
売れ残ったお弁当やお総菜の「半額シール」を貼られているのをみて「ラッキー」と手に取った経験、きっと多くの人にあるでしょう。しかし、そんなお弁当を生きるために毎日心待ちにしている人たちも。
失われた世代の現実…抜け出せない非正規のループ
「若い頃は、こんな生活になるとは夢にも思わなかった」
お弁当を口にしながら話す田中誠一さん(52歳・仮名)。お弁当のパッケージに目立つように貼られていたのは、「半額」と記されたシール。田中さんの近所のスー総菜では、閉店1時間前である19時に、賞味期限がその日中の弁当・お惣菜が一斉値下げ。「ピッ」という電子音とともに、「半額になりましたー」という店員の声が響くとか。その瞬間をじっと待つのが日課だといいます。
「今日は唐揚げ弁当が残っていたからラッキーでした。いつもはこんなにいいお弁当が残っていることはないから」
できるだけ安く夕食をすます。これが田中さんの処世術。このような生活を、かれこれ8年近く続けています。田中さんは、いわゆる「就職氷河期世代」のなかでも“はしり”の世代。戦後、日本が右肩上がりを続けていたなか、「大学を卒業しても仕事が見つからない」という事態に直面し、「どうやら日本はヤバいらしい」という雰囲気に包まれていたころです。
1995年3月大学卒業の田中さん。求人倍率は1.2倍で、前年の1.91倍から大きく低下しました。就職氷河期の最悪のときと比べると幾分ましではありましたが、田中さん、大企業のエントリーシートを何十枚と書きましたが、面接にすらたどり着けない日々が続き、そのまま大学卒業の日を迎えました。
田中さんは派遣社員として社会人生活をスタート。「派遣社員=堅苦しくない、自由な生き方ができる」というイメージも少なからず残っていた時代ではあったものの、徐々に待遇は厳しくなり、「生きていくので精いっぱい」という状況に陥ります。「いつかは正社員に」という希望を抱きながらも、毎日に必死過ぎて、ただ時が過ぎていったといいます。
初めて“雇止め”にあったのは30代後半。そこで改めて非正規社員の立場の弱さを痛感した田中さん。正社員の道を探りますが、生活のため、すぐに派遣の仕事始める――の繰り返し。気づけば50代となり、現在、手取り給料は月15万円ほど。都心から離れた家賃月5万円のアパートで1人暮らしています。
「こんなはずじゃ、なかったんだけどな」
ぶつけようがない怒り、惨め、情けない――さまざまな感情が入り乱れ、声をあげて涙することも。
突然の「雇止め」通告…52歳、再び職探しへ
総務省統計局『労働力調査(詳細集計) 2024年(令和6年)平均結果』によると、役員を除く雇用者5824万人のうち、非正規の職員・従業員は2,126万人。その割合は36.8%にのぼり、前年から0.2ポイント上昇しました。働いている人のうち、3人に1人は非正規雇用で働いています。
非正規雇用を選択した主な理由としては、「自分の都合のよい時間に働きたいから」で731万人。積極的に非正規を選んでいるといえるでしょう。一方で、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由で非正規雇用を選択している人は、男性89万人、女性91万人。このなかには、田中さんのように就職氷河期世代も。
「自己責任――そういわれても仕方がない。でも、それだけじゃなかったと言ってもらえたら、それだけで救われる思いです」
もう浮上することはない
もう救われることはない
諦めの境地にいる田中さん。3年間、事務職として真面目に働いてきました。人間関係も悪くなく、数少ない安定した場所でしたが、その平穏はあまりにも突然、終わりを告げます。先月、派遣会社の担当者から告げられたのは、「業績不振による人員削減のため、次回の契約更新はありません」という非情な通告でした。
「頭が真っ白になりました。またかと……これからどうやって生きていけばいいんだろう」
50代になり、派遣会社から紹介される仕事もぐっと減ったという田中さん。ハローワークのパソコンで求人情報を検索し、自力で仕事を見つけようと頑張っています。しかし、画面に並ぶのは、若い世代を対象とした求人や、専門的なスキルを要するものばかり。52歳、職歴は非正規のみという経歴では、応募できる求人は極端に限られてしまいます。面接にこぎつけても、年齢を理由にやんわりと断られることが続きました。
政府は不本意ながら不安定な仕事に就いているなどの課題に直面している就職氷河期世代に対し、支援プログラムを打ち出しています。しかし、その支援が隅々まで行き届いているとは言いがたいのが現状。一度、非正規雇用のループにはまると、年齢を重ねるごとに抜け出せなくなる――田中さんのように構造的問題に直面し、絶望の淵に立たされている人たちが、この社会には決して少なくありません。声なき声にどう向き合うべきか、社会全体が問われています。
[参考資料]
総務省統計局『労働力調査(詳細集計) 2024年(令和6年)平均結果』

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