
近年は、人生の残された時間を病院ではない場所で過ごすために「終末期医療を自宅で受ける」という選択肢が注目され、浸透しつつあります。訪問診療クリニックの需要が拡大するなか、良質な診療サービスを維持するためには、経営における収支バランスを整えることが不可欠です。たとえば、診療に使用する医療機器や衛生材料のなかには、診療報酬とは別に算定できるものがあります。それが、特定保険医療材料です。本記事では、特定保険医療材料制度と医科歯科関連における報酬の算定について、医療法人あい友会理事長の野末睦医師が解説します。
特定保険医療材料制度
特定保険医療材料とは、材料価格が定められている医療機器や関連ツール、衛生材料のことです。特定保険医療材料は診療報酬とは別に算定することができます。詳細は、特定保険医療材料制度にて定められています。特定保険医療材料制度が示す材料価格の基準とは、医療保険から保険医療機関等に支払われる際に決められた価格です※1。
在宅医療で規定されているものは、たとえば、腹膜透析液交換セットや、在宅中心静脈栄養用輸液セット、在宅寝たきり患者処置用気管切開後留置用チューブなどです。一口に特定医療材料といってもさまざまなものがありますが、やはり在宅医療の現場で頻繁に登場するのは、褥瘡などの治療に使う皮膚欠損用創傷被覆材です。創傷被覆材は多種多様で、それぞれに特徴があります。症状に合ったものを適切に使用することが大切です。
一方で、こうした特定保険医療材料は処方箋で処方するということもできます。ところが、在宅医療で使用される特定保険医療材料として規定されているものがすべて、医師が交付する処方箋に基づいて薬局が給付できる訳ではないので注意が必要です。
たとえば、前述の皮膚欠損用創傷被覆材は処方箋にて処方できます。一方で、同じく在宅医療で使用される特定保険医療材料である膀胱瘻用カテーテルや交換用胃瘻カテーテルなどは、処方箋では処方できません。それらの線引きを最初から把握しておく必要があります※2。
在宅医の存在意義
もし「皮膚科の領域だから自分たちのクリニックで褥瘡は診られない」といってしまえばそれまでです。ですが、やはり患者さんのすべてのことを診る、というのが在宅医の存在意義でもあります。そのため、褥瘡の治療でも特定保険医療材料を適切に使い、よりよい処置ができれば、患者さんにとっては恩恵です。医療従事者にとってもやりがいに通じると思います。
訪問診療の現場では、どういった症状のときに、どのようなものをどう使うか、迅速な判断が求められます。そしてそれらはどのように算定するのか、ということは、当初から身についていればもちろんいいのですが、やはり、現場で一生懸命勉強していただくのが一番ではないかと思います。
※1 参考:特定保険医療材料制度|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000284x4att/2r98520000028rgj.pdf ※2 参考:特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001219123.pdf
医科歯科関連における報酬
在宅医療において、歯科の治療を必要とすることは少なくありません。そのため、私たちのグループでは、クリニックによりますが、医科と歯科と、両方の機能を持っているところもあります。
歯科の活躍する場面として、第一に挙げられるのは口腔ケア、口腔健康管理です。看護師や医師だけではなく、歯科医師、歯科衛生士にケアに携わっていただくと、とてもいい成果を得ることができています。
次に挙げられるのが、入れ歯の調整です。入れ歯の状態は、患者さんが食事をしっかりととれるかどうか、という点に深くかかわっており、食事は心身の健康にも直結するため、とても重要な役割だといえます。それ以上の治療となると、訪問歯科の診療にも限界があるため、場合によっては患者さんを通常の歯科医院に連れて行って診療していただく、ということもあります。このように訪問歯科には一般歯科とは異なる役割があり、訪問医科、つまり訪問診療との連携が重要です。
一方で、歯科には医科とは異なる算定ルールがあります。医師の側から歯科に治療の依頼をしたり、ケアのための連携を組んだり、ということも大切ですが、そのうえで歯科にもきちんと適切な診療報酬が入るように意識していく必要があります。
正直なところ、歯科の診療報酬は、医科と比べると、非常に低く設定されています。前述したように私のグループでも医科と歯科、両方の機能を備えたクリニックがありますが、歯科の方の経営状況はかなり厳しく、なかなか黒字化できないのが現状です。
「必要なことだから、赤字でも一生懸命やりましょう」ということで口腔ケアや入れ歯調整をしていますが、なかなか黒字にならない、重要な役割を担っているはずなのに。という実態を考えると、歯科単独でやっているクリニックはなかなか経営が苦しいのではないか、とお節介ながら心配になってしまいます。
口腔ケア、口腔健康管理の重要性が全身の健康維持につながる予防ケアとしても再確認されている昨今、真摯に訪問歯科に取り組む歯科医の方は数多くいらっしゃいます。しかし、黒字化できない状況を考えると、ボランティアのような状況も多いのではないかと思います。本当に頭の下がる思いですが、収益が見込めなければ、診療を持続することは厳しいでしょう。どうにか採算がとれるようにならないか、私自身、模索を続けています。
野末 睦 医師
医療法人 あい友会 理事長

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