
人間の脳を破壊し凶暴化させるウイルスによる恐怖を描いた『28日後...』(02)、『28週後...』(07)に続くシリーズ最新作『28年後...』が現在公開中だ。イギリスを舞台に、未曾有のパンデミックによって文明が崩壊した社会、決死のサバイバルを繰り広げる生存者たちのドラマを映しだしてきたこのシリーズ。いま一度、前2作がどんな作品だったのかを“28”のトピックで振り返ってみたい。
【写真を見る】パンデミック発生の28年後を舞台に、進化した感染者と生存者との生き残りを懸けた攻防が描かれる『28年後...』
■人間を凶暴化させるウイルスのパンデミックと恐怖を描く『28日後...』
まずはシリーズ第1作『28日後...』から。物語は、ある研究施設を過激な動物愛護家のグループが襲撃するところから始まる。彼らの目的は実験動物のチンパンジーを解放することだったのだが、そのチンパンジーは危険な感染症にかかっていた。制止する研究員を意に介さず、チンパンジーを檻から出した活動家は噛まれて負傷してしまう。激しく苦しんだのち、その活動家が獣のように凶暴化。周囲の仲間や研究員たちに次々と襲いかかっていく。それから28日後…。交通事故に遭い、入院していたメッセンジャーのジムが昏睡状態から目覚める。しかし、病院には誰もおらず、物が散乱しているだけ。わけがわからないままゴーストタウンとなったロンドンを歩き続けるジム。たどり着いた教会で彼が目撃したのは、大量の死体とウイルスに感染し、凶暴化した牧師だった…。
■ダニー・ボイル&アレックス・ガーランドによる名タッグ、キャスト陣も豪華!
1:名監督&名脚本家の初タッグ
監督は『トレインスポッティング』(96)が大ヒットし、のちに『スラムドッグ$ミリオネア』(08)でアカデミー賞監督賞(作品賞を含む計8部門を獲得)を受賞したダニー・ボイル。脚本は監督デビュー作『エクス・マキナ』(14)でアカデミー賞脚本賞にノミネートされ、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)の大ヒットも記憶に新しいアレックス・ガーランド。ガーランドは小説家でもあり、以前にもボイルは彼の著作を『ザ・ビーチ』(00)としてレオナルド・ディカプリオ主演で映画化している。このほか、2人のタッグでは真田広之出演の『サンシャイン 2057』(07)がある。
2:主演はのちのアカデミー賞受賞俳優
主人公ジムを演じたのはクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』(23)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィ。『28日後...』を機に世界的にブレイクし、『バットマン ビギンズ』(05)に始まる「ダークナイト・トリロジー」3部作など数多くのノーラン作品に出演。ボイル作品では『サンシャイン 2057』でも主演を務めている。
マーフィ以外では、感染者に襲われたジムを助け、行動を共にすることになるセリーナ役で「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのティア・ダルマ役で知られるナオミ・ハリスが出演。2人が出会う生存者親子の父親フランクを「ハリー・ポッター」シリーズ、『パディントン2』(17)、『イニシェリン島の精霊』(22)の名優ブレンダン・グリーソンが演じている。
3:走るゾンビの衝撃
血に飢えた感染者が生存者を猛スピードで追いかける光景が大きな話題に。これ以前にも『バタリアン』(85)で走るゾンビが登場したが、『28日後...』公開時には「バイオハザード」シリーズ、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)などが公開され、走るゾンビが次々と現れた。現在までのジャンル体系に与えた影響は大きい。
4:ゾンビではない
一般的にゾンビとは死者が蘇ったものを指す。そのため、ゾンビ映画にも分類される本作だが、劇中に登場するのはゾンビではなく、あくまでもウイルスに感染した人間。生きながらに理性を失い、凶暴化した。
5:レイジウイルス
感染源はある実験の被検体として暴力的な映像を見せ続けられていたチンパンジー。レイジ=怒りに支配されることで感染者からは思考能力が消え、非感染者を見つけると身体のリミッターを外して全速力で襲いかかるようになってしまう。血液や唾液などを通じて感染し、眼球は充血して赤黒くなり、感染から20秒ほどで発症する。
6:あくまでも彼らは人間
状態がどうあれ、“人間”である感染者はなにも食べなければ飢餓によって死に絶える。『28週後...』でも感染者たちが5週間で死滅したと語られていたが…。
7:ロゴ
20世紀FOXのロゴが映しだされる際に、あえておなじみの映像と音楽が意図的にずらされている。
■無人のロンドンは実際に交通封鎖をして撮影
8:低予算映画
製作費は800万ドルと比較的低予算ながら、全世界で8270万ドル以上の興行収入を記録し、批評的にも大成功を収めた。
エキストラを雇用する余裕がなく、感染者役にはボランティアが起用されている。ボイルとガーランドによるDVDのオーディオコメンタリーのなかでは、ボランティアたちにコーヒーや紅茶を振る舞ったこと、凶暴性を表現した演技が素晴らしかったことが語られている。
10:ロンドンを交通封鎖
ジムが無人のロンドンの街をさまよい歩くシーンでは、実際に早朝のロンドンを封鎖して撮影が行われている。また、ジムが目覚めてから立ち寄った教会で大量の死体を発見するまで、死体はおろか血も映っていない。しかしこの演出によって、無人になった世界の異様さが表現できたとボイルは語っている。ちなみに、コメンタリーでのガーランドによると、走行する車がちらっと映り込んでいるらしいのだが、ボイルはそれを笑い飛ばしている。真偽はいかに?
11:教会に大量の死体がある意味
大勢が救いを求めて教会にやって来たことが示唆されている。これはルワンダ内戦を捉えた映像に着想を得たと語られており、荒廃した世界を描くにあたってほかにも、シエラレオネ、カンボジア、北アイルランドなどでの内戦や紛争が参考にされている。
12:ロンドンでの撮影は大変
『28日後...』よりも前でボイルが大変だったと振り返るのが、『トレインスポッティング』におけるユアン・マクレガーのトイレのシーンと『ザ・ビーチ』でのディカプリオとの撮影。ロンドンのシーンもこれらに匹敵する大変さだったとのこと。
13:デジタルカメラで撮影
「家庭用のビデオカメラが普及したことで低画質な記録映像が残されているはず」と考え、本作はデジタルビデオカメラ「Canon XL1」で撮影されている。ザラついた映像が荒廃した世界の独特な雰囲気を醸しだした。ちなみに、『28年後...』ではiPhoneも使用されており、感染者の集団が生存者を追いかけるシーンでは特殊な器具にiPhone 15 Pro Maxを20台も並べて撮影したという。
■黙示録的な世界を盛り上げる音楽たち
14:ジョン・マーフィーによる劇伴
劇伴を手掛けたのはリバプール出身の作曲家、ジョン・マーフィー。『サンシャイン 2057』に『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23)などにも携わっている。サウンドトラックの一曲「In the House - In a Heartbeat」は特に有名で、次作『28週後...』はもちろん、『キック・アス』(10)など他作品でも使用されている。
ジムがロンドンをさまよい歩くシーンで流れているのは、カナダのポストロック・バンド、ゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーによる「East Hastings」。もともと音楽を流す予定ではなかったが、乗り捨てられた車のサイレンが突然鳴りだすシーンで観客を過度にびっくりさせないために使用したという。結果的に不穏で重厚なサウンドが黙示録的な世界観をより際立たせることになった。『28年後...』のクライマックスでもこの曲が使用され、『28日後...』とはまた違った印象を与えている。
■より悲劇的なエンディングがあった
16:異なるエンディング
ジム、セリーナ、フランクと彼の娘ハンナは、ラジオで放送されていた安全とされる軍の基地を目指すことに。しかし、目的地に着いたところで感染したフランクが兵士によって射殺され、セリーナ、ハンナは捕えられ、ジムも処刑されそうになる。この窮地をジムが感染者たちを扇動することで脱する。それから28日後、高原の小屋に避難していた3人が偵察機に発見されるところで物語の幕は閉じられる。
このエンディング以外にもいくつかの結末が用意されており、DVDの特典映像でそれらを確認することができる。基地から脱出する際、軍の指揮官に腹部を撃たれて重傷を負うジム。別エンディングではこの傷がもとで彼は死んでしまう。ジムを病院へ運び込み、必死に救命処置を行うセリーナとハンナがその死を見届け、悲しみに暮れるなか、再び銃を手に取り、廊下を歩いて去っていく後ろ姿にはどこか明日への希望も感じさせる。
17:異なるエンディング2
大筋は上記と一緒。死の淵にいるジムに被さるようにメッセンジャーの仕事をしている彼の姿、事故に遭う瞬間が映しだされている。
18:異なるエンディング3
こちらはストーリーボードの段階で見送りになり、実際には撮影されていない。感染したフランクをロープで縛り、治療法を求めて映画冒頭に登場する研究施設へとたどり着いたジムたち。施設内には内側から施錠された部屋があり、そこに潜んでいた生存者を発見する。
19:治療法はあったが…
その生存者は研究所の職員だと思われ、彼からウイルスの治療法を聞きだしたジムたち。しかしそれは、体に流れる全身の血をすべて入れ替えるというもの。3人は途方に暮れるがそこへ大勢の感染者が押し寄せてくる。絶体絶命のなか、ジムとフランクの血液が適合することが判明。反対するセリーナとハンナを押し切り、ジムが自身の血液をフランクに提供しようとする。
■一度はウイルスを封じ込めるもさらに絶望的状況に陥ってしまう『28週後...』
前作から5年を経て製作されたシリーズ第2作『28週後...』。パンデミックから28週間後のロンドンが舞台だ。ウイルスが壊滅的な被害をもたらしたのち、アメリカ軍主導のもとでロンドンの一部が安全地帯として再建され、帰還者を受け入れ始める。しかし、隔離地域内で一人の男がウイルスを発症してしまったことから再び感染が拡大。この事態をなんとか抑え込もうとする米軍だったが、感染者だけを排除することは不可能と判断し、無差別攻撃に転じていく…。
■のちのアメコミヒーローたちが出演
20:28週後が舞台の続編
監督はスペイン出身のフアン・カルロス・フレスナディージョにバトンタッチ(共同脚本も兼任)。ボイル、ガーランドも製作総指揮で参加している。
21:主人公が新たな感染者に
主人公はパンデミックを生き延びたドン。感染者から逃げる際に妻アリスを見捨ててしまい、そのことで強い罪悪感を抱いている。しかし、アリスには先天的な免疫がありウイルスは発症しておらず、なんとか生き延びていたところを発見される。ドンは隔離中のアリスに会いに行き、謝罪してキスを交わすが、そこからウイルスに感染してしまう。罪悪感が激しい怒りになったことで彼女を殺害し、新たなパンデミックを引き起こすことに。
22:ドン役はロバート・カーライル
男性ストリップショーを題材にした『フル・モンティ』(97)でブレイク。このほか、『トレインスポッティング』、『ザ・ビーチ』、『T2 トレインスポッティング』(17)、ジョン・レノンを演じた『イエスタデイ』(19)といったボイル作品にも出演している。
『ハート・ロッカー』(08)、「アベンジャーズ」シリーズのホークアイ役でおなじみのジェレミー・レナーが出演。感染が拡大し、米軍による殲滅作戦が実行されるなか、命令に反してドンとアリスの2人の子どもたち、タミーとアンディの姉弟を救おうとするデルタフォースの狙撃手、ドイル軍曹を演じている。銃の腕前が超一流という設定はホークアイにも通じる役どころだ。身を挺して子どもたちを守ろうとし、米軍が放った火炎放射器で焼殺されるという壮絶な最期を迎える。
24:イドリス・エルバも出演
「マイティ・ソー」シリーズのヘイムダル役で知られるイドリス・エルバ。感染拡大を抑え込もうと「コード・レッド」を発令するが、作戦遂行は困難と判断し、感染者、生存者を問わずに殲滅することを決定するストーン准将を演じている。
25:ウイルスへの免疫
アリスのようにウイルスに対して免疫を持つ人間の存在が明らかに。タミーとアンディにその性質が受け継がれているかが物語のカギとなる。
26:感染者となったドン
アンディを執拗に追い回すドン。街中にナパーム弾や毒ガスが投下されても生き延び、姉弟を保護する軍の医務官スカーレットを奪ったライフルで撲殺するなど凄まじい執念を見せる。
27:より残酷にスケールアップ
前作の成功によって製作費がアップ。アリスの目を潰して殺害するドン、無差別に発砲し続けるスナイパー、ナパーム弾で焼け死んでいく人々など残酷なシーンも多くなり、ヘリコプターのプロペラが感染者たちを次々に八つ裂きにしていく光景はまさに地獄絵図。
28:絶望的なエンディング
アンディに覆い被さる父ドンをタミーが射殺。大量の血を浴び、噛みつかれたアンディだが免疫を持っていたために発症はせず、2人はヘリコプターに乗って脱出することに成功する。しかし28日後、墜落したのか無人になったヘリコプターの機内では助けを求める無線の声が響き渡り、エッフェル塔に向かって駆けて行く感染者たちの姿も映しだされるなど、パンデミックがヨーロッパ各地へ拡大したことが示唆されて終幕する。
■進化した感染者が生存者に襲いかかる『28年後...』
監督のボイルと脚本のガーランドが再タッグを組んだシリーズ第3作『28年後...』。キャスト陣には、アーロン・テイラー=ジョンソン、ジョディ・カマー、レイフ・ファインズといった面々が出演。最初のパンデミックから28年後を舞台とし、イギリスが国土を封鎖するなか、感染を逃れて孤島で独自のコミュニティを築いて暮らす人々のドラマが描かれる。隔絶された島内は安全だが、かつて5週間で餓死すると言われていた感染者たちはいまも本土に潜んでいる。予告編で体が肥大化した個体が確認できるほか、“アルファ”と呼ばれるウイルスによってさらなる進化を遂げた突然変異体も登場する。
名タッグ、ダニー・ボイルとアレックス・ガーランドが描く新たなサバイバルスリラー『28年後...』。徹底したリアリティと臨場感を追求した終末世界をスクリーンで目の当たりにしてほしい。
文/平尾嘉浩

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