海の底でじっと動かないというイメージがあるイソギンチャクだが、非常事態となると動くようだ。しかもかなり速い!

 捕食者であるヒトデの接近を察知し、驚くほどすばやく移動する様子が観察された。

 いざという時は化学的なセンサーを働かせ、独自の逃避行動を取るのだ。

 今回はその瞬間を捉えた映像を紹介しつつ、この意外な生態の背景に迫ってみたい。 

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イソギンチャクは「動かない生き物」ではなかった

 イソギンチャクというと、岩場や砂底にしっかりと付着し、そこから動かない印象が強い。触手をひらひらと動かしてプランクトンを捕らえる姿は、静かな海の一場面として知られている。

 だが実際には、イソギンチャクは必要に応じて移動する能力を持っている。とくに捕食者が迫ったとき、その場から逃げるための意外な行動を見せるのだ。

 今回観察されたのは、アカイソギンチャク属(Urticina crassicornis)とみられる大型のイソギンチャクが、捕食者であるヒトデと遭遇した場面である。

Swimming anemone

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イソギンチャクは捕食者の化学物質を感知して逃避行動を取る

 イソギンチャクには、ヒトデやウニなどの捕食者が放出するごく微量の化学物質を感知する能力が備わっている。

 これらの物質は水中に拡散し、イソギンチャクはそのシグナルを専用の化学受容体(chemoreceptors)によって検知するのだ。

 捕食者の接近を感知すると、イソギンチャクはその場から逃げるための行動を開始する。

 今回の映像でも、イソギンチャクが体をすぼめて動きを加速させる様子がはっきりと捉えられている。

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水流噴射と足盤を利用した移動

 逃げる方法も興味深い。イソギンチャクは、体内に取り込んだ海水を胃腔(いこう)から口を通じて勢いよく噴射し、その反動で体を滑らせて移動する。まさにジェット噴射のような仕組みだ。

さらに、足盤(そくばん)を使って這うように滑走したり、体の収縮と膨張を繰り返すことで移動することも知られている。

 こうした行動は「捕食回避行動(Predator avoidance behavior)」として海洋生物学の分野でもよく研究されている。

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映像では、イソギンチャクヒトデの接近を感知し、魚やカニなどを追い抜き、素早く動いている。その動きは、普段の静かな姿とはまったく異なるものだ。

海の中で繰り広げられる生存戦略

 このような捕食と回避の関係は、海底の生態系に大きな影響を与えている。

 捕食者であるヒトデの存在が、イソギンチャクにこうした逃避能力を進化させてきたと考えられている。

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 普段は静かに見える海底の世界でも、生き物たちの間では日々こうした命をかけた攻防が繰り広げられている。

References: Journals.uchicago.edu[https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.2307/1541973] / Cdnsciencepub[https://cdnsciencepub.com/doi/10.1139/z77-188]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。

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