国税庁「民間給与実態統計調査(令和5年)」によると、日本の平均給与は460万円でした。これはなんと、1989年(36年前)の452.1万円からわずか「7.9万円」しか増えていないのです(厚生労働省「平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)」より)。近年の物価上昇などを考慮すると、自由に使えるお金は実質的に減っていると考えてよいでしょう。こうしたなか、国民の賃上げを実現すべく政府が動いていることをご存じでしょうか? 『漫画と図解でわかる 会社をグンと成長させる方法 その悩み、助成金が解決してくれます!』(KADOKAWA)より、著者の藤井貴子社労士が解説します。

5人に1人が75歳以上…経営者も直面する「2025年問題」

少子高齢化の進行によって生じるさまざまな社会問題が「2025年問題」として注目されています。これらの問題は突如として現れたものではなく、過去から徐々に進行してきた課題が令和7年(2025)に顕在化すると言われています。

特に、75歳以上の高齢者の割合が増加し、総人口の約20%を占めると予測されています。また、中小企業の経営者においては引退の平均年齢が70歳であることから、多くの経営者が引退を迎える一方で、後継者不足により黒字経営であっても廃業せざるを得ないケースが増えています。

さらに、高齢者人口の増加は医療や介護分野での人材不足を深刻化させる一方、現役世代への社会保険料や税金の負担増加を引き起こし、企業経営にも影響を及ぼしています。

これらの要因が重なり合うことで、経済の縮小や企業の競争力低下が懸念されています。

最低賃金の引き上げ」も、深刻な人手不足の要因に

現在、日本の多くの企業が深刻な人手不足に直面していますが、この傾向は令和6年2024)から令和7年にかけてさらに加速すると見られています。

背景には、毎年のように最低賃金の引き上げがあり、企業の人件費負担が増大しています。その結果、新規雇用が難しくなり、他社がより高い給与を提示することで従業員が転職してしまうリスクも高まっています。企業は人材確保と従業員の生活水準維持のため賃上げを進める必要に迫られています。

また、労働力不足や生産性向上の必要性から、特に中小企業にとっては、最新技術を導入し業務効率を高めることが競争力維持の鍵となります。

「賃上げ体制」を整えるために検討したい「助成金」活用

社会全体としては近年、賃金が上昇傾向にあります。特に令和6年の春闘では、平均賃上げ率が5.33%と、33年ぶりに5%台に達しました。さらに政府は、賃上げの継続を経済成長の鍵と位置づけ、令和11年(2029)までに最低賃⾦を1,500円に引き上げる⽅針を掲げています。

企業はこうした社会情勢に対応するため、⽣産性や業務効率を向上させ、賃上げできる体制を整えることが重要となります。賃上げや設備投資が進まない場合、従業員の離職や求⼈応募の減少を招き、⼈⼿不⾜倒産のリスクが⾼まります。

特に中小企業では、賃上げによるコスト増加が経営を圧迫しており、持続的な賃上げの実現には課題が残っています。また、社会保険料の増加も企業の財務状況を圧迫し、人材採用や育成にあてる余裕を奪う可能性もあります。

今後も、物価動向や企業の収益状況を注視しながら、賃金上昇の持続性を確保する取り組みが求められ、政府も特に中小企業への支援策を検討しています。その一つが助成金です。

従業員の待遇改善と設備投資が同時に叶う「業務改善助成金」

私がお勧めする「業務改善助成金」は、中小企業や小規模事業者が事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合、その費用の一部を助成する制度です。設備投資と従業員の待遇改善という、2つの課題にアプローチできる助成金です。

これらの助成金を活用することで、企業は資金負担を軽減しながら、競争力を高めることが可能となります。

また、現代の経営環境においては、単なる機械導入にとどまらず、働き方改革の一環として職場環境の改善やデジタル化推進が求められています。

設備投資と助成金を適切に活用することで、企業の持続的な成長を促すことができるのです。

藤井 貴子

ノエル社会保険労務士事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)