
大阪府八尾市の整骨院で2024年9月、当時18歳だった女性客にわいせつ行為をして、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症させたとして、40代の男性院長が同年11月、不同意わいせつ致傷の疑いで書類送検された。
しかし院長は容疑を否認。大阪地検は2025年3月、客観的な証拠が乏しいなどとして不起訴処分とした。これに対して、被害を訴えた女性は今年6月23日、捜査のやり直しを求めて検察審査会に申し立てた。
取材に応じた女性は「PTSDになって精神科に通い、人生を壊されたのに、加害者は今ものんきに暮らしている。頑張ろうとしても、やっぱりつらいです」と語る。被害直後は「気持ち悪くて、すぐに服も体も洗った」という。(ライター・渋井哲也)
●ネットの口コミは「星5つ」だった女性はバイト中に腱鞘炎(けんしょうえん)を患い、別の整骨院に通っていたが、学校の多忙さから通院を中断。やがて症状が悪化し、肩こりや坐骨神経痛、腰痛も出てきたため、自宅から通いやすい整骨院を探すことにした。
インターネットで調べたところ、その整骨院は口コミの評価が高く、「星5つ」のレビューが並んでいた。信頼できそうだと思い、2024年8月下旬に予約した。
「体の痛みがひどくて我慢できなくなっていました。その日土曜日で、早めに診てもらいたかったくて、LINEで『最短でいつ空いていますか?』と問い合わせると、『朝8時50分はいかがですか?』と返信がきました」
施術は1回40分で、初回は朝9時30分頃に無事終了。その前後、院長との間であった会話について、女性はこう語る。
「問診票を記入していると、住所欄を見た院長が『俺もそこに住んでる』と話しかけてきました。あとは、『どうして腱鞘炎になったの?』『学校はどんなところ?』といった雑談でした」
個人経営の整骨院で、近所の客が多いのだろうと自然に受け止めた。施術後、「次の予約はいつにしますか?」と聞かれ、9月初旬の夜7時30分頃に再予約をとった。
「学校が終わるのが夕方で、地元に戻るのが夜7時過ぎ。帰宅してから整骨院に行くつもりでした」
●院長はLINE交換を求めてきた夜になり外は暗かったが、整骨院の中は明るく照明がついていた。受付スタッフや他の客の姿はなかった。
「その日の雑談も、学校や友だちの話でした。でも、院長は『妻子がいる』と言いながら『別の女性とデートする』と話し始め、『よかったらご飯どう?』『デート行こうよ』と誘ってきました。
施術中で体を預けている状態だったし、住所も知られていて怖かった。やんわりと『テストがあるんで…』と断ったんですが、『お姫様扱いしてあげるから、行こう』と言われました」
施術は8時10分頃に終わり、受付で会計を済ませて、次回の予約を決めようとしたとき、院長から「LINEを交換しよう」「2人だけの秘密ね」と言われた。しつこくされたくなかったため、仕方なく交換に応じた。
そして、スリッパを脱いで靴を履こうとしたそのとき、事件が起きたという。
●キスされたり、服の上から胸を揉まれた「院長が受付カウンターから出てきて、私の身長を聞いてきました。私は背が高いんですが、院長も高身長で、『ハグしたらちょうど良さそう』と言いながら、突然抱きしめてきました。
まったく予想していなかったので、『なんでこうなってるんだろう?逃げなきゃ』と思いましたが、怖くて動けませんでした」
院長はハグしたまま「奥に行こうか」と言い、手首をつかまれた女性は、そのまま施術室へと連れて行かれた。
「院長は施術台に座り、私を正面に立たせて抱き上げました。向かい合って、膝の上にまたがるように座らされました。股間が当たって、本当に気持ち悪かったです」
その後、院長は女性の首に3回キスをし、服の上から両手で胸を触ったという。
「首にキスされたあと、『マスク外して。キスしたいから』と言われました。でも気持ち悪くて『嫌です』と拒否しました。拒否すればやめると思ったんですが、止まりませんでした。
『マスク越しでもいいからキスしよう』と言われ、『この人、何を言っているの?』と混乱しました。『ここで死ねるなら舌を噛み切って死にたい』とも思いました。
『胸、何カップあるの?』と聞かれて、服の上から顔を胸に押しつけられました。右胸を左手で触り、下着の中に手を入れて乳首をなで回しながら『気持ちいい?』と聞いてきました。私は『汚いからやめてください』と言いました」
それでも、院長は止まらなかったという。
「左のお尻をズボンの上から触り、ズボンの中に手を入れようとしてきました。私は生理中だったのでパニックでしたが、『生理なので…』と言うと、『わかった、じゃあ帰ろうか』と言われ、自分で膝から降りました。
すると、院長は『2人だけの秘密ね』と言いました。『ここで泣いたらダメだ』と思いながら、靴を履いて外に出ました。院長は『バイバイ』と、ニコニコしながら見送っていました」
整骨院を出たのは、夜8時27分。周囲の防犯カメラにその様子が映っていたことが、警察の捜査でわかった。外に出ると涙が止まらず、友だちに電話したがつながらず、LINEで相談した。
帰宅したのは、夜9時前。親にバレないよう、こっそり部屋に入った。スマホには、院長から「今日はありがとう」とLINEが届いていて、パニックに陥った。
●書類送検から半年後、不起訴処分に被害を受けてから、女性は学校に通えず、布団から出られない日々が続いた。両親には心配されたが、迷惑をかけたくないと思い、黙っていた。
被害から2日後、警察庁の性犯罪被害相談電話「#8103(ハートさん)」に電話した。すると、相談員からは「加害者の妻から浮気相手と誤解され、慰謝料を請求される場合があるから被害届は出さないほうがいい」と言われたという。
次の予約はすでにとっていたが、行きたくなかったため「コロナにかかった」とウソをついた。院長から「体調どう?」とLINEが届き、再びパニックになった。
友だちにすすめられて、NPO法人「性暴力救護センター・大阪SACHICO」に連絡した。スタッフから「お父さんとお母さんが一番守ってくれるから話したほうがいい」と助言を受けた。母親に「話したいことがあるから帰ってきて」と連絡し、泣きながらすべてを打ち明けた。
約1週間後、女性は被害届を提出。大阪府警八尾署が受理した。友だちとのLINE履歴、電話の発着記録、自傷行為の写真、PTSDの診断書なども添えた。
院長は不同意わいせつ致傷の疑いで書類送検されたが、逮捕されることはなく、整骨院の営業も停止されなかった。書類送検から半年後、不起訴処分が決定された。女性は、そのときの心情をこう吐露する。
「性犯罪の証拠を残すには、被害直後に警察に行って、指紋や体液を採取しないと難しい。でも、触られたあとなんて、気持ち悪くて服も体も洗ってしまう。『汚い、汚い』って思っていました。それでも、周りに相談したり、病院に行ったり、NPOに頼ったりしました。
ずっと同じことを訴え続けても、加害者が『やってない』と言えば逃れられる。PTSDになって精神科に通い、人生を壊されたのに、加害者は今ものんきに暮らしている。頑張ろうとしても、やっぱりつらいです」

コメント