
私たちの食卓に欠かせないお米の価格が、ここ数ヶ月で大きく変動しています。前年比で価格が倍増していたコメが、ついに3,000円台へ。小泉農水相の就任直後の迅速な備蓄米放出が奏功したせいか、スーパーの平均販売価格は大幅に低下しました。消費者の物価上昇判断DIも連続で下落するなど、私たちの暮らし向きにわずかながら改善の兆しがみえています。本稿では、景気の予告信号灯としての身近なデータとして「5月全国消費者物価指数」「6月消費者マインドアンケート調査」を取り上げます。エコノミストの宅森昭吉氏の解説をみていきましょう。
前年比“倍”だったコメ価格がついに3,000円台まで低下
小泉農水相のスピード感を持った対応で、6月9日~15日のコメ5kgのPOSデータにもとづくスーパーの平均販売価格が3ヵ月半ぶりの3,000円台に低下。6月の物価上昇判断DIの低下につながった感あり。日本人の主食であるコメの値段が前年比ほぼ倍になっていたことが物価上昇判断DI止まりの主因のひとつになっていたと思われます。前回5月「消費者マインドアンケート調査」の調査期間最終日は5月20日だったので、5月21日に小泉進次郎氏が農水相に就任したあとの動きは、6月の「消費者マインドアンケート調査」で初めて反映されました。
小泉農水相は就任会見での発言どおりに「コメの高騰に対して、スピード感を持って対応」しました。備蓄米を随意契約で放出することで、割安な備蓄米の流通量が増えて明確に価格が低下しました。
農林水産省は6月23日に、全国のスーパーで6月9日~15日に販売されたコメ5kgのPOSデータに基づく平均販売価格が前週比▲256円安くなり、3,920円になったと発表。一昨年8月~9月以来91週ぶりの4週連続下落で、ついに2月24日~3月2日以来3ヵ月半ぶりの3,000円台に低下しました。
販売全体に占める備蓄米を含めたブレンド米などの比率が前週比6ポイント増加の50%ちょうどにまで高まり、価格全体を押し下げています。後述するように、6月「消費者マインドアンケート調査」の物価上昇判断DIは2ヵ月連続で低下しました。
高止まりの消費者物価指数のなか、目立つ生鮮野菜の低下
5月全国消費者物価指数では生鮮食品の前年同月比が5月は▲0.1%、21年10月の▲1.1%以来、43ヵ月ぶりに下落に転じる。一方、消費者物価指数はまだ5月分しか公表されていません。最新の5月全国消費者物価指数総合の前年同月比は+3.5%と4月の+3.6%から0.1ポイント低下しました。そのうち食料の前年同月比は+6.5%で4月と同じです。
内訳をみると、生鮮食品を除く食料の前年同月比が5月は+7.7%と、4月の+7.0%から0.7ポイント上昇率が高まりました。米類が4月の+98.4%から5月は+101.7%と3ケタの上昇率です。
一方、生鮮食品の前年同月比が5月は▲0.1%と、4月の+3.9%の上昇から21年10月の▲1.1%以来43ヵ月ぶりに下落に転じています。生鮮魚介が4月の+4.8%から5月は+4.0%、また、生鮮果物が4月の+5.5%から5月は+4.0%へと上昇率が鈍化しました。最も下落に影響したのが、生鮮野菜で4月の+2.6%から5月は▲4.7%になりました。加えて、主要青果物卸売市場の6月上旬の卸値の前年比は、野菜が▲4.7%、果実▲6.4%とともにマイナスです。
年初では野菜高騰が物価高の主因のひとつでしたが、足元で状況は大きく変化してきました。このことが5月・6月と連続して物価上昇判断DIが低下した要因のひとつだと思われます。

物価上昇判断DIが暮らし向きDIの変動の背景
25年6月の物価上昇判断DIは85.8と、4月87.9から5月87.0と2ヵ月連続で低下し、25年1月84.7以来の水準に落ち着く。
内閣府「消費者マインドアンケート調査」の暮らし向き判断DIと物価上昇判断DIの相関係数は16年9月から21年8月までの最初の5年間は0.01と無相関でした。しかし、21年9月から25年6月までの最近の3年10ヵ月間は▲0.68のマイナスで逆相関になっています。現状は、高い物価見通しが暮らし向き判断の足枷になる状況が継続していましたが、足元で若干の変化がみられます。

物価上昇判断DIは、調査開始から22年1月までは60台・70台で安定推移していましたが、ロシアがウクライナ侵攻した月の22年2月調査以降、物価上昇判断DIは80台・90台で、物価が上昇するという見通しが強まりました。
22年10月に90.4をつけたあと80台後半の高水準での推移が続き23年は6月の90.7をつけました。そこから振幅を伴いつつ24年9月の80.3まで一旦低下しましたが、反転上昇傾向になり、25年2月に90.2と20ヵ月ぶりの90台を記録。25年4月は87.9になりましたが、5月87.0、6月85.8と低下し、25年1月84.7以来の水準に落ち着きました。

回答の内訳比率をみると、25年6月は「上昇する」が51.8%まで低下し、2ヵ月ぶりの50%台になりました。増えたのは「やや上昇する」で41.1%と5ヵ月ぶりの40台。これが5月から6月に物価上昇判断DIが鈍化した背景です。

若干上向くものの、景況感の低水準値には要注意
24年10月から25年6月の9ヵ月間は、物価上昇判断DIが84以上の高水準に上昇し、暮らし向き判断DIは20台・30台の低水準である状況には変わりなし。暮らし向き判断DIは、24年10月から25年6月までの9ヵ月間は、逆相関の動きをする物価上昇判断DIが84以上の高水準であったことから、低水準の20台・30台になりました。
しかし、25年5月は28.0で低水準ですが、25.4だった4月から2.6ポイント、3ヵ月ぶりに上昇しています。6月は30.4と5月から2.4ポイント高まり、2ヵ月連続で合わせて5.0ポイント上昇し、25年2月の35.8以来4ヵ月ぶりの30台になりました。

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

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