
この記事をまとめると
■アルファ ロメオのコンパクトSUVのジュニアがいよいよ日本に上陸した
■BEVの「エレットリカ」とMHEVの「イブリダ」をラインアップする
■BEVもMHEVも楽しさや気持ちよさは変わらずでこのカテゴリーでのトップクラス
待ちに待っていたアルファ ロメオ・ジュニアが日本導入
2021年いっぱいでジュリエッタの販売が終了して以来、ひさしぶりの登場となったコンパクトなアルファ ロメオ、ジュニアがいよいよ日本に上陸を果たした。そのステアリングをいち早く握ることができたので、皆さんにも急いでお伝えしようと思う。
結論からいうなら、ジュニア、かなりいいじゃん! だった。気になっていた人、ご安心を、である。
何がどうご安心をなのか。その話に進む前に、日本での展開についてお知らせしておく必要があるだろう。ジュニアはバッテリーEV(以下、BEV)とマイルドハイブリッド(以下、MHEV)のふたつのラインで構成されているわけだが、それは日本仕様でもまったく同様。BEVの「エレットリカ」とMHEVの「イブリダ」の両方がラインアップされている。
エレットリカは本国でももっとも基本的なモデルとなる「プレミアム」の1グレード、イブリダはエントリーグレードといえる「コア」、上位グレードの「プレミアム」、導入記念で200台のみ用意される特別仕様の「スペチアーレ」という3グレードでのスタートだ。
ファンにとって喜ばしいのは、価格設定だろう。アルファ ロメオは2015年のジュリア登場以降、自らの歴史のなかにあるプレミアム性を重んじたモデル展開をしてきてるため、価格帯がそれまでより一段階高額な方向に行ってしまっていた。ところがジュニアでは、手を伸ばしやすいところに戻ってきてくれた感覚がある。
高額なバッテリーをたっぷり搭載するBEVが556万円、そしてMHEVは420万円から468万円、特別仕様で533万円。世界的に素材が高騰してクルマの売価が上がってることを考えたら、ミトやジュリエッタの代替として十分に順当といえる値付けだと思うのだ。そのうえ、ジュニアの欧州での価格や昨今の為替の問題が車両のみならず輸送コストにまで大きな影響を及ぼしてることまで鑑みると、これは相当にがんばった価格設定なのだな、という想いが増してくる。僕はまず、ここを賞賛しておきたい。
何がどうご安心をなのかというところに話を戻すと、ジュニアはBEVもMHEVも、どちらもアルファ ロメオの名に恥じない走りの楽しさ、気もちよさをもったモデルだった、と実感できたこと。そこに尽きる。
今回の試乗車は、エレットリカもイブリダも「プレミアム」というイタリア本国でもメインストリームとされてるモデルだったのだが、BEVとMHEVという基本構成の違いによる乗り味の違いこそあるものの、基本、同じベクトルの上に乗った楽しさ、気もちよさがある。しかもしっかりと“アルファ ロメオらしい”といえる範疇で、である。昔からのアルファ ロメオのファンであり、もはやオンボロだけどオーナーでもあり、しかもどちらかといえば内燃エンジンを愛するタイプである僕だけど、電動化モデル第2弾というべき2台にだいぶ心惹かれてしまったのだ。
最初に走らせたのは、BEVのエレットリカだった。じつは昨年の初夏にイタリア本国のテストコースで開催された国際試乗会に参加して、僕はエレットリカ・ヴェローチェというシリーズ全体でもっとも高性能なモデルに試乗している。そちらは現在のところ国内未導入、今後の展開に期待したいモデルではあるのだが、とにかくいちばん最初にスペック的にも仕様としても一段階違ういちばんすごいヤツを体験して、BセグメントのBEVでもここまで手が入ると素晴らしいのだな、なんて感銘を受けちゃってるわけだ。
となれば、総電力量54kWhのバッテリーを積み、156馬力と270Nmを発揮する電気モーターで前輪を駆動するというBEVのスタンダード版に、もしかしたらちょっと物足りなさを感じちゃうかもしれないな、なんて思っているところはあった。
けれど、それはまったくの杞憂だった。走り出してみると何ひとつ不満を感じないどころか、これでいいじゃん! ヴェローチェである必要もないでしょ! なんて感じながら喜んで走ってたのだから、勝手なものである。
その加速感は、これって本当に156馬力だっけ? とあらためて軽い疑念を感じるほどに鋭いし、スピードも爽快といえるくらい気もちよく伸びていく。予想していたより、だいぶ速い。BEVにありがちな唐突にトルクが立ち上がるような制御にはなっておらず、ペダルの踏み加減によるトルクコントロールのしやすさがしっかりあって扱いやすさを感じたりもするのに、そのまま右足をプッシュしていくと、気もちよくパワーやトルクを解き放ちながら、自然にしっかりシュパーッとスピードを積み上げていく。
姉妹車とは明らかに異なるアルファ ロメオならではの乗り味
同じステランティスグループのなかのフィアット600eやジープ・アベンジャーとパワートレインのスペックは同じなのだけど、姉妹たちよりスピードとの親和性のようなものを強く感じるのは、パワーやトルクの盛り上げ方の制御が異なるからか、あるいはアルファ ロメオに乗ってるという先入観がそう感じさせるのか。
何もアナウンスがないから正確なところはわからないのだけど、考えてみればスピード感やテイストといった感覚的な部分は、パワートレインだけでなく車体やサスペンションなどを含めたクルマ全体の総合得点みたいなもの。ほかのパートにもアルファ ロメオならではの味つけがなされてるわけだから、そう感じるのも当然といえば当然だろう。
そのいい例がハンドリングで、BEVならではの重心高の低さと重量バランスのよさが利いて、素直に素早くコーナーをクリアできるというところは姉妹たちと同じ。けれど、やっぱり味つけが異なってる。サスペンションはフィアットやジープなどより引き締められてるのだが、ガチガチな感触は微塵もなく、4つのタイヤそれぞれに掛ける荷重をアクセルやブレーキのペダル操舵でコントロールしていきやすい。つまり、クルマに“こう曲がりたい”という意志を伝えやすいわけで、それに忠実に応えてくれる懐の深さもしっかりもっている。
車体を適度にロールさせ、適度なところで動きを抑え、そのロールを上手く利用しながら綺麗にコーナーを曲がらせてくれる。そういったところに昔からの“らしい”テイストが感じられて、僕はかなり嬉しくなった。
テストコースを全開で走らせたときのヴェローチェのような驚くほどのコーナリングスピードは、もちろん普通のワインディングロードだったこともあって味わえなかったけど、感触としてはこれで十分。街でも高速道路でもワインディングロードでも、BEV+アルファ ロメオの楽しさと気もちよさ、美味しさを存分に味わうことができた。
もう一方のMHEVは、見るのも触れるのも初めてだった。こちらについても正直に白状するけれど、「実用アルファとしてはよさそうだけど、スポーツ性に関してはどうだろう?」ぐらいに考えてたところがあった。なぜかといえば、まずはイブリダがMHEVにしては珍しく、モーターだけで走ることもできるから。バッテリーの充電量がある程度満たされていて、アクセルの踏み込み量がそう多くなければ、モーターだけで発進してスルスルと30km/h+αまで行けちゃうというのだ。これは燃費に効きそう=実用的。そうとらえるのが自然だと思う。
ここに関して先に触れておくと、実際に街なかでゆったり走ってたり軽い渋滞のなかにいたりすると実感するのだけど、想像してたよりはるかにモーター走行の時間が長かったりする。モーターが小さいくせに減速時にはしっかり回生が利いてる感覚があって、やっぱり容量の小さなバッテリーは結構な勢いで電気を取り戻している。高速道路や郊外の道などでは、ふと気づくとコースティング走行をしてたりもする。燃費に効くのだ。
今回は限られた時間での試乗ゆえ燃費など気にせず走ったので参考らしい参考にもならないとは思うけど、ワインディングロードなどでは気もちよく踏ませてもらって、街なかや高速道路ではごくごくフツーに走って、最終的にはメーター上に19.7km/Lという数字が残った。その日にどういう走り方をしていたかを知ってるわけだから、僕は十分に満足できる燃費だと考えてる。
そしてもうひとつは、搭載してる内燃エンジンが1199ccの直列3気筒DOHCターボで、パワーは136馬力/5500rpm、トルクは230Nm/1750rpmという数値であること。48Vのマイルドハイブリッドシステムと組み合わせられるとはいえ、6速DCTに組み込まれたモーターは22馬力に51Nmに過ぎない。システム合計では145馬力になるようだけど、モーターが小さいからBEVほど強力な力強い加速感などは望めないだろうと、うっすらぼんやり考えてたのだ。
いや、申し訳ない。それは僕の完全な認識不足。イブリダはゼロ発進の段階から“ウソだろ?”と感じられるほどの力強さと粘っこさを発揮してみせたのだ。小さなモーターは内燃エンジンの反応が鈍い領域、あるいはわずかに感じられるターボラグなどのネガなどを思いのほか巧みにカバーしていて、じれったさや力不足などをほとんど感じさせない。加速感も速度の伸び感も、しっかり満足できるレベルだ。瞬発力の面ではBEVのエレットリカに譲らざるを得ないけれど、総合的な速さにおいて感覚的な遜色はまったくない。
考えてみたら、それもそのはず。エレットリカのパワーウエイトレシオは、10.1kg/馬力。イブリダは9.2kg/馬力。トルクの立ち上がり方の点でBEVに分があるから数値の単純比較にそれほど意味はないのだけど、遜色がなくて当然といえば当然なのだ。加えて内燃エンジンとDCTをもつMHEVには、ステアリングの裏側に小さなシフトパドルが備わっている。自分でシフトを切り換えられるわけで、操縦感覚がより濃厚なのだ。そこが走る楽しさを膨らませてくれる。これも無視できないポイントだろう。
ハンドリングもなかなかのものだった。ロールしていくときの動き方や抑え方、ロールの利用の仕方などは、エレットリカと同じベクトルの上にある昔からの“らしい”テイストが残るもの。ただ、小さくて軽いとはいえ内燃エンジンを積むことで重心高が高くなってることに起因するのか、足まわりはクルマの動きの自由度を高めつつ抑えるところはしっかり抑えるというようなセッティングがなされてる感じで、乗り味としてはよりしなやか、曲がり方としてはより軽やかな印象だ。
面白いのは、同じベクトルの上にしっかり載ってるというのに、エレットリカにはどんどん攻め込んでいって楽しみたくなるようなところがあって、イブリダは8割とか9割ぐらいの領域で走るのが楽しくて気もちいいと感じるようなところがあること。構造上、BEVと比べたら不利になる分、僕たちの常用域や常用域+αあたりでより満足感が感じられるよう味つけされてるのかもしれない。いずれにしても楽しさや気もちよさの総量は変わらずで、このカテゴリーでのトップクラスといえるほどのドライビングプレジャーをもってることは確かだと思う。
今回の試乗で問題があったとすれば、どちらのジュニアもかなり好印象で、たとえば「お前が買うならどっちだ?」と訊ねられたりしたら、ちょっとばかり脂汗が出てきてしまいそうだ、というところだろう。もうちょっとしたらショールームに試乗車が配備されるだろうから、皆さんにもぜひ、その苦悩を味わってみて欲しい。

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