フジテレビの親会社であるフジ・メディアホールディングス(HD)の株主総会6月25日に開かれた。

最大の注目となったのが役員人事。会社側と大株主であるダルトン・インベスメンツがそれぞれ10人余りの人事案を提出する異例の事態となっていた。

人事案はフジ・メディアHDが提案した11人全員が選任された一方、ダルトン側が推薦した12人の候補者はいずれも否決された。

フジ・メディアHDの完全勝利と言える内容だが、企業法務に詳しい浅井耀介弁護士は「勝負は持ち越し」との見方を示す。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)

⚫︎金光社長が謝罪、会場は長蛇の列

午前10時に始まった株主総会の冒頭、フジ・メディアHDの金光修社長は「フジテレビジョンにおける一連の事案により、皆様にご迷惑とご心配をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます」と陳謝。

そのうえで、「この事態を厳粛に受け止め、人権コンプライアンスの向上およびガバナンス改革を強力に推し進めております」と説明した。

報道によると、3000人を超える株主が出席。会場の有明アリーナには長蛇の列ができ、SNSでも注目を集めた。

⚫︎人事案は全て否決もダルトンの狙いは「一部実現」

人事案を巡ってはフジ・メディアHD側はフジテレビの清水賢治社長を除く、現経営陣の退任を提案。新たにファミリーマート元社長の澤田貴司氏らを含む11人を候補とし、そのうち清水社長を含む5人をグループ会社の人間で構成した。

一方、ダルトン側はSBIホールディングスの北尾吉孝会長など、12人全員を社外の人間で固める人事案を提出した。

採決の結果、フジ・メディアHDが提案した11人は賛成多数で全員選任、ダルトン側の候補者はいずれも過半数の賛同を得られず、取締役には選任されなかった。

この結果について、浅井弁護士は「必ずしもフジ側の勝利とは言い切れない」と分析する。

「投資家であるダルトン側の一番の狙いは株価の回復です。そのためには経営陣の刷新と旧体制からの脱却を図る必要がありました。

実はこれらは金光社長の退任などで株主総会前にある程度決着しており、その点ではダルトン側の狙いの一部は実現できたと言えます。

今後の経営を考えてても、内部の人材が一部残ることはダルトン側も想定していたと思います」

⚫︎オンラインカジノの影響は限定的

フジメディアHDの子会社であるフジテレビでは不祥事が続いている。第三者委員会は元女性社員が、中居正広氏から業務の延長戦上で、性暴力を受けたと指摘。

最近では、オンラインカジノで賭博をしたとして社員1人が逮捕、男性アナウンサー1人が書類送検されるなど、相次ぐ不祥事が明るみになっている。

報道によると、オンラインカジノに関する問題についても、株主から多くの質問が寄せられ、総会は長時間に及んだという。

この不祥事株主総会に与えた影響について、浅井弁護士は「タイミングとしては最悪だが、議決権行使の投票活動には大きな影響を与えていない」との見方を示した。

⚫︎スポンサー回復「すぐには難しい」

新たな経営陣の発足により、今後はスポンサーの回復を目指すことになるが、浅井弁護士は「すぐに戻るのは難しい」と分析する。

実際に経団連の筒井義信会長は6月24日、自身が取締役を務める日本生命に関し、「総会があって、すぐに(CMを)再開ということにはならないと考えている」と述べるなど、慎重な姿勢を示している。

「フジテレビから広告を撤退した企業の中には、撤退後も売り上げに大きな影響がなかったと感じているところもあるかも知れません。

そうした企業にとっては、フジテレビに対する広告を再開させることは『火中の栗を拾う』行為であり、メリットを考えると、難しいのではないかと思います」(浅井弁護士)

⚫︎フジVSダルトンの勝負は「持ち越し」

開催前から「フジ・メディアHD対ダルトン・インベスメンツ」という対立構図が注目されていた今回の株主総会。人事案の採決をもって一連の攻防は決着したかに見えるが、浅井弁護士は「勝負は持ち越しになった」と指摘する。

その背景にあるのが、フジ・メディアHDの経営を支える不動産事業だ。

「ダルトン側は安定した黒字経営が見込める不動産事業をフジ・メディアHDから切り離したいと考えている。しかし、残念ながら今回、それを進めるための取締役は1人も選任されませんでした」

今後の焦点として、浅井弁護士が挙げるのは臨時株主総会が開催されるか否かだ。

「もし、臨時株主総会が開かれれば、基準日が変わるため、株主の保有割合も変わります。ダルトン側が提示した候補者が取締役に選任される可能性は残されていると言えるでしょう」

【取材協力弁護士】
浅井 耀介(あさい・ようすけ)弁護士
国内旅行業務取扱管理者の資格を保有し、観光ビジネスや旅行業をはじめとして、学校問題や芸能案件、刑事事件を主に扱う。

事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/

フジHD株主総会、対立人事は完全勝利も「勝負は持ち越し」、スポンサー回復も茨の道