京極夏彦氏の小説の装丁画などで知られ、今年刊行された初の絵本『ばけねこぞろぞろ』も好評な“妖怪絵師”石黒亜矢子さん
以前にコネタでも紹介しているが、そんな彼女の個展『愉怪奇怪劇場~映画と昔話へのオマージュ画展~』が9月10日~21日に東京・西荻窪のURESICAで開催される。

過去には化け猫をテーマにした個展などを行っているが、今回のテーマは石黒さんが大好きな映画や昔話をベースにした内容。個展のDMには不朽の名作映画『グレムリン』に登場するギズモ風の生きものが描かれていたりして、俄然興味が湧いてくる。
この個展について、また個展と同時発売される漫画『てんまると家族絵日記3』について、石黒さんに聞いてみた。


名作から今年話題の“暴走”映画まで


「映画と昔話、特に映画のオマージュは、以前からやりたかったテーマだったというのがあります。自分の大好きな映画の登場人物や変な生きものたちを自分なりに描いてみたいという欲望をギャラリーの方にぶつけたところ、好きにやっていいよと優しく快諾してくれたのをいいことに、とうとうその欲望をテーマに個展を開くことができました」

作品そのものはもちろんだが、モチーフとして選んだ映画や昔話、キャラクターなどが気になるところ。詳しくは個展をのぞいてみてのお楽しみだが、明かせる範囲で作品やキャラター、またはそのヒントを教えてもらった。

「DMでも描かれている“トンモ”は、『グレムリン』のギズモに化けている化け猫です。もちろん悪いグレムリンのほうの化け猫もいます。今回の個展でも化け猫たちが、大変活躍してくれています。大好きなカンフー映画のスターたちにも化け猫たちが化けてくれているんですよ。“動けるデブ”という異名をもつ大好きなあのカンフースターにも……。そうそう、『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンにも化けてくれています。怒った顔と顔が溶けそうになったときのつらそうな顔が大好きでした。私が小学生の頃に初めて観た特撮映画の、“宇宙からきた首の長いアレ”にも化けてくれています。そして一昨年、昨年、今年と私がハマって何度も足を運んだ、ロボットVS怪獣映画、大怪獣映画、世紀末暴走映画のキャラクターにも」

トータル30点あまりの作品の中には、彼女の作品の中でもよく描かれている化け猫が多く登場するとのことだが、化け猫以外が登場する作品も。

「友人のリクエストで描いた絵もあって、『わんわん物語』などはそうですね。ダンボは私が一番好きなディズニーキャラクターです。昔話では、『ちびくろさんぼ』のバターになる虎を描きました。あの、しっぽを持ってぐるぐる回るシーンが大好きでした。全部ネタバレしそうなので、このへんでやめておこうかな……」
とのことで、おなじみのキャラクターたちがどう妖怪絵師流に料理されているのか楽しみだ。


石黒さん作の絵本『ばけねこぞろぞろ』や『京極夏彦の妖怪えほん とうふこぞう』(石黒さんがイラストを担当)は、物語そのものには関連性はないが、ともに同じ“ねこかしゃ”という妖怪が登場していたりと、シリーズ的な要素を持っている。作品ファンにとってはそういったことも興味深かったりするのだが、彼女の作品の中に登場するキャラクターが今回の個展にも紛れ込んでいたりするのだろうか?
「今回は映画や昔話のオマージュがテーマで、完全なオリジナル作品ではないのであえて自分のオリジナル作品のキャラクターを出すチャンスはないかなと思っていたのですが、化け猫は結局たくさん登場しており、2冊の絵本の二匹ももちろん化けて登場しております! 探してみてください!」

飼い猫の似顔絵を描くイベントも


今回の個展スタートと同日に、会場のURESICAで発売されるのが漫画『てんまると家族絵日記3』(1000円税抜)。石黒さんのTwitterで公開されている漫画をより抜き編集したものだが、二匹の個性的な愛猫てんまる&とんいち、二人のお子さん、そしてチラリとパートナーのホラー漫画家・伊藤潤二さんも登場したりするこの作品。ほのぼのとした“猫あるある”だったり、子育て世代にはうなづけるお子さんたちとのリアルなやり取りが描かれていたりと、とても味わい深い作品だ。

「まずは、あのようなラクガキ漫画を、なんと3巻まで出してくださったURESICAさま、そして購入してくださった皆々様に心からの大感謝です。そして3巻目の見どころは、チラチラでてくる実家の猫たち、(漫画の表紙にも登場している)むうやんと野良五郎のマンガですね!」

この作品は普段描く作品たちとはイメージがかなり異なっていて、絵柄はとてもシンプル。今作の発売を記念して飼い猫の似顔絵講座(参加者募集は終了)なども開催されるが、これまでにたくさんの猫たちを描いてきた石黒さんが猫の似顔絵を描くときには、どんな点にこだわっているのだろうか?

「飼い主さんから見た飼い猫の性格をヒントに、体格と特徴的な模様を強調してラクガキします。こだわりは“あくまでラクガキで面白く描く”ことです」

新宿の「Cafe&Meal MUJI」での『化け猫と幻獣』など過去に行われた個展も盛況だったが、今回の個展については、
「『愉怪奇怪劇場』は映画や昔話に対する、私の偏った好みのものを偏った視点で描くオマージュ展です。だからといってマニアックでもなく、かなりメジャーな映画や昔話ですが、いつも以上にふざけた作品ばかりです。なので、興味を持ってくださった皆様には、大きな心で、優しい視点で、ふふと微笑みながら観ていただけると、大変嬉しいです」
と語る石黒さん。

個展期間中にはキュートなアイシングクッキーやアクセサリーが人気の「Milky Pop」とのコラボグッズなども、数量限定で販売される予定だ。
誰もが知るおなじみのキャラクターたちが、彼女のフィルターを通して一体どのように描かれているのか、期待したい。
(古知屋ジュン)
石黒亜矢子個展『愉怪奇怪劇場~映画と昔話へのオマージュ画展~』より。愛嬌あふれるこの“トンモ”は、『グレムリン』のギズモに化けている化け猫、という設定。