
フジテレビのバラエティ制作部の部長がオンラインカジノを利用していたとして、6月23日に逮捕、24日に送検されました。24日には、同局の人気アナウンサーも書類送検されており、連日大きく報じられる事態になっています。
私的な賭博行為がメディア企業の信頼性にどう影響し、どのような処分が検討されうるのか、法的観点から考察します。
●オンラインカジノの違法性オンラインカジノでお金を賭けて遊んだ場合、検討されるのは次の2つの罪です。
・「単純賭博罪」(刑法185条、50万円以下の罰金または科料)
・「常習賭博罪」(同法186条1項、3年以下の拘禁刑)
なお、「常習性」の認定には、賭博の回数、期間、金額等が総合的に考慮されます。
度々誤解されるところですが、海外で運営しているオンラインカジノでも、日本で賭博行為の一部を行っていれば、賭博罪は成立します。近年多く検挙されているのもこのケースです。
●会社から懲戒処分を受ける可能性は?今回、摘発されたフジテレビの社員は刑事処分だけでなく、会社の懲戒処分を受ける可能性もあるのでしょうか。
会社が従業員に対して懲戒処分を行うためには、就業規則などに根拠があり、その規定が合理的であることに加え、懲戒処分自体の客観的合理性、社会通念上の相当性が必要とされています。
そして、懲戒処分とは、会社の企業秩序維持のために行われるものですから、原則として職場外での私的な行為については懲戒処分の対象とはならないことには注意が必要です。
もっとも、私的な行為が企業の社会的評価に重大な悪影響を与える場合は、懲戒処分の対象となりえます(最判昭和49年3月15日、東京地判平成27年12月25日、東京高判平成15年12月11日など参照)。
今回のケースでは、 出演番組や担当業務への具体的影響のほか、視聴者・スポンサーからの信頼性や企業イメージへの損害の程度、 本人の地位・職責の重要性などの事情を考慮し、重大な悪影響がある場合には懲戒対象となりえると考えられます。
●今回のケースではあくまでも報道内容を基にしたうえで、懲戒処分が下されるのであればという仮定にはなりますが、以下のような事情を考慮して処分が検討されることになるでしょう。
まず、バラエティ制作部長についてですが、賭けた金額がおよそ1億円とも言われており、非常に大きく、被疑事実も常習賭博と報じられています。バラエティ制作部の企画担当部長と地位も高く、フジテレビの業務に対する実際の影響も大きく、また社会的信用への損害の程度も大きいと考えられます。
また、アナウンサーは、この部長にオンラインカジノを教えてもらった趣旨のことも話しているという報道もあるようです。部長が社内でオンラインカジノを広めていたということになれば、重大な悪影響という評価はされやすいと思われます。
次にアナウンサーについてですが、およそ1250万円を賭けたと報じられており、金額は決して小さくないですが部長と比べれば少ないといえます。
しかしその反面、フジテレビのアナウンサーは、テレビ局の顔ともいえる存在ですから、社会的信用への損害の程度は大きいといえるでしょう。
したがって、両者とも、企業の社会的評価に重大な悪影響を与えるとはいえそうですから、何らかの懲戒処分を受ける可能性は十分あると考えられます。
また、影響の大きさからすると、それなりに重い処分がなされる可能性もあると思われます。
●今後の注目点刑事事件における最終的な処分が決まる前に、懲戒処分を下すことが出来るでしょうか。
原則として、無罪推定の原則があるため、刑事手続上の最終的な処分を待って懲戒処分を決めていくべきでしょう。現実にもそのような流れであることが多いと感じます。
当該社員の逮捕や起訴などにより、企業の社会的信用に重大な悪影響が及んでおり、速やかな懲戒処分が必要であることや、本人も罪を認めており、今後有罪判決が下される見込みが相当高いなどの事情が認められるなど、ごく限定的な場合に限って、最終的な処分を待たずに処分をすることにも合理性があるというべきだと考えます。
今後、捜査が進むことで、より詳細な事実が明らかになってくる可能性があります。 単純賭博罪は罰金刑が上限ですので、略式起訴か、特に初犯の場合は不起訴の可能性も十分あると思われますが、常習賭博の場合には起訴されて刑事裁判となる可能性も十分あります。
※本記事は公開情報に基づく法的観点からの考察であり、個別の事案についての断定的評価を行うものではありません。

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