
この記事をまとめると
■全日本ジムカーナ選手権の第5戦「北海道オールジャパンジムカーナ」が開催された
■ジムカーナ界のレジェンドである山野哲也選手にその魅力を聞いた
■ジムカーナの魅力はやっぱり運転がうまくなるということ
ジムカーナの魅力ってなんだ?
全日本ジムカーナ選手権の第5戦「北海道オールジャパンジムカーナ」が6月21〜22日、北海道砂川市の「オートスポーツランドスナガワ」を舞台に開催。第1ヒートは雨/ハードウエット、第2ヒートは曇り/セミウエット&ドライといったように異なるコンディションとなったが、それでも各クラスで激しいタイム争いが展開された。
それにしても、事前にコースを覚える完熟歩行を行なったあと、わずか2回のタイムトライアルでリザルトを決するジムカーナ競技は、極めてシンプルなカテゴリーだ。それゆえにステップアップするに従って、奥の深さを体験することになるのだが、マシンに関してはロールケージやガード類が不要で、ほぼノーマルの状態でも参戦可能になっていることから、やはり、ジムカーナはほかのカテゴリーよりも敷居が低く、モータースポーツの入門に最適なカテゴリーだといえるだろう。
つまり、ジムカーナに関しては、ロードスターやGR86/BRZなどのFRスポーツ、GRヤリスなどの4WDスポーツ、さらにスイフトやヤリスなどのFFモデルまで、自分の愛車で公式戦に参戦可能で、ワイディングやサーキットのスポーツ走行と違って緊張感のあるタイム争いを体験可能だ。
というわけで、ここでは全日本ジムカーナ選手権で24回のチャンピオン経験をもつレジェンド、山野哲也選手を直撃。第5戦の北海道ラウンドの会場で、ジムカーナ競技への参戦に必要な準備、そしてジムカーナ競技の魅力について伺ってみた。
──まず、ジムカーナを始めるにあたってソフト面で必要なものは何がありますか?
山野選手:競技にもよりますが、JAFの公式戦に参戦する場合は国内B級ライセンスが必要になります。あとはドライバーに関する準備としてはいわゆるレーシングギアが必要です(注:全日本選手権はヘルメット、レーシングスーツ、レーシンググローブ、レーシングシューズの着用が義務付けられている)。
──クルマに関してはどうなんでしょうか?
山野選手:規定に合わせなければいけないけれど、基本的にはノーマルのままでも競技に出場できますよ。
──たしか、牽引フックをつけるとか、そういうレベルの話ですよね。そうやって考えると、やはりジムカーナは敷居が低いですよね。
山野選手:同じ入門カテゴリーでもレース競技ではロールケージやシートベルトなど安全面で装備しなければならない部品が多いので費用がかかってしまう。でも、ジムカーナはそこまでの費用をかけずに手軽に参加できますからね。そこが最大のメリットです。
──なるほど。とはいえ、競技に出るようになって、ある程度、スキルアップをしてきたら、それに応じて必要な部品が出てきますよね?
山野選手:そうですね。より高いレベルになってくると、ブレーキパッド、あとはダンパーとスプリングです。この3点は必要になってきますし、うまくなればなるほど、コーナリング時にGがかかるので、バケットシートと4点式以上のシートベルトが必要になってくると思います
もっとも手軽なモータースポーツのひとつでありながら奥が深い
──これだけ揃ってくると立派な競技車両になってきますね。ところで、ジムカーナはむちゃくちゃエントリーしやすい競技ということがわかりましたが、最大の魅力はなんでしょうか? 先ほど、ホワイトボードに「運転がうまくなる!!」と書いていただきましたが、どのような意味でしょうか?
山野選手:ジムカーナの魅力はやっぱり運転がうまくなるということです。私がジムカーナを続けている理由はそこにあって、タイムを出すために試行錯誤することでマシンのコントロールがうまくなる。
——マシンのコントロールという意味ではほかのカテゴリーでもスキルアップしますよね?
山野選手:マシンの限界値でコントロールするのはほかのカテゴリーも変わりませんが、ジムカーナの速度域は60km/hぐらいで一般道にかなり近い。たとえばサーキットのレース競技では200km/hの速度が出ることもあるけれど、そこでクラッシュしちゃうとドライバーとクルマに対するダメージが大きい。でも、ジムカーナは速度域が低いので、仮にカードレールにぶつかったとしても、廃車になるようなことはほとんどないと思います。安全マージンを確保しながら、クルマの限界値まで攻めることができるところが、ジムカーナの特徴だと思います。
──なるほど。でも、飽きたりしませんか?
山野選手:飽きないですよ。というのも、ジムカーナのコース設定は自由度が高いので、同じコースで走ることはあまりない。スラロームや180度ターンでも、組み合わせの仕方でいろんなレイアウトができるから、同じオートランドスナガワでも常にフレッシュな気もちでチャレンジすることができる。もちろん、競技当日に発表されたコースを覚えなきゃいけないし、2回目の走行のときに合わせなければいけないから、ビギナーにはハードルの高い部分ではあるけれど、そこが面白いところだと思います。順応力が求められるけれど、競技の経験を重ねていくと、自然と運転の技量は上がっていきます。
──最近は女性ドライバーが増えてきましたし、年配のドライバーも多いけれど、ジムカーナはそんなに体力は必要ないんでしょうか?
山野選手:運動会にたとえると、ジムカーナは“100m走”に近いので、持久力はほとんど必要ないです。私の場合、耐久レースでは3時間連続で走行することもありますが、ジムカーナはどんなに長くても1分50秒ぐらいのコースなので短期決戦です。そのぶん緊張感もあるし、集中力が必要になりますが、そこまで体力は必要ないと思います。
──なるほど。ちなみにジムカーナに運動神経は必要ですか?
山野選手:球技の運動神経と運転の運動神経は違いますからね。ドライビングは操作系の運動神経なので、イメージ的にはジェットコースターのなかで陶芸をやっているような感覚に近いと思います。陶芸では繊細な部分が必要だと思うんですけど、ドライビングもアクセルやブレーキに関してはミリ単位でコントロールする繊細な部分もありますからね。それにモータースポーツは着座スポーツだから、ほかのスポーツと違って足の筋力がそこまで必要ではないから、比較的に高年齢になっても競技を続けることができる。私は今年60歳になるんですけど、その年齢になっても優勝争いできるところも魅力だと思います。
──60歳!? むちゃくちゃ若く見えますね。でも、ジムカーナで運転がうまくなるなら、スポーツカーのオーナーはチャレンジしたほうがいいですよね。
山野選手:運転がうまくなると、一般道での危険回避のテクニックが身に付きます。事故の回避とモータースポーツはすごく似ていて、どちらもフルブレーキングしてステアリングを切る行為ですよね。そういった技量が自然に身につくし、危機管理という意味では、“ここはブレーキを踏んだほうがいい”といった判断力も身につきます。
──それはいいですね。そのほか、ジムカーナのテクニックが役立つことはありますか?
山野選手:ジムカーナで身につけたコントロール技術はほかのカテゴリーに行っても活かすことができます。私の場合はジムカーナを経験してからレース競技にチャレンジしましたが、スーパーGTでもチャンピオンを取ることができました。ちなみに全日本ラリー選手権でもSSベストを取っていますし、全日本ダートトライアル選手権でも優勝していますが、ジムカーナで得た技量はほかのカテゴリーでも通用するので、ステップアップカテゴリーとしてもいいと思います。
このようにジムカーナ競技は手軽に参加できるほか、経験を重ねることでテクニックが向上。そのスキルはほかのカテゴリーでも通用するほか、一般道での危険回避にも効果を発揮するだけにスポーツカーオーナーはチャレンジしてみてはいかがだろうか?

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