nissin Corporation(MONDE、−18%)、Emperador Inc.(EMP、−16%)、Jollibee Foods Corporation(JFC、−15%)など、下落幅が大きい銘柄が目立ち、10銘柄が10%以上のマイナスとなっています。つまり、上昇銘柄の集中と下落銘柄の数・下げ幅の広がりが指数全体を押し下げています。

市場センチメントは依然として脆弱であり、その背景にはマクロ経済の逆風、地政学的リスク、特定セクター(通信、消費財、不動産)における構造的な課題が影響していると考えられます。

こうした状況下において、ABキャピタル証券の戦略ノートでは、モメンタムのある銘柄や金利感応度の高いセクターへのローテーションを提案しています。具体的には、観光需要や利下げ効果の恩恵を受けやすい運輸、消費、不動産セクターに注目しています。一方で、通信や鉱業セクターはコスト動向やコモディティ価格の不安定さから中立〜慎重な姿勢をとるべきとしています。銀行セクターは、安定した収益と利下げ局面でのマクロ連動性から引き続き注目されています。

SM、Jollibee…専門家が注目する8銘柄

注目銘柄としては、SM Investments Corporation(SM)、Jollibee Foods Corporation(JFC)、Monde Nissin Corporation(MONDE)、Ayala Land, Inc.(ALI)、BDO Unibank, Inc.(BDO)、Metropolitan Bank & Trust Company(MBT)、Aboitiz Power Corporation(AP)、Converge ICT Solutions, Inc.(CNVRG)が挙げられています。

また、原油市場については、イスラエルイランの緊張が高まるなか、原油価格が上昇していますが、過去50年間の事例から見ると、すべての中東危機が持続的な価格高騰につながっているわけではありません。

1973年アラブイスラエル戦争と1979年イラン革命のように、原油供給に大きな打撃を与えた事例を除けば、多くの地政学的危機は短期的な価格上昇にとどまりました。供給インフラへの実質的な被害が限定的であること、戦略備蓄や余剰生産能力の拡大、再生可能エネルギーなど代替手段の普及により、ショックの影響は緩和されています。

ただし、中東は依然として世界の原油供給の3分の1を担っており、地政学的リスクは無視できません。特に、原油インフラへの攻撃の可能性や、ホルムズ海峡封鎖などが現実化すれば、原油価格は130ドルまで上昇するリスクがあります。現在の75ドル付近の価格には一定のリスクプレミアムが織り込まれているものの、実際の供給障害が起きれば、世界経済に大きな衝撃を与えることは避けられません。

写真:PIXTA