「残クレ」という言葉をご存じでしょうか? これは「残価設定型クレジット」の略で、自動車ローンの一種です。“残クレ・アルファード”なるミームが出回るなか、ネット上では「残クレは損をする」「デメリットしかない」といった否定的な声も少なくありません。しかし、はたして本当にそうなのでしょうか? 辻本剛士CFPが具体的な事例をもとに、「残クレ」のしくみと活用方法を紹介します。

最近話題の「残クレ」とは?

近年、自動車の購入方法として注目を集めているのが「残価設定型クレジット」、通称“残クレ”です。

SNSを中心にミーム化していることから、“残クレ・アルファード”という言葉を聞いたことがある、関連するコンテンツを見聞きしたことがある、という人も多いのではないでしょうか?

実際、トヨタファイナンスが提供する自動車ローンでは、利用者の約73%が残価設定ローンを選択しているとのこと。このように、現在多くの人が“残クレ”の仕組みを活用していることがわかります。

「残価設定型クレジット(残クレ)」とは、数年後の車の査定額を「残価」として据え置き、車両価格からその残価を差し引いた金額のみをローンで支払う仕組みです。これにより、月々の返済額を抑えて新車に乗ることができます。

たとえば、新車価格が300万円で、5年後の残価が150万円と設定された場合、下記のように車両価格から残価を差し引きます。

300万円(車両価格)-150万円(残価)=150万円

そして、車両価格から差し引いた残価150万円について、契約期間で分割して支払っていく仕組みです。なお、金利は残価を含めた車両本体価格全体(300万円)にかかります。

契約期間終了時(3〜5年後)には、その後の取り扱いについて以下の3つの方法から選択することができます。

・残価(据置額)を支払ってそのまま車を所有する

・車を返却して新車に乗り換える

・車を返却して契約を終了する

どの方法が適しているかは、ご自身の生活スタイルや車の利用頻度によって異なります。

残クレは月々の返済額を抑えられる一方、利息が増えるケースも

残クレ(残価設定型クレジット)のメリット

車を購入する際に残クレを活用するメリットは、主に下記の3つです。

・月々の返済額が少なく済む

・下取り価格が保証されている

定期的に新車に乗り換えやすい

残価を設定することで、月々の返済額を抑えられるのが残クレの大きな魅力です。契約時に将来の下取り価格(残価)が保証されているため、契約期間中に市場価値が下がっても、その影響を受けずに済みます。

たとえば先述の例でいうと、新車価格300万円の車に対し、3年後の残価を150万円と設定した場合、仮に3年後の中古車相場が120万円に下がっていても、150万円での引き取りが保証されます。

契約期間は3〜5年が一般的で、数年ごとに車を乗り換えたい人にとっては使い勝手のよい購入方法といえるでしょう。

残クレ(残価設定型クレジット)のデメリット

一方、残クレには下記のようなデメリットも存在します。

・トータルでの支払額が高くなりやすい

・走行距離制限や車両状態に制限がある

・カスタマイズが制限される

残クレは「月々の支払分にだけ利息がかかる」と思われがちですが、実際には残価を含む総額に利息がかかります。特に残クレを利用するような高級車の場合は残価も大きくなるため、そのぶん利息も増える点は意識しておきたいところです。

また、走行距離の上限が設けられており、これを超えると買取保証が無効になったり、追加料金が発生したりすることがあります。さらに、契約中に生じたキズや事故による損傷がある場合、返却時に原状回復費が請求されることもあるため、事前に内容をしっかり確認しておくことが大切です。

実際、小さな傷でも原状回復が必要とされ、数十万円の高額な修理費を負担することになったなどのトラブルも起きています。

とはいえ、この「残価設定クレジット」をうまく使いこなしている人がいるのも事実です。

今回紹介する69歳の松永さん(仮名)は、なぜ“あえて”残クレを選んだのでしょうか。

堅実な家計で年金暮らし…車の乗り換えを検討する松永さん

松永徹さん(仮名・69歳)は、妻と2人暮らしです。数年前に長年勤めた会社を定年退職し、現在は月に25万円の年金で無理のない生活を送っています。これまでの堅実な家計管理のかいあって、貯蓄は退職金と合わせて約3,000万円貯まりました。

もともと几帳面な性格の松永さん。自宅の部屋は常に整頓されていて、床に物が置かれていることはまずありません。洗濯物もきちんと畳んで押し入れにしまい、タオルの端が揃っていないと落ち着かないほどです。

車の運転においても、その几帳面さは健在です。発進はゆっくりブレーキも早めに踏む。交差点では必ず一時停止を守り、安全運転を徹底しています。常に周囲に気を配りながらハンドルを握るその姿勢のおかげで、これまで交通事故はもちろん、すり傷をつくったことすらありません。

そんな松永さんはいま、5年間愛用してきた車を手放し、新しいものに乗り換えようと考えています。

「次はどんな車にしようか」

その思いを胸に、ワクワクした気持ちでパンフレットを見比べる松永さんです。

老後資金はとっておきたい…ニーズが合致し、今回も“残クレ”を選択

週末、松永さんは妻とともに近所のディーラーを訪れました。

「そろそろ新しい車に買い替えようかと思っていましてね」

松永さんがそう伝えると、担当販売員もにっこりと頷きました。実は、この店舗には何度か足を運んでおり、いま乗っている車もこのディーラーで購入したもの。このとき初めて残クレを利用しました。

手元には3,000万円というしっかりとした貯蓄があるものの、これは老後の生活資金として「できるだけ取り崩したくない」という思いがあります。加えて、将来的に免許を返納することになった際、車の処分を考えるのも手間です。

「あと数年だけ、新車に安心して乗れたらそれでいいんです」

松永さんのニーズは、まさに残クレと相性がよいものでした。

今回松永さんが選んだ新車の本体価格は300万円です。残クレを利用した場合、5年後の残価は150万円と設定され、ローンの金利は3.9%。毎月の返済額は約3万3,000円におさまります。

通常のカーローンで購入した場合、月々の返済額はおよそ5万5,000円になるため、月に2万円以上も支出を抑えることができる計算です。

「年を重ねると、あと何年車に乗れるかわかりませんからね。だったら、負担を減らして気軽に乗り換えられる方法を選びたいんです」と松永さんは語ります。

さらに「僕の性格上、車はいつもピカピカに洗うし、安全運転が基本です。走行距離もそこまで多くないので、追加の費用が発生するリスクはほとんどないと思っています」と、自信をのぞかせました。

「高齢者には向かないって声も聞きますけどね、むしろ高齢者こそ残クレを使わないと損ですよ」

松永さんの言葉には、これまで丁寧に暮らしてきたからこその説得力がありました。

「残クレ=悪」ではない…ケースバイケースで有効に活用可能

インターネット上では「残クレはやめたほうがいい」「損をするだけ」といった否定的な意見が目立ちます。たしかに、契約内容を十分に理解しないまま利用してしまうと、思わぬ出費やトラブルに見舞われる可能性もあり、注意が必要な制度であることは間違いありません。

しかし、残クレがすべての人にとって悪かというと、そうではないでしょう。ケースバイケースで、むしろ残クレのメリットを最大限に活かせる人も存在します。

松永さんのように「あと数年だけ新車に乗れればいい」「現金には極力手をつけたくない」といった希望がある人にとっては、残クレは理にかなった選択肢です。

特に、普段から車を丁寧に扱い、走行距離も多くない場合、返却時の追加費用のリスクもほとんどありません。

サービスの特徴を正しく理解し、自分のライフスタイルや将来の見通しに照らして判断すること。それが、賢く残クレを活用するための第一歩といえるでしょう。

辻本 剛士 神戸・辻本FP合同会社 代表

(※写真はイメージです/PIXTA)