
年収の激減は、定年後も働き続けるシニアの多くが直面する厳しい現実。しかし、給与以外に目を向けたお仕事探しで、セカンドライフを充実させる新たな働き方が実現できるかもしれません。本記事では、和田秀樹氏による著書『定年後の超・働き方改革「楽しい仕事」が長寿に導く!』(光文社)より一部を抜粋・再編集し、定年後の働き方を考える上で知っておきたいポイントについて詳しく解説します。
年金と月収10万円台で考えれば選べる仕事はグッと広がる
多くの人にとって、定年後も働き続ける場合、年収の激減は避けられない現実です。これは“シニアあるある”の一つなのですが……。
「年収1,000万円プレーヤーが定年延長(再雇用)で半額以下に減給されて怒り狂う」という話をよく見聞きします。ですが、もし教育費やローンの支払いが残っていないのなら、怒ったり悲しんだりする必要ありませんよね。なんといっても年金があるのですから。
それどころか、世間一般の常識に照らし合わせて考えると喜ぶべきかもしれません。「60代で年収500万円ももらえるなんてありがたい」「俺はすごい」ってね。シビアに聞こえるかもしれませんが、自分の市場価値を冷静に見極めることが大切です。
そして、過大な期待をしないことです。定年延長を経て出世したり、役員に抜擢されたりということはほとんどない、とわきまえておきましょう。たんに長く勤めたからといって重用される時代は、とっくの昔に終焉しています。
定年後の給料は、全国的に名を知られた会社でも「年収300万円」という話はざらにあります。私は、この「300万円」というのが、仕事探しの分水嶺になる気がしています。
今までの会社にしがみついても300万円なら、よりやりがいのある仕事、好きな仕事を求めて、転職、起業をしてもいいじゃないかと思うのです。つまり年収300万円以下でよいなら、探し方次第でもっとおもしろい仕事ができるのではないかと。
どれだけ楽しく、どれだけ感謝され喜ばれるかを基準に考えれば、新たな道が見えてくるでしょう。
「なんとしてもお金が必要な人」は我慢するのも得策
定年後の高齢者にとって、働き方は大きく2つのタイプに分かれます。まずは、「子どもの教育費やローンの支払いがまだあるから、会社に残り(定年延長、再雇用)、少しでも年収を維持したい」という働き方です。
そんな方は、できるだけストレスなく組織を軽やかに生き抜いてください。たとえ年収が300万円に減ったとしても、十分ご立派です。そこで働くことが最適解なのですから、魂を売ってでも、そこにとどまるのが賢明です。
職場を〝監獄〞と割り切って、お金のために担々と働くのは悪い考えではありません。下手に転職して不安定な仕事に挑むより、安定した収入を確保するほうが大事なのです。
ただし、教育費やローンは仕方がないとしても、自家用車を保有している場合、車は手放し、公共交通機関を利用することで支出を削減するなどの調整は必要かもしれません。
一方で、今の職場を離れる手もありますが、年収を上げることはもちろん、維持することも簡単ではありません。
高齢者が新たに始められる年収の高い仕事として、たとえばコンビニの店長や道路工事などの肉体労働が考えられます。しかし、60代の方にとっては体力的に相当厳しいはず。ムリをすると健康を損なう危険もあります。
道路工事で試算してみましょう。仮に週5日、日給2万円で働くとします。1年を365日、そのうち土曜・日曜を104日、祝日を16日としましょう。稼働できる日数は245日です(365日‐104日‐16日=245日)。そして年収を単純計算すると490万円になります(245日×日給20,000円=490万円)。
「1日2万円」という高待遇なんて、そうそう見つからない破格の報酬です。皆さんはこの試算をどう捉えますか?
そして、学費もローンも全部払い終えた方にお勧めしたいのが、年収100万〜200万円、月収換算で10万〜15万円というライン。「年金に担保される生活なのだから、好きな仕事で稼ごう」という働き方です。
たとえば、自宅を少し改装して小さな喫茶店を開いたり、趣味を生かしたライター業などで収入を得る道です。在宅ワークなど、体力に負担の少ない仕事も多数あります。得意なことを極めれば、年収100万〜200万円のラインなんて軽々と超えられる可能性もありますよ。
「自営業や起業もいいけれど、やっぱり安定した職に就きたい」
そんな方への私のイチオシは介護職です。介護業界は人手不足が深刻ですし、力仕事に強い男性の介護職員は重宝されます。月収は20万円台で、年収300万〜400万円台。社会貢献ができて、「感謝される」仕事ですから、精神的な喜びが大きいのです。
和田秀樹
精神科医

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