― スポーツをするすべての人へ ―

 気温と湿度が上がるこれからの季節、最も注意すべき健康トラブルの一つが「熱中症」です。

特に屋外でのスポーツや運動を行う方は、体温が上昇しやすく、脱水症状にも陥りやすいため、より強い注意が必要です。
プロ・アマチュアにかかわらず、熱中症対策はパフォーマンスを守るうえでも最重要事項といえるでしょう。この記事では、スポーツに関わるすべての方が知っておきたい熱中症の予防法と、万が一の対応法について解説します。

【関連記事】睡眠中に足がつるのはなぜ?「こむら返り」防止につながる食べ物も紹介

■ 熱中症とは?

熱中症とは、高温多湿な環境下で体温調節機能が破綻し、体内の水分・塩分バランスが崩れることで起こる障害の総称です。

重症度によって以下のように分類されます。

重症度/症状例
軽度(I度)/めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉のこむら返り
中等度(II度)/頭痛、吐き気、倦怠感、判断力の低下
重度(III度)/意識障害、けいれん、40℃以上の体温、ショック状

運動中の熱中症では、「気づかないうちに進行している」ことが多いため、早めの対策と、まわりのサポートが重要になります。

■ スポーツ現場での熱中症予防の基本

① 水分だけでなく「塩分」も!
大量に汗をかくと、体内の塩分(ナトリウム)も一緒に失われます。水だけを補給すると、血中の塩分濃度が薄まり、「低ナトリウム血症」を引き起こすことも。

→ スポーツドリンク(Na:40〜80mg/100ml)や経口補水液がおすすめです。

② こまめな水分補給
「喉が渇いてから」では遅いこともあります。15〜20分ごとに少量ずつの補給が理想です。

→ 運動前・中・後の水分補給スケジュールを決めておきましょう。

③ 暑熱順化(しょねつじゅんか)
急に暑い環境で運動を始めると、体がうまく対応できません。
5〜10日ほどかけて徐々に運動量を上げ、発汗能力を高めておくことが重要です。

→ 季節の変わり目や遠征前には「暑熱順化期間」を設けましょう。

④ 環境を選ぶ
直射日光や無風の環境は危険性が高まります。WBGT(暑さ指数)なども参考に、時間帯・場所・強度を調整しましょう。

→ 「無理をしない」こともスポーツスキルの一つです。

■ 熱中症が疑われたら

周囲の人が以下のような症状を訴えたら、すぐに対応が必要です。
めまい、ふらつき、反応の鈍さ
・異常な発汗、あるいは汗が止まっている
・意識がぼんやりする、ろれつが回らない
・吐き気や嘔吐

▼対応の手順(FAST)
1.F:Fluid(水分)
 → 冷たいスポーツドリンクや経口補水液を飲ませます(自力で飲める場合のみ)
2.A:Air(風通し)
 → 涼しい場所に移動し、服を緩めて風を当てます
3.S:Skin(冷却)
 → 首・脇の下・太ももの付け根を冷やします(保冷剤や水で濡らしたタオルなど)
4.T:Transport(搬送)
 → 意識障害や嘔吐がある場合はすぐに救急要請を!

■ 熱中症は“個人差”も大きい

同じ運動量でも、熱中症にかかりやすい人とかかりにくい人がいます。

▼要注意のタイプ
・小児や高齢者
・前日に寝不足・食事不足だった人
・風邪気味や体調不良の人
・汗をかきにくい(暑熱順化が不十分)人

運動前に少しでも「おかしいな」と感じたら、“勇気ある休養”を選びましょう。

■ 最後に

熱中症は、「誰でも」「突然」「命に関わる」リスクがある一方で、事前の準備と知識でほとんどが予防可能なトラブルです。

あなたの体は、あなたのパフォーマンスを支える唯一無二の存在です。
無理せず、焦らず、正しい知識と判断で、夏のスポーツを思いきり楽しみましょう。

[文:池尻大橋せらクリニック院長 世良 泰]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

池尻大橋せらクリニック院長・世良 泰(せら やすし)

慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人スポーツチームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。

スポーツに関わるすべての方が知っておきたい熱中症の予防法